※この記事は2019年10月15日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから。
そうか、エチオピアは結構近いんだ
2020年春夏パリ・コレクションの取材から帰国する当日、ホテルに2人の若者が訪ねてきました。その時のこちらの状況は最悪。荷物を無理やりスーツケースに押し込みギリギリでチェックアウトし、ロビーの一角を陣取ってほぼすっぴんでドタバタと最後の仕事をしている最中だったので、人に会うのは正直しんどいタイミングでしたが、いや〜会ってよかった。彼らと話したことで疲れが取れました。
2人はクリエイターの強谷(すねや)鮎美さんと、アトリエ「ラフトワークス」の大坪研二さん。ほれ込んだエチオピアに通って現地の織物やレザーなど複数の工場と関係を築いている最中だそうで、そのときも2日後にはパリからエチオピアへ飛ぶタイミングでした。
アフリカのエチオピアについて私は何も知りません。でも、下記のような記事を読んでアフリカがすごく気になっていたので、実際に足を運んでいる彼らの話を聞きたいと思いました。
エチオピアの人口は1億人を超え、80の民族が暮らし、言語の数はそれ以上あるそうです。日本からはすごく遠い国に感じますが、パリからは7時間くらいで飛行機チケット代が5万円台。日本と東南アジアの距離感ですね。
強谷さんと大坪さんが紆余曲折の後にエチオピアにたどり着き、結果ほれ込み、モノ作りに至った理由は理屈や戦略ではなく、エチオピアの人たちと彼らのハートにビビッと来たからだそうです。多言語の間を身振り手振りでつなぎ、「彼らとフェアな関係をベースに新しいムーブメントをつくりたい」と夢を語ってくれました。
エチオピアのファッションは民族衣装が中心で、それらを手掛ける若者たちは今、中国製の安価な製品が流れ込んでいることに危機感を覚えているそうです。デザインについては伝統的な意匠が主流の中、彼らの手仕事の素晴らしさを生かしつつ、新しいデザインにも挑戦することで中国製と戦おうというのが2人からエチオピアの若者への提案。「WWDジャパン」のコレクション特集号を使ったりして熱く議論を交わしているそうです。なんてうれしい使われ方なんだ……。
2人と話していて、これって商社ビジネスの原点なんじゃないか、と思いました。まだ世の中の人の多くが知らない土地へ出向き、出会い、肩を組み、新しいマーケットを創っていく。単純に面白いものを右から左へ動かすのではなく、ピンと来た相手の強さを尊重し新しい需要を掘り起こして世の中に紹介してゆく。しかも文字通りフェアなトレードを目指して。その可能性がこれからのアフリカにあるのかもしれない……と思わされました。
数日後、彼らから写真が送られてきました。そこにはアナログな木の機織り機を前に、若い職人と肩を並べて真剣に話す彼らの姿が。それを見てまた元気をもらい、エチオピアが実際の距離よりずっと近く感じるようになりました。私もまだ見ぬ、まだ知らぬ世界や人との扉を開け続けるわよ、と思う所存です。
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