ニューヨーク・ファッション・ウイークが終了し、ロンドン・ファッション・ウイーク(以下、LFW)が2月14日に始まりました。ヨーロッパでも新型コロナウイルスの影響は出ていて、各社がどう対応するべきか頭を悩ませていている印象です。三越伊勢丹のバイヤーをはじめ、「ヴォーグ・ジャパン」などのチームも出張を中止し、ファッションショーの日本人席に空席が見られました。また初対面の方との握手、久々にあった方とのハグやキスなどのあいさつをする機会も減っていて「警戒されてる!?」と思う場面も多々あります。
さて、また新型コロナウイルスのことは別記事でもまとめるとして、今日はLFW初日に見えてきたサステナビリティの傾向についてお話します。LFWでは“ポジティブ・ファッション”というスローガンを掲げて、サステナビリティを意識したモノ作りをはじめ、多様性と平等性の尊重、職人技とコミュニティーの保護など、一言で言うと“世の中へ良い影響を与えるファッション”を参加ブランドが発信しています。
その中でも増えているのが、アップサイクルやリサイクルという概念です。LFWのメイン会場である“180 ザ ストランド(通称ワンエイティー)”では、ポジティブ・ファッション・エキシビションという合同展示会が開催されていて、メッセージ性のあるコンセプトを思ったブランドが集まっています。そこで出合った新しいアプローチの3ブランドと、バッグを主力にする英国発の「マルベリー(MULBERRY)」の画期的な取り組みについて紹介したいと思います。
“ファストファッションからアイデアを盗み返す”
アムステルダム出身のデュラン・ランティンク(Duran Lantink)は、2019年度のLVMHプライズのセミファイナリストにも選ばれていた若手デザイナーですが、彼のデザインプロセスは一味異なります。自身のブランド「デュラン ランティンク(DURAN LANTINK)」はアップサイクルをコンセプトにしていて、今回彼が初めてワンエイティー内で展示した商品はなんと、元々「ザラ(ZARA)」や「H&M」「マンゴー(MANGO)」「ベルシュカ(BERSHKA)」などのファストファッションブランドで購入した服なんです。“ストーレン バイ デュラン(STOLEN BY DURAN)”というプロジェクトとしてファストファッションの服を再構築して、新しい一点ものドレスへと作り変えています。この「ザラ」のプリーツドレスできたドレスは、シャーリングを加え、ウエスト部分がセパレートになっています。
デザイナーのデュランは「大量消費に疑問があるのはもちろんだけれど、ファストファッションはラグジュアリーからデザインを真似して作っているから、あえてファストファッションからアイデアを盗み返したいと思ってね(笑)。それに低賃金で働く縫製工場の労働者たちの仕事をリスペクトして、プラスの価値をつけて昇華できたらいいな」と言います。購入時のタグも洋服に付けていて少しドキッとします。彼の洋服はイギリスのブラウンズ(BROWNS)やリバティー(LIBERTY)などの有力店に並んでいますが、「日本のようなファッションへの理解が深い国でも商品を見せたい」と話していました。
不要な6足のスニーカーが世界で一つだけの靴に変身
イギリス人若手シューズデザイナーのヘレン・カークム(Helen Kirkum)による「ヘレン カークム」はアップサイクルのスニーカーブランドです。古着のシューズを分解して、コラージュして世界に1足だけの靴を作っています。他と異なるのはブランドのオリジナル商品を販売していないこと。必ず受注やプロジェクトベースで商品を作ることをポリシーにしていて、これまでに「アディダス(ADIDAS)」「リーボック(REEBOK)」「ラコステ(LACOSTE)」や「マーティン ローズ(MARTINE ROSE)」などとコラボレーションの実績があります。
個人客向けの“メイド トゥ オーダー”も受けており、不要になった6足のシューズを送ることで1足のシューズにリメイクしてもらえます。1000ポンド(約14万3000円)と高額ですが、捨てられない思い入れの強い靴がたくさんある方にオススメです。デザイナーのヘレンは必要以上のものを生み出さないという意識は強く、「絶対に同じ靴は2度と作らないわ。『このデザインと一緒にして』というオーダーも受けない」と話していました。
メンズもデビュー!「ナイキ」の靴をアップサイクルしたブランド
個人的に一番欲しいと思っているのは、「ナイキ(NIKE)」のユーズドシューズをアップサイクルした「アンクタ サルカ(ANCUTA SARCA)」です。若手デザイナーのサポートプログラム「ファッション イースト(FASHION EAST)」の支援ブランドの一つで、20年春夏にデビューしたばかり。前回はポインテッドトーの1種類の形がメインでしたが、今回の20-21年秋冬はブーツの種類も拡充され、メンズのシューズもデビューしていました。
「マルベリー」は客のバッグを引き取って再販
また「マルベリー」はサステナビリティに注力していて、“メイド トゥ ラスト(Made To Last)(“長く使われるために作られたの意)というイベントをLFW中に開催しました。
昨日スタートさせた“マルベリー エクスチェンジ”というプロジェクトは、客の所有する「マルベリー」のバッグを鑑定して引き取り、リペアして店舗で再販売するという企画。バッグを持ってきた客には新たなバッグを購入するために使用できるバウチャーを渡して、サーキュラーエコノミー(循環型の経済)を促します。
鑑定士の人員確保の問題などから、まずはロンドンとニューヨーク限定での実施となりますが、将来的には日本での開催も計画したいとのことでした。
また「マルベリー」は再生ナイロンの「エコニール(ECONYL)」を使った新モノグラムシリーズ“Mコレクション”を発売しました。模様にブランドの頭文字のMが隠れています。“SEE NOW, BUY NOW”で、もう店頭とオンラインですぐに購入できるそうです。