ファッション

暖冬vsアパレル企業 天候に負けないビジネスモデルは可能か

 暖冬がアパレル企業に打撃を与えている。多くのアパレル企業は“秋冬偏重”だ。シャツやカットソーなど単価の低い春夏物は利幅が小さいため、コートやジャケットといった単価が高い秋冬物で年間の収益の帳尻を合わす。そんな業界慣習は常態化した暖冬でもろくも崩れ、業績の下方修正や赤字転落が相次ぐ。

強みだった重衣料が…

 三陽商会は典型的な秋冬偏重のアパレル企業だ。直近の12月度の全店売上高は前年同月に比べて7%減った。10月の消費増税以降、落ち込みが続く他のアパレル各社と比較しても回復が遅い。

 もともとコート製造で創業した同社は、高品質な重衣料を強みにして発展してきた。屋台骨のライセンスブランドを失った2016年の“バーバリーショック”からなかなか立ち直れないのは、販路での百貨店偏重、商品での秋冬偏重も要因といえる。中間層の消費が活発だった時代、冬がしっかり寒かった時代であれば、同社の回復はもっと早かっただろう。それがデフレによる消費の二極化、気候変動による温暖化でひっくり返り、先行きが見えない。20年2月期の4期連続の営業赤字が確実になり、岩田功社長は12月末に引責辞任に追い込まれた。

 三陽商会ほどではないにせよ、秋冬偏重はアパレル各社にほぼ共通の課題だ。長い夏に対応したMDカレンダー、または天候の影響を最小限に抑えるブランディングや新規事業を確立しなければ、生き残りは難しい。ビジネスモデルの「大転換」が必要だ。

多角化でリスクヘッジ

 ワールドは「服を作って売る」以外の収益源の構築に乗り出した。上山健二社長が戦略の柱として進めるプラットフォーム事業である。国内外の自社工場や協力工場の生産網、国内役2500店舗の販売網と人材、店舗内装の子会社、ECサイト受託とシステムソリューションを手がける子会社などの機能を他社にも提供する。

 上山社長は「ブランド事業(アパレル)の一本足打法であれば、商品単価の低い夏に利益が薄くなるのは避けられない。だが、19年の夏の端境期(7〜9月期)は、国際会計基準の適用(2014年3月期)後で初めて黒字化した。プラットフォーム事業による補完が大きい」と手応えを強調する。

 また、飲食や化粧品などの異業種ビジネスの拡大、あるいはワールドと同じようにECのプラットフォーマーを目指す動きも目立つ。

 ジュンの佐々木社長はファッション、フード、フィットネスの“3F”を今後の柱に位置付け、さらには昨年11 月からは化粧品販売にも乗り出した。今年は「飲食の多店舗化に着手して、収益化を急ぐ」と話す。ストライプインターナショナルの石川康晴社長は、百貨店系のアパレルブランドを中心に集めたECモール「ストライプデパートメント」や、サブスクリプションサービス「メチャカリ」の拡大にアクセルを踏む。「ECも、プラットフォームも、レンタルも手がける。そんな“ネオアパレル”が目指すべき姿」と語る。

 多角化は天候に左右されやすいアパレル企業のリスクヘッジとしても期待を集める。

「存続の危機」からV字回復

 一方、長い時間をかけてアパレル事業を大転換した企業もある。

 スポーツアパレルのゴールドウインは、19年3月期の連結業績が売上高で前期比20.6%増の849億円、経常利益で同65.7%増の129億円だった。9期連続の増収、5期連続の経常増益と右肩上がりだ。「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」を主力にしたアウトドア事業が安定的に成長している。20年3月期は業績予想を3度も上方修正した。

 飛ぶ鳥を落とす勢いの同社だが、実は1990年代末から長らく低迷が続き、一時は会社の存続が危ぶまれるほどだった。

 ゴールドウインも典型的な秋冬偏重のアパレル企業だった。バブル期の国民的なスキーブームで急成長を遂げた。一時は売上高の6〜7割がウインタースポーツ事業だった。だがブームが収束すると売上高は急降下。事業多角化の失敗も重なり、90年代末には3期連続の経常赤字に沈む。

 2000年に就任した西田明男社長は事業構造の改革に乗り出す。

 第一にスポーツ専門店への卸主体のビジネスから、自社で売り場を持って在庫もコントロールする小売型ビジネスへの転換だ。現在では「ザ・ノース・フェイス」「ヘリーハンセン(HELLY HANSEN)」「カンタベリー(CANTERBURY)」などを中心にショッピングセンターで展開する自主管理売り場(直営店)の割合が56%に達する(19年3月期)。

 第二に秋冬偏重からの転換だ。ウインタースポーツで成長した同社は、三陽商会以上に秋冬偏重のアパレルだった。2000年代半ばまでは春夏物の赤字を秋冬物の黒字で補う収益構造だった。現在の主力で売上高の7割以上を占めるアウトドア事業は、一般的にはダウンジャケットなど高単価の秋冬偏重になりがちだ。しかしウィンドブレーカー、レインウエア、バックパック、ショーツ、Tシャツなどの競争力のある春夏商品を開発し、年間を通じて安定的な売り上げをとる。「ザ・ノース・フェイス」の日本での商標権を買い取っている同社は、商品企画だけでなく、規格化されない個性的な店作り、ユニークなマーケティング活動でブランド価値を高めた。アウトドアの愛好者だけでなく、日常着としてのシェアを拡大しているのは周知の通りである。

 同社は一朝一夕に大転換を実現したわけでない。試行錯誤を重ねながら、年月をかけて再び消費者の支持を集めるようになった。気候変動を始めとしたピンチを、変革のチャンスにできるか。多くの企業の実行力が問われている。

 「WWDジャパン」1月27日号のCEO特集では、ファッション企業20社のトップインタビューを掲載する。デジタル化の進展やサステナビリティの高まりでビジネスモデルの「大転換」を求められる2020年代、経営者はどのようなビジョンを語るのか。登場企業はオンワードホールディングス、ワールド、ワコール、ジュン、ジョイックスコーポレーション、メルローズ、ユナイテッドアローズ、ベイクルーズグループ、ビームス、アーバンリサーチ、アダストリア、ストライプインターナショナル、マッシュホールディングス、バロックジャパンリミテッド、アイア、豊田貿易、ジンズ、カッシーナ・イクスシー、バニッシュ・スタンダード、アレフス(掲載順)。

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