クラシックで貴族風の装いが勢いづく中、じわじわ人気が広がってきたのが、19世紀英国風のヴィクトリアンテイストです。装飾的な立ち襟が目を引くヴィクトリアンブラウスは、シンボリックなアイテム。フリルやリボンなど、さまざまなディテールが施され、古風でノーブルなムードを呼び込める点が魅力です。
写真の「アダム リップス(ADAM LIPPES)」をはじめ、2020年プレ・スプリング・コレクションでは、多くのブランドからヴィクトリアンブラウスが発表されました。フェミニン濃度が高めのヴィクトリアンブラウスに、キュロット×ロングブーツを合わせ、ジェンダーミックスに仕上げています。高い襟は顔周りにまで貴婦人ムードを漂わせます。ヴィクトリアンブラウスのような品格のあるアイテムには、別テイストを添えることがコーディネートのコツです。詳しく見ていきましょう。
◆パンツスーツやテーラードジャケットでハンサムレディーに
英国のヴィクトリア女王が在位した1837~1901年当時の装いがヴィクトリアンテイストのベースになっています。装飾性の高さに特徴があり、ゴシックロリータの源流ともいわれます。フリルや刺しゅう、レースはヴィクトリアンの象徴的なディテールです。
フェミニンな飾り襟付きのブラウスには、テイストの異なる紳士服やミリタリーなどのウエアを引き合わせると、バランスが整います。「テンパリー ロンドン(TEMPERLEY LONDON)」は軍服風のセットアップに、ヴィクトリアンブラウスを組み込みました。細身のスティックパンツもメンズ風で、シャープな着映え。襟周りと袖口からフリルをあふれさせて、ブラウスの持ち味を引き出しています。
フェミニン×マスキュリンのミックスコーデに仕上げるなら、トレンド継続中のテーラードジャケットも使えます。写真2枚目の「ラファイエット 148 ニューヨーク(LAFAYETTE 148 NEW YORK)」はたおやかなブラウスに、上から着丈が長めの男顔ジャケットをオン。りりしいムードを添えました。デイリーに着回すなら、デニムパンツでドレスダウン。裾広がりのシルエットはカムバックが見込まれている70年代調です。
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◆甘さを抑えて“大人かわいい”レイヤードに
ヴィクトリアンブラウスならではの愛らしい雰囲気を押し出す着方も選べます。ただし、ガーリーに映りがちなので、さじ加減が肝心。襟の部分だけをネックレスやスカーフのような雰囲気でアレンジするレイヤード術が有効です。
「フィロソフィ ディ ロレンツォ セラフィニ(PHILOSOPHY DI LORENZO SERAFINI)」はブルーのブラウスに、肩ラッフルをあしらったピンクトップスを重ねて、フリルの競演に。デコラティブな上半身とは逆に、レザーのショートパンツでボトムスはフェティッシュ感を強調。甘さを出し過ぎず、スパイスを効かせました。
色味をまとめると、ガーリーでも幼く見えにくくなります。写真2枚目の「ケイト・スペード ニューヨーク(KATE SPADE NEW YORK)」は淡いパープル系で全体を統一するワントーンの装い。ニットトップスの首回りから、ヴィクトリアンブラウスの襟だけをのぞかせ、まるでネックレスのような印象に。ブラウスを目立たせすぎないレイヤードは、着こなしのレパートリーを広げてくれます。
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◆ストリートやプレッピーと“複雑系”コーデに
襟のクラシック感を逆手に取って、全く異なるテイストの装いに交わらせるコーデも組み立てられます。たとえば、ストリート系やプレッピーのスタイリングに組み込めば、程よいカオス(混沌)を引き起こせます。
ヴィクトリアンブラウスをケープのように使って、絶妙なハイブリッドコーデを仕掛けたのは、「エムエスジーエム(MSGM)」。ブラウスのボタンを一番上だけ留めて、フロントをオープン。インナーのプリントTシャツを大胆にのぞかせました。ボトムスはアスレチックなパンツで合わせ、足元も白ソックスで軽やかにコーディネート。レディーライクなバッグを添えて、一段と複雑なミックスにまとめ上げています。
写真2枚目の「エトロ(ETRO)」も入り組んだスタイリングを披露。タッセル風のリボンをあしらったブラウスの上から、プレッピー気分のニットトップスを重ねました。さらに、若々しいショートパンツを合わせて、アクティブ感をプラス。ガウンのようなロングアウターを羽織り、パンツとの長短丈違いコーデで、縦長イメージを際立たせました。ノーブルなブラウスを軸に据えながら、マルチなテイストを響き合わせています。
お嬢様テイストを薫らせるヴィクトリアンブラウスなので、時に淑女ムードで、時にマニッシュにと、表情を変えながらマルチに着回すことが出番を増やす秘けつです。首を飾るフリルのおかげで、顔周りが華やぐのも、ほかのブラウスにはない魅力でしょう。1枚で着ても品格を保ちやすいので、薄着になっていく春から先にも使い勝手に優れたアイテム。重ね着が楽しめる春先は、“複雑系”のミックスコーディネートデビューにぴったりです。
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ファッションジャーナリスト・ファッションディレクター 宮田理江:多彩なメディアでコレクショントレンド情報、着こなし解説、映画×ファッションまで幅広く発信。バイヤー、プレスなど業界での豊富な経験を生かし、自らのTV通版ブランドもプロデュース。TVやセミナー・イベント出演も多い