ニューヨークを拠点に活動するデザイナー、エミリー・アダムス・ボーディ(Emily Adams Bode)の「ボーディ(BODE)」が、2020-21年秋冬コレクションを1月18日パリで発表した。パリ・メンズ・ファッション・ウイークに参加するのは前シーズンに続いて2回目。アトランタ出身のボーディは、パーソンズ美術大学(Parsons School of Design)でメンズファッションデザインと哲学を専攻し、「マーク ジェイコブス(MARC JACOBS」と「ラルフ ローレン(RALPH LAUREN)」で経験を積んだ後、16年に同ブランドを始動した。翌年には、メンズウエアの女性デザイナーとしては初めてニューヨーク・ファッション・ウィークに参加。昨年、アメリカファッション協議会(CFDA)による「CFDAアワード」のエマージング・デザイナー賞を受賞するなど、業界が注目するアップカミングなデザイナーである。
今回のパリコレ参加のためにニューヨークから引き連れてきたスタッフは10人程度だ。現在30歳のボーディが率いるチームは、20代中盤とかなり若い。バックステージでは年齢層の低い「ボーディ」チームとフランス現地のプレスチームが準備を進めていた。腕全体にタトゥーが入った男性、鼻ピアスに刈り上げたヘアスタイルの女性も「ボーディ」のクラフト感溢れる衣服に身を包み、各々の着こなしを楽しんでいる。リハーサルを待っている間、彼らは私語を全くせずにバックステージはずっと静かだった。それはボーディの緊張が空気で伝わってきていたからかもしれない。彼女はスタイリストや演出家、音楽担当らと話しをしながら、1階の会場と2階のバックステージを何度も往来する。マフラーの巻き方やバッグのストラップの位置、ウオーキング時の手の位置など細かい部分までボーディが確認と指示出しを重ね、結果的にパリでのショーはミスなく終えられた。
絶妙なバランスの色彩やシルエット
親近感も織り交ぜた高い完成度
今季のテーマは“The Education of Benjamin Bloomstein”と銘打った。彼女の友人であり、コラボレーション相手であるベンジャミン・ブルームステインの学生時代が着想源となっている。プレスリリースには、ブルームステインが小学校から高校までに何度も転校を重ねる度に、それぞれの土地で熱中した趣味などが綴られていた。結局、彼は高校を中退して樹木管理士の下で修行を積み、現在は樹木の家具やオブジェを作るデザインスタジオを主宰している。彼女は、過去のコレクションで幼少期の休暇や祖父母の家の屋根裏部屋での思い出を着想源にするなど、個人的な経験や感情から生まれる服作りを大切するデザイナーである。
ファーストルックは、学生服のようなブレザーのセットアップ。いくつかのルックに書かれた文字は、ブルームステインが学生時代に書いた詩だという。デザインコンテスト「インターナショナル・ウールマーク・プライズ(International Woolmark Prize)」の2020年度ファイナリストに選出されている、100%トレーサビリティー(追跡可能性)のメリノウールを使ったプルオーバーやクロシェットも登場した。19世紀に掛け布団として使用されていた布やインド北部で長年技術が継承されている貴重な絹織物やビンテージのシルクリボンのキルト、20世紀のデッドストックの生地やワッペンがコレクションを形成する。人間味感じるハンドワークは、背景にノスタルジックな物語を想像させた。スイスで何世代にも渡り変わらぬ手法で生産する「アッペンツェラー・ガート(Appenzeller Gurt)」のアップリケもルックに華を添える。カントリームード漂う衣服だが、野暮ったさとは無縁。色彩やシルエット、スタイリングといった全ての要素が絶妙なバランスで構成された完成度の高さは見事である。
コンセプチュアルで突飛なデザインでない限り、リアルクローズとして提案される衣服に目新しさを感じることは少ない昨今だが「ボーディ」は例外だった。手仕事による温かみや懐かしさといった親近感と、初めて味わう新鮮さも共存しているからだ。懐古主義的に過去を肯定して現在を否定するのではなく、重ねた時間にリスペクトを示し、現代に合った新しいスタイルを提示する——そんな彼女の心意気が感じられた。