2020-21年秋冬シーズンのロンドン・ファッション・ウイーク(以下、LFW)も前半戦が終了。13~15日に発表されたブランドとイベントをピックアップしてダイジェストでお届けします。
2月13日(木)
「マーガレット・ハウエル」が50周年を記念したアーカイブ展
日本でも人気の高い「マーガレット・ハウエル(MARGARET HOWELL)」は今年でなんと50周年。店舗で開催されたアニバーサリーパーティーへお邪魔しました。期間限定でマーガレット本人が選んだ、ブランドの歴史を語る上で欠かせない貴重なアーカイブを公開しており、スケッチやインスピレーション源となるムードボード、過去のキャンペーンイメージなどを展示しています。“50 YEARS OF DESIGN”という映像作品も上映していました。このアーカイブ展は日本でも開催予定だそうです。
2月14日(金)
期待の若手「ユハン ワン」でLFWがキックオフ
ファッションショーの一発目は、中国出身でロンドンを拠点にする若手デザイナー「ユハン ワン(YUHAN WANG)」です。前シーズンは若手支援プログラム「ファッションイースト(FASHION EAST)」の合同ショーに参加していましたが、卒業して初の単独でのショー。当日には「LVMHプライズ」のセミファイナリストに選出されたというニュースも入ってきて、注目度がますます高まっている様子です。「シモーン ロシャ(SIMONE ROCHA)」らに次ぐロンドンの大人ガーリー枠の担い手ですが、得意なドレープの技術でボリューミーにならずに甘さを演出できているところで差別化できています。前回まではドレスが中心でしたが、コートやセットアップなど、アイテム幅も広がっており、今後も楽しみなデザイナーです。
「キコ コスタディノフ」の攻めと守りのよい塩梅
前シーズンからオフスケジュールで発表している「キコ コスタディノフ(KIKO KOSTADINOV)」。「アシックス(ASICS)」とのコラボレーションでも話題で、日本にも男性ファンが多いブランドです。ウィメンズ・コレクションはデザイナーのキコのガールフレンドであるディアナ・ファニング(Deanna Fanning)とローラ・ファニング(Laura Fanning)の双子の姉妹が手掛けています。これまで“衣装感”が強くリアルに提案するのは難しいだろうな、と思っていましたが、今回は一歩リアルに歩み寄ってきた印象。ブランドのシグニチャーであるボールドな色使いと、パネルの切り替えテクニック(異素材の組み合わせ)はそのままですが、攻めと守りの塩梅を掴んできたよう。2人が得意とするニットウエアの強みも出ていて、トゲトゲしたニットをワンピースとレイヤードしているのが新鮮です。
透明性を備えた「リチャード マローン」
「リチャード マローン(RICHARD MALONE)」もロンドンの若手の注目株の一人。17日開催の「2020 インターナショナル・ウールマーク・プライズ(2020 INTERNATIONAL WOOLMARK PRIZE 以下、IWP)」の決勝戦で唯一ウィメンズブランドでファイナリストに残っています。今季はIWPの審査対象のコレクションため、メリノウールを多く使っていることはもちろん、今回は素材の調達から生産までの透明性が審査の鍵になっているため、ブロックチェーンでトレーサブル(跡形などをたどれる)になっています。また後日、IWPのレポートで詳しく紹介します。
女王のスタイルから着想を得た「シュリンプス」
人工ファーコートやパールのハンドバッグが看板アイテムの「シュリンプス(SHRIMPS)」。今季は英国王室の女王エリザベス2世のファッションスタイルやスコットランドのタータンから着想を得たコレクションです。今、イギリスはEU離脱“ブレクジット”やヘンリー英王子の“メグジット”(ヘンリー王子とメーガン妃の公務からの退任)など変化が大きい不安定な時期。特に“ブレクジット”ではEU離脱派52%、残留派48%という結果だったので国民の心を大きく分断してしまいました。「シュリンプス」をはじめ、改めて英国の良さにフォーカスを当てて、英国愛を伝えているブランドが今季は多い気がします。
2月15日(土)
ウィーン発「ペーター ペトロフ」のロンドンのデビューショー
オーストリア・ウィーン出身の「ペーター ペトロフ(PETAR PETROV)」がロンドンでショーを初開催しました。クリーンでエレガントで好印象!これは「ジル サンダー(JIL SANDER)」「ザ・ロウ(THE ROW)」などと同じく、フィービー・ファイロ(Phoebe Philo)時代の「セリーヌ(CELINE)」ファンに受けそうな雰囲気です。しかし、全てマキシロング丈で想定プロポーションは背の高い欧米人向け。日本人の体型には難しそうだなと感じました。
サステナビリティの輪を広げる「フィービー イングリッシュ」
サステナビリティで先進的な「フィービー イングリッシュ(PHOEBE ENGLISH)」はプレゼンテーション形式での発表です。見た目は超シンプルですが、話を聞いて驚きでした。「#NothingNew」というタイトルで、その名の通り、何も新しい素材がないんです。「シモーン ロシャ」や「マーティン ローズ(MARTINE ROSE)」などフィービーの仲のいいロンドンデザイナーたちから余った生地を回収して全てリサイクルしたものでコレクションを制作しています。サステナビリティの話題が広がっていても実際には取り組むことは難しい。でも、フィービーのように周りを巻き込むことができるデザイナーは稀有だと思います。
どこでも寝られる!?「トーガ」のダウンウエア
日本を代表する「トーガ(TOGA)」は、テーラードをベースにアウトドアの要素などをミックスした安定のコレクションです。今季はふかふかしたダウンのパッファーが多く使われていて、リリース情報によると「どこでも寝られるように」という即席布団のような提案だそう(笑)。私が注目したのはバッグもシューズもアクセサリーが充実していること!ビッグなトラベルバッグ、フェザーのシューズなど手にとって確認したいものがいっぱい。後日、ライターのELIE INOUEさんによるバックステージレポートも上がりますのでそちらもお楽しみに。
メンズ初登場の「モリー ゴダード」
「モリー ゴダード(MOLLY GODDARD)」は図書館の中をレストランのように作り込んだ会場でした。テーブル席には、パンとバター、白ワインに水まで用意されていて、待ち時間に自由に食べられるんです。質素ではありますが、時間がなくランチをスキップしていた来場者たちには嬉しいサービス。自分のテーブルを探していると、前シーズンのフィナーレに登場したチュールドレスを着た来場者がいました。お姫様みたいで写真を撮らせていただきました。可愛い!肝心のコレクションでは、メンズが初登場!「モリー ゴダード」らしさは伝わらないですがキュートな印象。一方でウィメンズはカラーブロッキングニットにシグニチャーのギャザーを寄せたドレスを合わせた新提案。カジュアルな「モリー ゴダード」のドレスを着こなし方が伝わってよかったと思います。
ちょっとニクい「リチャード クイン」
前回はオンタイムから1時間遅れてショーを行った「リチャード クイン(RICHARD QUINN)」は、今季も待ち時間は40分!開始前は会場にゲストのイライラを感じる空気が漂っていました。何故そんなに遅れるのかというと、歌手やオーケストラなどの生演奏を用意しているから。リチャードも“ブレクジット"などの影響からイギリスを意識したコレクションを発表しています。シグニチャーの花柄プリントは変わりませんが、全身にビジューを刺しゅうしたドレスはすごいの一言につき心を震わせます。でも、背中にはイギリスの国歌である「God Save the Queen」を文字って“God Save the Quinn”と自身の名前に変えていたり、歌手が歌った「ダンシング・クイーン」も、“クイン”に掛けていたりと(笑)ちょっとしたウィットも忘れないところがニクい。拍手喝采で、待ち時間の長さを忘れさせるファッションの魔法を感じたショーでした。