2019年のビューティを振り返ってみると、アニバーサリーイヤーを謳うブランドが多くあったという印象があります。「ファイブイズム バイ スリー(FIVEISM × THREE)」の1周年を始め、「アットコスメ(@cosme)」の20周年、「ナーズ (NARS)」の25周年、「資生堂ギャラリー」の100周年など、周年と聞くとそのブランドの歴史を改めて知りたい、ブランドについて考えてみたいと思う人はきっと私だけではないはず、と思うのです。そう思うと19年は、とりわけて10周年を迎えたブランドが多くありました。10周年のブランドがデビューした09年ごろはどんな時代だったのでしょう。
09年に誕生したブランドと言えば、「アディクション(ADDICTION)」や「THREE」が代表格。90年代後期からその兆しのあったアーティストブランドの誕生は、ビューティを取り巻く意識や生活環境への変化が見られるようになった時代です。また、今や確固たるものになったと言えるオーガニックやナチュラルコスメが注目されてきたのもこのころから。今、新しいスタンダードになりつつある“クリーンビューティ”の概念は、「10年前は、まだなかった」と角美千子rms beauty PRが言う通り、その言葉を聞いたこともありませんでした。この10年、大きく時代が変わりブランドも淘汰される中で、生き残ってきたブランドが、10周年にそれぞれに記念アイテムを発表しました。ブランドが打ち出したアニバーサリーイヤーを消費者はどのように受け止めたのでしょう。気になる反応などとともに、新しい10年がスタートした今、10年代の最後の年について考えます。
待望のベースメイクに投影するブランドのアイデンティティー
「アールエムエス ビューティー(RMS BEAUTY)」が誕生した10年前、現在のナチュラルコスメとはそのイメージは大きく異なりました。“クリーンビューティ”という考え方が誰も常識になると思っていなかった時代であり、高品質でピュアな成分のみを使用して発色や質感を損なわないナチュラルコスメブランドをつくることは、不可能とされていたためです。「その常識を打ち破ったのが、創設者であるローズ・マリー スウィフト。化粧品が原因で体調を崩したことをきっかけに、ずっと健康で美しくあり続けることの手助けをしたいという強い思いから実現しました」(角美千子アールエムエス ビューティーPR)。
ブランドデビューから10周年、日本上陸5周年を迎えた19年10月にはブランド初となるクリームファンデーションを発売しました。「保湿力の高いオーガニックオイルを豊富に配合した、まるでスキンケアのようなファンデーションです。とろけるように滑らかなテクスチャーが、少量でも肌にすっとなじみ、ナチュラルな仕上がりなのに、カバー力があると幅広い年齢の方から好評を得ました。素肌のような艶感を与えるので、ノーファンデ派の方にもご愛用いただいております」と10周年にふさわしいアイテムの発信が好調に推移する。「肌に優しく自然な仕上がりで長期的にみて健康的でなければ、『アールエムエス ビューティー』の目指す“クリーンビューティ”ではありません。肌本来の持つ力を活かすスキンケアのようなベースメイクはブランドのアイデンティティーでもあります。新たなクリームファンデーションの発売によって、その思いをもう一度伝えたかったのです」と語り、時代が追いついてきた“クリーンビューティ”を今後も発信する。
世界で活躍するメイクアップアーティストの感性と高い開発力を結集
グローバルな経験と感性を持ったメイクアップアーティストをディレクターに迎えてデビューした「アディクション(ADDICTION)」。「自らの努力で魅力に磨きをかけ、美しくなることによって"幸せな人生"を引き寄せたい、と考える現代女性の価値観の変化に着目したことから始まりました」と松塚雅代アディクションPRは振り返る。その美への飽くなき探究心を持つ現代女性に向けたブランドは、「10年の間に誕生した名品ともいえるものから人気のカラーまでを、それぞれのコンセプトに合わせたコンパクトに詰め込むことで、まさに『アディクション』の10年を象徴するものとしてつくりました。インパクトがありながら、それぞれとても使いやすく便利な点が多く、多くのお客さまにご来店いただくことができました。タッチアップを希望される方が列をなす店舗のあるほどです」と語る。特に人気が高かったのは、「アディクション コンパクト 10 リミテッドエディション ザ コンパクト アディクション」と「アディクション コンパクト 10 リミテッドエディション アイコンシャス アディクション」でした。
さらに、ブランド初のフレグランスも10周年を機に発売した。デビュー時より、「アディクション」を体言する香りをつくることはかなえたいことの一つであったとした上で、「世界的な調香師であるミシェル・アルメラック氏との出会いにより、理想とする以上の香りが出来上がり、10周年というタイミングで発売するに至りました。フレグランスは香ってみないとわからないこともあり、新規のお客さまも試香のためにご来店いただいておりました」と新客獲得に一役買いました。
ブランドを進化させる“ファインド ユア バランス”の新コンセプト
ホリスティックビューティや地産地消などのキーワードで生み出されるスキンケアとメイクアップアイテムを携えて09年にデビューした「THREE」は言わずと知れた、ナチュラルコスメブランド市場成長の立役者です。19年のアニバーサリーイヤーは、10月と11月に限定アイテムを発売しました。渡邉裕一THREE マーケティングディビジョン ゼネラルマネジャーは「10周年にふさわしい豪華なパレットは、昔から『THREE』を使ってくださっていた顧客さまから、まだ『THREE』のメイクアイテムを使ったことがない新客のお客さままでとても好評でした」といい、「同じ時期に、オーラルケア(歯磨き粉、洗口液)など新たなカテゴリーを発表し、挑戦し続ける姿勢にブランドの面白さと期待感を感じていただけたと思います」という言葉からは、まだまだ勢いを感じます。
11月に発売したパレットは、10周年を機に刷新したキーメッセージである“ファインドユア バランス”をテーマにしています。「THREE」の多面性を見せるメイクアイテムとして開発をスタートしたというもので、全顔を作れるメイクパレットはブランド初。そんな今回の10周年記念アイテムや色について「今まで人気のあったカラーに今の時代のニュアンスをプラスして展開することで、今までとこれからの『THREE』を表現した」と語ります。さらに、10周年を機にブランドブックとブランドを象徴する女性像のビジュアルも発表。「ブランドの本質とメッセージ、根底にあるフィロソフィーを表現し、ほかにはマネできない独自性を感じていただけたと思っています」と意気込みます。百貨店の売り場も11月から順次新カウンターデザインを採用して一新させたのは、より「THREE」らしさ、更なる進化を感じてもらえるような空間を表現したいという考えからで、ブランドの旗艦店であるTHREE AOYAMAも11月に全コンテンツをフルリニューアルしました。
ブランドとともに歩み続けるネイルオイルで回顧する
“うれしいことが、世界でいちばん多いお店”をコンセプトに掲げ、ユニセックスのヘアサロンの「エクセル(EXCeL)」から、現在の「ウカ(uka)」へと大きくシフトチェンジしたのが10年前です。渡邉弘幸ウカ代表取締役CEOは、「新ブランド名とロゴ、ビジョン、それを象徴する商品としてネイルオイル、すべてを同時に発表しました」と回顧します。「ウカ」のシグネチャーであり続けるネイルオイルは、これまで毎年限定のアイテムを発売していますが、「10周年を迎えられた感謝の気持ちに、深い尊敬と愛情を込めた2本を追加しました。ブランドの歩みを振り返るという意味で、これまでのアイテムを『ウカ ネイルオイルをリミテッドエディション』として復刻しました」。ネイルカラーやボディーケアなど多くのアイテムを発表し注目を集める「ウカ」ですが、ネイルオイルの人気は変わらず高いと言います。今回、10本の限定セットを発売したことでブランドを象徴するアイテムであることを表現していました。
「ブランドに対する応援の気持ちから、記念として購入してくださるお客さまが多くいらっしゃいました。また、ネイルオイルとともにご自身の思い出を聞かせてくださることもあり、励みになりました」と話し、10年という歩みが刻まれていると感じます。
ピンクに彩られたビューティツールに込めた思い
母体となる、貝印の100 周年事業の一環という背景で09年にデビューした「コバコ(KOBAKO)」。永富千晴美容ジャーナリストをアドバイザーに迎えたビューティツールブランドで、第一線で活躍しているビューティアーティストとのコラボレーションアイテムも人気です。その「KOBAKO」が、19年4月から20年3月まで4回にわたってアニバーサリーアイテムを発表。中でも、ピンクをキーカラーにしたアイラッシュカーラー コレクションは注目度が高かった。「アニバーサリー一連のコレクションのテーマカラーにピンクを選びました。ブランドを続けてきた10年間で、どんな時でもお客さまから一番リクエストの多かったのがピンクだったことがその理由です」と竹内けい貝印 マーケティング本部 プロジェクトユニット コバコ プロジェクト ブランドマネージャーは話してくれました。ピンクにこだわることで顧客への感謝の気持ちを表すとともに、女性を象徴するカラーと言えるピンクをきっかけに新しいビューティーツールにトライしてほしいという願いも込めたと言います。
「『KOBAKO』のアイテムを改めて知っていただけるよう、展開中のさまざまなカテゴリーを網羅。メイクツール、ネイルケア、ミラー、スキンケア、その中から人気のツールをピックアップしました」。20年1月までに発売した第3弾までは、いずれも反応はよくこれまで「コバコ」を知ることのなかった新客の獲得につなげることができたという。「特に、SNSの影響によって店頭に20歳前半の若いお客さまが増えたと感じています」と語ってくれました。
10年を生き残ってきたブランドが発表したアニバーサリーアイテムは、次の10年に向け顧客・新客ともに満足させるアイテムがそろっていました。
渡部玲:女性誌編集部と美容専門の編集プロダクションに勤めた後、独立。2004年よりフリーランスの編集者・ライターとして雑誌やウェブなどの媒体を中心に活動。目下、朝晩のシートマスクを美容習慣にして肌状態の改善を目指している