※この記事は2019年10月30日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから。
ナイキCEOの突然の退任発表について
ナイキ(NIKE)のCEO交代ニュースには驚きました。マーク・パーカー(Mark Parker)会長兼社長兼最高経営責任者(CEO)が、2020年1月13日付でCEO職を退任してエグゼクティブ・チェアマンに、米IT企業サービスナウのジョン・ジョセフ・ドナホー2世(John Joseph Donahoe II)社長兼CEOが新社長兼CEOに就きます。
これはもう明らかにナイキがデジタル化をさらに推進するという表明なのですが、なぜこのタイミングの交代なのでしょう?ナイキの19年5月期決算は増収増益。確かにセクハラやマッチョな企業カルチャーが問題視されたりもしましたが、コリン・キャパニック(Colin Kaepernick)選手のキャンペーンでは炎上に屈しない強いメッセージを発信したことで多くの支持を得るといった華麗な逆転劇もありました。これは経営者に強い信念がないとなかなかできない決断だな、鮮やか!と感心しましたし、店舗とデジタルの融合においても先進企業として常に攻めて、革新しており、スポーツと縁遠い私から見ても、やはりナイキはカッコよく好調な巨大企業なのです。
しかも、パーカーCEOはナイキの前身ブルーリボン社でのシューズデザイナーからのたたき上げで、カリスマ創業者フィル・ナイト(Phil Knight)の後を継いで、世界ナンバーワンスポーツ企業ナイキを13年にわたって率いてきました。つまり、まさに4兆円超規模のナイキ帝国を作り上げた立役者です。
確かに、今月に入って「ナイキ・オレゴンプロジェクト(NIKE OREGON PROJECT)」を率いていた元ランナーがドーピング違反で資格停止になり、プロジェクトが閉鎖されるといったスキャンダルもありました。異業種からのCEO起用は、企業文化の見直しやこうしたネガティブなイメージを払拭するのに有効かもしれません。しかし、少なくとも米「WWD」の記事やその他の報道からもパーカーCEOが株主や取締役会から退任を迫られたような気配はありませんし、実際にこの発表以降株価が落ちたままなので、株主や投資家もこの交代を歓迎していないようです。ですから、これはもうパーカーCEOが本気でデジタル分野の強化および「コンシューマー・ダイレクト・オフェンス(Consumer Direct Offence)」戦略を推進するために決断したと考えるのが妥当という気がいたします。
前にも書いていますが、後継者にスムーズにバトンを渡せてこそ、本当に優秀な経営者だと思います。
というわけで新旧CEOの協業でナイキがさらにパワーアップするかどうか――ますます目が離せません。
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