4月14日付で就任したワールドの上山健二・新社長は、収益性の改善に全力を傾ける。1990年代からSPAのリーディング企業として君臨した同社だが、成長をけん引してきた主力事業が踊り場を迎え、2期連続の最終赤字に苦しむ。銀行出身でいくつもの企業再建に手腕を発揮してきた上山社長は、どんな手を打つのか。
WWDジャパン(以下、WWD):新社長としてのミッションは?
上山健二・社長(以下、上山):一言でいうと、ワールドの光り輝くP/L(損益計算書)を取り戻す 。ワールドは3000億円の売上高(2013年度3173億円)、3000店の店舗、1万6000人の従業員を擁しながら、長らく秀でた収益性を誇ってきた。これはすごいことだ。商品の業務管理、クリエイティブ、生産、 店舗販売、デジタル。作り上げてきた5つのプラットフォームがもっとシナジーを発揮できるようにすれば、収益はおのずと高まる。といっても悠長なことも言っていられない 。2〜3年で光り輝くP/Lを実現させる。
WWD:近年の不振をどう分析するか?
上山:複数の要因がある。当社はこれまで初期コストをかけてブランドを開発し、店舗を作って、お客さまに来ていただき、ファンになってもらう、多ブランド・多店舗出店を基本にしてきた。このビジネスモデルはコストも時間も在庫もいるが、成功すればリターンも大きい。だが、消費を取り巻く環境は大きく変わった。対応できないまま、多ブランド・多店舗出店を推し進めたことで、収益性が悪化した。
WWD:では、どう手を打つ?
上山:カギを握るのはウェブだ。出店だけがお客さまへのアプローチではない。もっとウェブでバズを起こして、お客さまに商品やブランドを訴求する方法があるはず。リアル店舗を否定するわけではないが、まず出店ありきという発想は変えないといけない。ワールドが持つ魅力的なブランドや多様な店舗網とウェブを効果的に連動させたO2Oを構築する。eコマースにも注力する。当社のデジタルプラットフォーム本部は「WWW.300(ワールドワイドウェブ300) 」という目標を掲げた。現在、eコマースの売上高は130億円内外。これを中期的に300 億円規模に育てる。当社のeコマースは今 のところ自社ブランドを巨大モールのようにそろえる「ワールド オンライン ストア」で行っている。だが、ブランドのコアなファンのお客さまの心に響くようにするために、ブランドごとに個性的なeコマースサイトを作 る必要がある。店舗の内装を磨くように、各ブランドのサイトを光らせたい。
WWD:出店は抑制するのか?
上山:3000店の店舗網は強みではあるが、 残念ながら全ての店舗が光り輝いているわけではない。適正化は必要だと考えている。新規出店よりも既存店の改装に軸足を置く。回復の見込みが立たない場合は退店もある。検討事項に聖域は設けない。中長期的に当社にとってマイナスになるのであればブランドの廃止もある。
WWD:そんな中でも積極的に投資する分野はあるか?
上山:ファッション市場自体がオーバーストアだが、当社にとってはNSC(近隣型ショッピングセンター)に大きな出店余地がある。「シューラルー」「グローブ」などは堅調に推移している。NSCに向けてはFC出店も含めて重点的に投資する。「イッツデモ」「ワンズテラス」など雑貨業態の収益性に期待している。
WWD:中期経営計画は策定しているのか?
上山:まとめている最中だ。ただ大事なのは対外的な発表よりも、社内の意思固めとモチベーションだと思っている。社員の一人一人の心に火を付ける作業を優先させたい。私はこれまで多くの業界に関わってきた経験上、特に対消費者の商売をする企業は、お客さまのためにベストを尽くすことにベクトルを合わせなくてはいけない。寺井(秀藏)会長が掲げてきたスパークス構想は、まさに店頭のお客さまを起点に生産までを一気通貫させる考え方だ。買った商品に期待を膨らませて、レジでにっこり笑顔で会計を済ますのはファッションの店くらいではないか。販売員、デザイナー、工場スタッフ、 宣伝や管理部門も全員、お客さまの満足をゴールに仕事をしなくてはいけない。
WWD:自分をどんなリーダーだと思う?
上山:「俺についてこい!」と言って組織を引っ張る蒸気機関車のようなリーダーではない。ある人に言わせると、この人の言うことだったら聞いてみようかなと思わせるタイプらしい 。英会話教室のGABAを社長として再建した際、あるスタッフに「長崎屋を再建した人が来ると聞いて、戦々恐々としていたけど、上山さんは商売のモデルをほとんど変えなかったね」と言われた。カルロス・ゴーンさんのようなドラスティックな手法を想像していたらしい。変えるべきところと、変えてはいけないところを見極めて、 粛々と進める。必ず結果は出る。