ファッション

実は食の選択肢が少ない日本はオリンピック需要に応えられるのか?

 先日来日した主にフランス人で構成された海外テキスタイルメーカーのチームとの会食で、チームにビーガン(肉や魚、卵や乳製品など動物性食材を一切とらない)の人がいたが、会場になった名門ホテルのレストランにはビーガンやベジタリアン(肉や魚を食べない)用のメニューがなく、人々はサラダのツナをよける形で対応していた。外資系スポーツブランドやラグジュアリーブランドに勤める友人からも「本国スタッフが来日したときの食事が大変。ビーガン対応のレストラン知らない?」と聞かれることが増えたし、実際困っている人は多い。

 1月5日に行われたゴールデン・グローブ賞(Golden Globe Awards)の授賞式の食事は初めての試みとしてビーガンのメニューが提供されて話題になった。気候変動への問題意識からだと複数のメディアが報じていた。

 ビ―ガンはもともと動物愛護や宗教上の理由から、あるいは健康のため(編集部注:ビ―ガン食ではB12の摂取が難しいためサプリメントで補う必要があり完璧な健康食とはいえない)に選ぶ人が多かった。しかし、最近では環境負荷が低いからという観点でビーガンやベジタリアン食を選ぶ人が増えている。昨年、ロンドン芸術大学の循環型ファッションを専門とするレベッカ・アーリー(Rebecca Early)教授への取材でも、彼女も「これからの世代はかつてなくビーガンが増える」と指摘していた。

「週に1度肉を食べない」選択は
環境負荷を抑える大きな一歩

 私自身もビーガンやベジタリアン食を選ぶことが増えた。理由は、肉食に比べて環境負荷が低いから。先に言っておくと私はCO2を大量に排出する飛行機にも乗るし、お肉も会食などでいただくことはある。ストイックに環境への負荷を抑えるための生活に取り組めている訳ではないが、できる範囲で個人レベルでの環境負荷を減らせないかと考えながら日々選択するようにしている。

 例えば、東京・羽田と英ロンドンをエコノミークラスで往復すると、1人あたり約1.2トンのCO2を排出するといわれている。相当な量だ。一方、畜産におけるCO2排出量は全世界の温室効果ガス排出の18%ともいわれており、中でも牛は、呼吸や排泄物でメタンガスを多く排出する。

 地球で起きていることを知るたびに胸が痛むし、問題が大きすぎて途方に暮れる――そう感じている人は多いのではないだろうか。私が出した個人レベルでできることの一つの答えが「なるべくお肉を選ばないこと」だった。サステナブルファッションの先駆者であるデザイナーのステラ・マッカートニー(Stella McCartney)にインタビューしたときに彼女が、「週に1度お肉を食べるのを控えるだけでものすごいインパクトよ!1週間移動するのをやめるのと同じくらいの影響がある」と話していて、「そんなにか!」と畜産による環境負荷の大きさを知った。ステラは「完璧じゃなくていいの。私もビーガンと言えればいいのだけど、週に1度チーズを食べるからベジタリアンなの」と話していたのが印象的で「完璧じゃなくていい」という言葉にも日々、救われている。できる範囲で“選ぶ”ことが大切なんだと思う。

食の自由度が低い日本、
オリ・パラへの不安

 そうした中で、東京オリンピック・パラリンピックを前に東京でビーガンやベジタリアン食を選べる機会が少ないことに危機感を抱くようになった。ほとんどのレストランでビーガンやベジタリアン用のチョイスがない。「アレルギーはありますか?」と聞かれることは増えたが、メニューにアレルギー表記があるレストランはまだ少ない。ましてやビーガンやベジタリアンの表記はほとんどない。

 もちろん、ビーガンやベジタリアン専門のレストランは増えたが、友人と食事をする際に、「ビーガン(orベジタリアン)レストラン行こうよ」とはなかなか言い出せず、一般的なレストランでもビーガンやベジタリアンのチョイスがあればみんなが楽しめるのに、と感じることは多い。

 7~9月にはオリンピック・パラリンピックのために世界中から、それこそ多様な人たちが東京にやってくるが、今の日本に彼らの食を満たすことができるのだろうか。宗教や動物愛護、健康や環境、アレルギーなど理由はさまざまだが、そうした食の需要に応えられるレストランはどれだけあるのだろうか。ちなみに出張などでヨーロッパに行く機会が多いが、ビーガンやベジタリアン用のメニューを用意しているレストランは多い。そしてビーガンレストランがかなりのスピードで増えていると感じる。

 もし、レストランやホテルを運営している人が読んでいたら、ぜひ選択肢を増やすことを検討してほしいと思う。はるばる日本にやってくる多くの人たちに、食事も楽しんでほしいから。

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