伊藤忠ファッションシステム(以下、ifs)は、1月23日に新春フォーラムをアンダース東京で開催した。毎年、その年の消費者動向などをテーマとして顧客向けに講演やディスカッションを行ってきた同フォーラムの今年のテーマは“これからの10年にどう向き合うか”だ。130人が出席する中、10年後の人々の暮らしと、それを踏まえた企業の動きについて探るトークセッションと、2030年に向けたキーワード発表の2部制でイベントは行われた。
第一部のトークセッションには、コンサルティング会社スノーピークビジネスソリューションズのエヴァンジェリストであり、地域・まちづくりなどを行うNPO法人ハマのトウダイ共同代表の岡部祥司氏と大和ハウスのマンション事業推進部 企画建設推進部次長の瀬口和彦氏の2人と、ifsマーケティング開発グループの太田敏宏氏が登壇。人口減少や働き方の変化、技術革新、消費マインドの変化、そしてオフィスや居住といった場の変化という時代背景をもとに、ifsナレッジ開発室の小原直花氏進行のもと、トークセッションは行われた。
議論はまず「働き方・暮らし方の変化」のお題でスタートした。東京オリンピック・パラリンピック期間中の“スーパーテレワーク”をはじめ、現在、社内でテレワークを推進しているという大和ハウスの瀬口氏は、自身も1週間ほど本社には顔を出さず、テレワークを実施したところ「自身の仕事に集中できるため、効率が非常に上がった」という。一方、「比較的自由な社風だ」というスノーピークビジネスソリューションズの岡部氏は「テレワーク一つを取っても、“スノーピークらしい”テレワークとは何か?を考えるようにしている」と、企業のアイデンティティーを踏まえた上での働き方改革の重要性を説いた。議論では、公園やマンション内にワークスペースが生まれるなど、生活の場と居住の場の融合が進む可能性も示唆された。
続いて話し合われたのが、「消費の変化」。モノの均質化の進展や、CtoCマーケットの普及などによる所有の概念が変わる中で、岡部氏自身も「僕のことを分かってくれている周囲の人たちが、それぞれの専門分野で僕に合いそうなモノ・サービスをリコメンドしてくれる。そういった関係性の軸が消費に影響を与え始めている」という。瀬口氏は「家の購入も考え方が変わっている。20代の部下も、『今売っているような家は買いたくない』と言っている。必要最低限の部屋と設備だけを購入し、そのほかは大型キッチン搭載の車などを呼び出すなど、必要に応じた随時カスタマイズも生まれてくるだろう」と予測する。
トークセッション最後のテーマは、「あらゆるものの境界線があいまいになる」。ifsの太田氏は例として「SC・アウトレットに行く目的」を上げる。「目的の第一義が買い物ではなくなり、レジャーや散歩になっている」と説明する。そのほかにも、「今まで競合ではなかった企業が競合となる」と瀬口氏が話すように、当初設けたはずのさまざまな境界線があいまいになる中で、企業はどのように対処していくべきなのか。岡部氏と瀬口氏は2人とも「企業のアイデンティティーに今一度立ち返ることが重要だ」と語る。岡部氏は「アイデンティティーを失うと、手段と目的がごちゃまぜになってしまうことも多い。自分たちは何をする会社なのかについて、常に考えるようにしている」という。
第二部は、トークセッションの内容も踏まえた、2030年に向けたキーワードがifs発行の「FA流行誌 フューチャーアスペクト」をベースに、ナレッジ開発室の中村ゆい氏から発表された。2020年を位置づける「解始(かいし)する」にはじまり、19年と同じく自分がどうあるべきか、ではなくどうありたいかを考え、行動することを指す「好動(こうどう)する」、感覚として重視すべき「無理をしない」、今後10~20年後の時代感として必要な「課題=ズレに向き合う」、生活者が求める「心の余白と充足」、コミュニケーションの基本である「分断しない・否定しない」の計7つのキーワードを発表。これから先の生活や企業の在り方の変化を考えさせる内容でイベントは幕を閉じた。
伊藤忠ファッションシステム
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