「トミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)」は3月、見た目は変えず、障がいのある人のために着脱しやすい機能を加えた新ライン“トミー ヒルフィガー アダプティブ(TOMMY HILFIGER ADAPTIVE)以下、アダプティブ”を日本でもオンラインで発売する。アメリカでは子ども向けを2016年春、大人用を17年秋に発売。今春から日本とオーストラリア、それにヨーロッパにも販路を拡大する。
最大の特徴は、20にも及ぶ“アダプティブ”ならではの機能だ。例えばシャツには、前合わせの部分に目立たないよう工夫したマグネット式ボタンを採用。ジャケットなどには、片手で上げ下げできるファスナーを配した。デニムは、前合わせ、もしくは腰の左右がマジックテープで大きく開閉するデザイン。ワンピースなども襟ぐりや袖が大きく開くよう設計した。車椅子用のパンツは、座った時に前がもたつかないよう、フロントだけがローライズ。ゴムのヒモをたくし上げることで、パンツが履きやすくなるような工夫もある。だが、マグネットをあしらったポロシャツには、装飾としてのボタン。裾が大きく開閉するパンツにもマジックテープをあしらい、通常の「トミー ヒルフィガー」となるべく変わらないデザインに仕上げた。カラーブロッキングのジャケットや、チェック柄のシャツ、パステルカラーを配したネイビーのセットアップ、ウエストのタイベルトがアクセントのシャツドレスやポロドレスなどは、「トミー ヒルフィガー」とほとんど同じ。洋服を見ただけでは、それが“アダプティブ”の商品とはわからない。これをブランドは「デザインの平等。誰もが等しくクールでスタイリッシュな服を楽しめる、差異のない環境を提供したい」と説明する。一方で車椅子や寝たきりの生活では着心地を損ねる、お尻周りのポケットは排除した。20年春には、感覚過敏に対応した商品も登場予定だ。価格は、これまでの洋服と同じ水準。日本では、障害のある人に向けて既製服をリメイクすると、1着につき5000円前後のコストを要するのが一般的だ。
“アダプティブ”は、筋ジストロフィーを患う少年のために、母親がファスナーの代わりにマジックテープを使ったデニムを開発したことにトミーが感銘を受けてスタート。自閉症の子どもを持つトミーは、「毎朝の着替えは、我が家の重要な話題だった。子どもが学校の友達と同じ服を着られないこと、大人でも同僚と並んだ時に引け目を感じてしまうことが、どんなに辛いことかこの目で見てきた。こんなことがあってはいけない。誰にも心地よいと思える服を着て、自信を持つ権利がある。毎日着る服を選ぶことは、不安な気持ちになることではない。楽しくあるべきだ」と訴える。
アメリカでは、ユーザーのフィードバックを得ながら商品をブラッシュアップしており、日本でも、外部の有識者が実際の声を届ける役割を担う。ブランドによると、こうした洋服を必要としている人は世界中で10億人以上に上り、総人口の15%を占めるという。
「トミー ヒルフィガー」を擁するPVHコープ(PVH CORP.)は、インクルージョン(包摂・包括性)やダイバーシティー(多様性)の価値観を業界に提唱する先駆的な役割を果たしている。