三菱地所・サイモンが運営する静岡県の「御殿場プレミアム・アウトレット(PO)」は、4月16日に増床リニューアルする。第4期増設エリアとしてアウトレット日本初出店を含む新規88店舗をオープンするほか、メリーゴーラウンドなどを備える有料の遊園施設を作る。同施設の2019年3月期の売上高は946億円(弊紙推定)。この増床で郊外のショッピングセンター(SC)として初の売上高1000億円超えがほぼ確実になる。昨年12月には隣接地に小田急グループがホテルと温泉施設を開業。SCの枠を超えた多機能商業施設へと進化しつつある。(この記事はWWDジャパン2020年2月10日号からの抜粋です)
同施設は現在、店舗面積4万4600平方メートルに210店舗が出店し、2000年7月の開業以来、延べ1億7000万人(19年3月期まで)が訪れた。今回新たに1万7000平方メートル増床。合計で6万1000平方メートルになり、面積で日本最大のアウトレットになる。新たに「イザイア」「ヌメロ ヴェントゥーノ」「トム ブラウン」などが国内アウトレットとして初出店。ヴァージル・アブローの「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー」が期間限定で出店するなど、感度の高いラインアップだ。
アウトレットモールはアパレル企業などの在庫問題解消を兼ねたディスカウント前提のビジネスモデルとして1980年代に米国で誕生、日本には93年に上陸した。米アウトレットモール大手のサイモン・プロパティ・グループとの合弁企業である三菱地所・サイモンは、2000年に御殿場POを日本1号店として開業した。
当初はブランドイメージの毀損を恐れてアウトレットに出店しないブランドも多かったが、今では新規層にアプローチするチャネルの一つとして認識されている。前田達也=三菱地所・サイモン専務取締役は「『どうして御殿場に店がないの?』とお客さまに言われるブランドも多い。御殿場POは、むしろ出店しないことがブランド毀損になる」と語る。
今回の増床では飲食テナントの誘致にも力を入れた。既存のアウトレットモールは他のSCに比べて飲食比率が低いが、飲食店で休憩すると疲れが解消されてファッションの購買意欲も高まると考えた。地元で愛されるハンバーグで有名な「炭火焼きレストランさわやか」をはじめバラエティーに富んだラインアップがそろう。
御殿場POが他のアウトレットと異なるのは、富士山の麓という好立地から観光の目的地にもなること。増床では有料の遊園施設「ヒルサイド プレイグラウンド」を作るほか、昨年12月には小田急グループが「ホテル クラッド」と露天風呂が併設された日帰り温泉施設「木の花の湯」を開業。ホテルと温泉施設はオープンして数カ月だが客入りは上々だ。
ECが普及し実店舗が影響を受ける中でもアウトレットモールは確固たる売り上げをキープする。その理由を前田専務取締役は「ECとは購買体験が真逆のチャネルだからだ。わざわざ遠いところまで時間をかけて買い物に行くのは、海外のような街並みで時間を消費する非日常体験、宝探しのように服を見つけるワクワク感自体を目的としている」と説明する。
同社の調査によると、御殿場POへの平均アクセス時間は80分。平均滞在時間は3時間20分で、その間に約10店舗に立ち寄り、購買に至るのは約3店舗だ。滞在時間や立ち寄り店舗は準郊外型アウトレットより高い数値で、これは「『せっかく御殿場まで来たんだから』という心理が働くため」(前田専務取締役)。客単価は3万円超で、インバウンドがけん引する。
出店者と二人三脚でチャネルが進化
アウトレットモールが成長した背景にはテナントの変化がある。簡素な店内にシーズン落ちの商品を並べるのではなく、より多くの客に来てもらおうとストアデザインや広告施策に力を入れるブランドが増えた。今では都心の旗艦店と同等の予算で店舗を作り、アウトレットモール内でもデジタルサイネージ広告に力を入れるブランドも多いという。
来店客が増えればサイズ、色、型を豊富にそろえなければ機会損失になる。そこでテナント企業はアウトレット専用品を企画し始めた。テナント企業は商品企画から生産、店舗運営、ストアデザインまでの機能を持ち合わせた事業部を設けるケースが多い。販売員もエース級を投入する。
大都市から離れたアウトレットモールの課題は、人材をどう確保するか。御殿場POも増床で新たに1500人のスタッフが必要になるが、御殿場市には大学もなく若い労働力は決して多くない。そこで人材募集のアイデムに委託し、同施設専用の採用ホームページを19年4月に開設した。またテナントと人材のマッチング機会を創出する合同説明会も主催している。
スタッフ定着率を高めるため働きやすい環境整備も進める。同施設にはすでに従業員専用の休憩所や保育施設などが設けられている。特に休憩所は畳を設けた座敷が立ち仕事で疲れたスタッフの憩いの場として機能している。保育施設はニチイ学館と組み17年に設置した。現在約10人のスタッフの子どもを預かる。
20年3月期に1000億円を超える可能性も高かったが、中国・武漢で発生した新型コロナウイルスの影響が懸念される。バスツアーのプランに組み込まれることが多いため、団体ツアーが禁止されたことは痛手だ。「推移を見守り、状況に応じて必要な安全対策等を講じていく」(広報担当)。
【エディターズ・チェック】
記者は年に2回ほど御殿場POに足を運んでいる。近年は中国だけでなく東南アジアからのツアー客もよく見かけており、前田専務取締役いわく「旅行博への出展やツアー会社への売り込みを積極的に行なっている」という。アウトレットモールのトップに君臨しながら、新規客獲得と施設の価値向上に余念がない。この“貪欲さ”が御殿場POの強みだ。