新型コロナウイルスの影響でクローズしていた中国国内の製造業が2月10日から一部製造を再開した。前回に続き、現地の大手メーカーの営業兼MDに香港と中国本土で何が起こっているのか、現地リポートしてもらった。
2月8日、中国から香港に入国する際には14日間の強制隔離検疫が適応されるというニュースが流れたが、一説にはその直前に5万人もの中国本土の滞在者が香港に入国したといわれる。香港では実際に毎日国境を越えて中国本土のオフィスや学校に通う人が少なくない。また平日は家族と離れて中国に単身赴任で、週末だけ香港で過ごすというケースも多く、私自身もかつて1年間、週に3日間は中国本土の工場付近のホテルに滞在し、香港と半々のような生活をしたことがある。このような人々が急激に香港になだれ込んで香港での感染リスクが高くなったと推測される。
前回のリポートでも登場したマスクや消毒剤、紙製品、そして一部の食料品不足はより深刻化し、「香港には潤沢に生活必需品の備蓄があるはずだが、人々が政府を信用しておらず買いだめに走るのだ」という声もある。引き渡し条例に反対するデモに続き、国境封鎖の決定に時間がかかったことなど、新型コロナウイルスに対する政府の対応についても社会的な不満と不安がさらに高まった状況だ。
幼稚園から日本でいう高校までは3月2日まで授業再開が不可となり、同じく2月いっぱいは自宅勤務を決定した企業も多い。街なかはというと、他者との接触を避ける目的で特に外食産業はことさら、厳しい状況を迎えている。週末は毎週といっていいほど、家族や親しい人たちとで飲茶を楽しむ文化があり、人気店は行列必至が通常だが、今では空きテーブルも目立つほどになっている。密室での会食を禁止とした会社もあるという。このような状況下でありながら、かつてはマスク着用をしていなかった香港在住の欧米人ですら、今週からは着用する人が増えたように見られる。
先週の時点では、2月10日に弊社の中国の工場は再開予定ということで、広東省中部のドンガン市の2拠点は同日再開したが、それよりさらに北の工場は現状、17日までは再開不可能だろうとの見通しだ。企業が業務を再開するには中国政府にリポートを提出し、規定の条件をクリアすれば可能とのことだ。従業員の健康管理に関して、「従業員全員分のマスクを支給できるか?」 という、現在の中国では非常にハードルが高い項目もあるらしく、そのために多くの企業が再開不可能になっているようだ。再開した弊社工場では、従業員には他者との接触を避けるよう、以下の内容が通達された。「会議は開催せず、なるべく電話かウィーチャット(微信、wechat)などで済ませる。外部の人間を社内に入れない。食事は一人で済ませる。外食は避け、自宅に他人を招かず、訪問もしないこと」など、寂しくなるような内容だが、これが現実だ。香港オフィスでは通常、国際宅配便のピックアップ担当者の姿を社内で見かけるが、サンプル等の出荷物の置き場所を各フロアのエレベーターホールに移動させ、彼らが社内に入らないようにするなど工夫している。
また、ウイルス問題による交通封鎖や規制により従業員が帰省先から勤務先に戻れず、人員を確保できていないという面もある。帰省先で情報交換し、よりよい待遇の工場へと転職する人は例年でも多く、旧正月明けは何人の従業員が戻るのかを読めず、生産に打撃を与える場合がある。今年はさらにコロナウイルスの影響があり、いっそう予測が難しい状況だ。再開した弊社工場でも、従業員は半数程度でかろうじて営業再開となっている状況だ。まだ資材サプライヤーの様子などは見えてきていないのが現状だ。今後の出荷品の納期は非常に難しいと言わざるを得ない。広東省東部のスワトウ市の下着工場のオーナーと電話で話したが、「田舎町ということもあり、マスク姿が少ない。危機感があまりないようにも感じるが、ただ単に物資不足だから仕方ないという諦めの境地でもある」ということだった。たまたま彼の工場には武漢出身の幹部メンバーが多く、幸いにも現地での全員の生存は確認できたが、いつ彼らがスワトウに戻ってこられるかは全く分からない。
周囲に手作り好きが多いせいか、マスク不足と着用ストレスから、“自作マスク”がちょっとした流行になっている。購入できないからと自分で作る場合もあるが、お気に入りの生地で作る人もいる。香港ではあまり浸透していないハンドメード布ナプキンを販売している香港人女性も、今はマスク作りで大いそがしという。
少しでも気持ちを上げることは、免疫力を高めるために大事なことだとつくづく感じる。