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“バーバリー・ショック”の後遺症が長引くわけ エディターズレターバックナンバー

※この記事は2019年10月31日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから

“バーバリー・ショック”の後遺症が長引くわけ

 10月30日、三陽商会の岩田功社長の退任が発表されました。同日発表した2020年2月期(決算期変更に伴う14カ月の変則決算)が4期連続の営業赤字になりそうだという下方修正を受けて、事実上の引責辞任です。

 三陽商会は15年6月末、売上高の半分を占めていた「バーバリー(BURBERRY)」ブランドのライセンス契約が終了しました。世にいう“バーバリー・ショック”です。大きな穴を埋めるべく「マッキントッシュ ロンドン(MACKINTOSH LONDON)」をはじめとする後継ブランドの育成に取り組み、当初は18年12月期の営業損益の黒字化を掲げてきました。経営企画担当役員としてポスト・バーバリー戦略の立案に携わり、17年1月にトップに就任した岩田社長はデジタル関連企業のM&Aや若手・中堅社員の声を生かした組織改革に取り組んできました。しかし結果を残すことができず、経営責任を取らざるを得なくなりました。

 なぜ“バーバリー・ショック”の後遺症が長引いてしまったのでしょうか。

 最大の要因は三陽商会の主戦場である百貨店の低迷といえます。もちろん、同社も百貨店の市場縮小は織り込み済みでしたが、それが想定以上のスピードで進んでしまった。百貨店での販売規模を維持しながら、手薄だったショッピングセンターやネット通販(EC)などの新規事業を育てるシナリオに狂いが生じたのです。

 三陽商会は、真面目なモノ作りで発展したアパレル企業です。デザイナーやパタンナーといった技術者を社内で雇用し、かつてに比べれば減ったとはいえ国内自社工場も維持しています。1990年代以降、これらの機能を商社などにアウトソーシングするアパレル企業が圧倒的多数になる中、アパレル企業らしいアパレル企業といえます。近年、同社が売り出している“百年コート”はそんなクラフツマンシップの象徴です。

 三陽商会を支持していたのは、いわゆるミドルアッパー層。日本では分厚い中間層が大きなマーケットを形成してきましたが、昨今は欧米並みに所得の二極化が急速に進んでいます。三陽商会が提案する「中の上」の衣料品は、拠り所を急速に失っているのが現状です。人口ボリュームの大きい団塊世代はすでに70歳前後で、さすがに消費は先細りしています。一方、若い世代で「中の上」を求める消費者もいますが、彼らの多くは平成の時代に急成長したセレクトショップの服を買います。ECの影響云々よりも、「中の上」の市場縮小と、セレクトショップとの競争激化の影響の方が大きいと思われます。

 今月はじめに国内外の店舗の大量閉店計画を明らかにしたオンワードホールディングス、一度発表した希望退職者の募集を撤回したレナウンも、ほぼ同様の背景です。

 三陽商会は来年1月1日付で中山雅之新社長による新しい体制に移行します。きわめて厳しい状況を打破するためにどんな手を打つのか、注目されるところです。

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