ファッション

ファッション業界を長年悩ませる「長い夏に何を売るのか問題」 いいかげん答えを出しませんか?

 「日本の長い夏」――。まるで文学作品のタイトルのようだが、アパレル各社は今、まさに「日本の長い夏」問題に頭を悩ませている。というのも、従来のアパレルのMDカレンダーだと、一年間は梅春(おおよそ1~2月)、春(同3~4月)、夏(同5~7月上旬)、初秋(同7月下旬~8月)、秋(同9~10月)、冬(同11~12月)といったシーズン分けになっている。しかし、今の時代にこのシーズン区分けに共感するような消費者は皆無だろう。1~2月はまだ冬、3~4月が春、5~9月が夏、なんなら10月までが夏、11~12月が秋ぐらいの認識が一般的だ。この、あまりにも消費者感覚とズレた既存のMDカレンダーが、アパレル各社の苦悩の象徴となっている。

「もう“8シーズンMD”でも間に合わない」

 MDカレンダーのズレは年間を通しての問題ではある。しかし、なかでも悩ましいのが夏の部分だ。従来のスケジュールでは、7月のセールで春夏物を売り切り、その後は秋物を立ち上げるというのが定石だった。しかし、7月に秋物を売り出したって今や誰も見向きもしない。8月だってそうだ。ファッションに対する熱の高かった時代は、8月にウールコートが先物買いで売れたというが、そんな動きは今の時代、絶滅危惧種であるよほどのファッションオタクにしか期待できない。そうした中で、セール終了後も延々と続く長い夏の期間に、一体何を売ればいいのかが、業界の共通課題となっている。

 といっても、これは昨日今日降ってわいたような問題ではない。私がこの業界に足を踏み入れた10数年ほど前だって、「長い夏に何を売るのか問題」は業界の共通課題だった。当時、百貨店の婦人服ブランドを取材していてよく聞いたのは、“秋色夏素材”というキーワード。夏物の薄手カットソートップスやブラウスにボルドーや深いグリーンを載せたアイテムを、8~9月に店頭投入する“晩夏物”でそろえることで、長く続く夏の需要をつかむという話だった。

 それから10年以上が経ったのにもかかわらず、当時とほぼ同じ問題で今もアタフタしている業界を見ると、「変化への対応が遅すぎやしないか……?」と感じてしまうのが正直なところ。しかし、名誉のためにいっておくと、アパレル各社だってこの10年間、ただ手をこまねいたわけではない。例えば、ユナイテッドアローズは「グリーンレーベル リラクシング(GREEN LABEL RELAXING)」業態を筆頭に、15年春夏から“8シーズンMD”を導入、業界内で話題となった。“8シーズンMD”は長い夏への対応を狙ってMDカレンダーを細分化したものだ(それ以前は6シーズン制だった)。夏を初夏(おおよそ3月下旬~5月上旬)、盛夏(同5月半ば~6月上旬)、晩夏(同6月下旬~8月上旬)の3体制(なんなら初秋の同8月半ば~9月までの4体制)にし、商品計画を組んでいる。

 “8シーズンMD”が奏功し、それがこの間の同社のウィメンズ好調の理由の一つにもなっているのだろうが、竹田光広ユナイテッドアローズ社長執行役員が「WWDジャパン」1月27日号のインタビューで語ったのは、「もう“8シーズンMD”でも追い付かなくなっている」という内容。昨今の台風、豪雨、暖冬などの異常気象が示すように、気候は猛烈なスピードで温暖化しており、日本の亜熱帯化が進んでいる。その変化にアパレル各社が対応しようとしても、気候変動のスピードの方が圧倒的で、対応が間に合わないというのが実情というわけだ。

「ユニクロ」も異常気象対応に苦戦中

 「8シーズンで間に合わないなら、さらにシーズンを小分けにすればいいだけでしょ?」だなんて声が聞こえてきそうだし、それはその通りではある。そうした小分けの考え方を究極まで突き詰めていくと、オンワード樫山が推進するような“マスカスタマイズ”に行き着くのだろう。しかし、“マスカスタマイズ”とは思想を異にする小売店のビジネス、しかもユナイテッドアローズのような規模の大きなビジネスにおいて、シーズンをさらに小分けにし、天候動向も読みながら生産や投入の小回りをきかせていくというのは、想像をはるかに超えて難しいのだ。

 「ユニクロ(UNIQLO)」「ジーユー(GU)」を擁するファーストリテイリングも、まさにこの問題のハンドリングに苦心している。同社がここ数年、“有明プロジェクト”という名称でサプライチェーンの改革を行っているのは、まさに天候変動などにもこまめに対応できる、小回りのきくビジネスモデルを目指してのもの。同社のようなメガ企業がそれを成そうというのだから並大抵ではないが、「ユニクロ」も19年9月以降、異常気象(暖冬)にかなり泣かされており、改革待ったなしというわけだ。

 さて、夏商戦の戦い方についての取材では、“秋色夏素材”と共にこの10年間で耳にタコができるほど聞いてきたキーワードがもう一つある。それはセール時期に対する不満の声。「7月という、ようやく夏本番という時期にセールをしてしまうのはどうなのか。むしろここから夏物を売ろう!と精を出すべきじゃないのか」という声を繰り返し繰り返し耳にしてきた。これは正論以外の何物でもなく、業界としてセール時期を後ろにズラしていくよう努力するのが好ましいことは自明。それなのに、それができない。セール時期の問題は、10年間で一進一退?いや、やや後退?というのが私の実感であり、ここでもまた、「変化への対応が遅すぎやしないか……?」と思ってしまったりもする。

 といっても、こちらについても業界はただ手をこまねいてきたわけではない。一時期はルミネと三越伊勢丹という業界の両雄がセール開始時期をそろえ、後ろ倒しにするような動きもあった。しかし、三越伊勢丹の業績悪化やそれに伴うトップ交代などもあって、気付けば立ち消えとなっていた。他社と協力し、全社一律でセール時期を後ろ倒しすれば業界にとってよい結果となるはずなのに、抜け駆けして早期にセールをするブランドや商業施設、ECモールがあるからと疑心暗鬼になってしまって協力ができない。結果、全体最適を得られない。経済学の有名な理論で、「囚人のジレンマ」と呼ばれるようなこうした状況ゆえ、「フランスのようにセール開始時期を法律で一律に定めるべき」といった声が今年も設楽洋ビームス社長を始め、多くの企業トップの年頭インタビューから聞こえてきた。

有力ショップは大人も着られるカットソーを充実

 なんだか業界に対するグチばかりのような文章になってしまったので、最後に20年春夏の展示会で出合った、「これは面白い!」と感じた長い夏を乗り越えるヒントを2つ紹介する。1つ目はセレクトショップの「エストネーション(ESTNATION)」から。夏の服といえば、Tシャツのようなガンガン洗えるカットソートップスが便利だ。しかし残念ながら、Tシャツは、「エストネーション」が対象とするような大人の女性よりも、若い世代の方が似合うアイテムの筆頭だ。では一体、大人女性は長い夏に何を着ればいいのか。「エストネーション」はそこで、素材はカットソーと同じ生地を使いながら、デザインによってエレガントなドレスやブラウスに見えるアイテム群を「エイトン(ATON)」「ボーメ(BAUME)」などの人気リアルクローズブランドと組んでカプセルコレクションとして作成している。セールを前にした買い控えが始まる6月から店頭に投入し、長い夏の期間に売っていくという。「エイトン」のドレスは5万5000円。

 夏を乗り越えるヒント2つ目は、こちらも人気ショップの「ロンハーマン(RON HERMAN)」から。「ロンハーマン」はTシャツとランニングトップスという大人が一枚で着るとどうにも“キマらない”夏のアイテムを、透け感のある極薄ニットとの重ね着でグレードアップさせていた。二の腕などの露出に抵抗がある大人女性でも、透けるニットを上に重ねれば程よい露出具合にコントロールできるのがポイント。見た目にも爽やかで、体形カバーも可能。そんなアイデアが詰まった着こなしだった。

 「WWDジャパン」1月27日号のCEO特集では、ファッション企業20社のトップインタビューを掲載する。デジタル化の進展やサステナビリティの高まりでビジネスモデルの「大転換」を求められる2020年代、経営者はどのようなビジョンを語るのか。登場企業はオンワードホールディングス、ワールド、ワコール、ジュン、ジョイックスコーポレーション、メルローズ、ユナイテッドアローズ、ベイクルーズグループ、ビームス、アーバンリサーチ、アダストリア、ストライプインターナショナル、マッシュホールディングス、バロックジャパンリミテッド、アイア、豊田貿易、ジンズ、カッシーナ・イクスシー、バニッシュ・スタンダード、アレフス(掲載順)。

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百貨店、ファッションビルブランド、セレクトショップの2025年春夏の打ち出しが出そろった。ここ数年はベーシック回帰の流れが強かった国内リアルクローズ市場は、海外ランウエイを席巻した「ボーホー×ロマンチック」なムードに呼応し、今季は一気に華やかさを取り戻しそうな気配です。ただ、例年ますます厳しさを増す夏の暑さの中で、商品企画やMDの見直しも急務となっています。

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