フランスで2月10日、在庫や売れ残り品の廃棄を禁止する新たな法律が施行された。この旗振り役を務めるのがブリュヌ・ポワルソン(Brune Poirson)=フランス環境連帯移行大臣付副大臣だ。彼女はケリング(KERING)と組み、環境保護のための「ファッション協定」も推進する。ポワルソン副大臣は1982年生まれの37歳。日本の女性誌でもその着こなしが特集されるなど、ファッションも注目を集めている。
1月30日~2月1日にパリ・グランパレで開かれたサステナビリティサミット「チェンジ ナウ(CHANGE NOW)」に登壇したポワルソン副大臣は、「“廃棄禁止”は第一ステップにすぎない」とし、さらなるサステナビリティ加速を説いた。そのスピーチのダイジェストは以下の通りだ。
「ファッションは人に夢を見せる
産業だからこそ、
サステナビリティに本気で
取り組むべき」
私は今、希望に満ちています。希望はさまざまな可能性があることを感じさせてくれ、希望があれば、それはいつかかなう可能性があるのです。私たちはそろそろサステナブルなファッションについての対話を始めるべきだと思っています――ファッション業界は世界で2番目に環境を汚染しているにもかかわらず、数年前まで、環境問題やサステナビリティについて話すブランドやメーカーはほとんどありませんでした。そこで私は、この問題に本気で取り組もうと思ったのです。ファッションは人々に夢を見せる産業なのだから、なおさらその必要があると思いました。
ダボス会議(1月21~24日にスイス・ダボスで行われた世界経営フォーラム年次総会)に参加した際、多くの人がサステナブルなファッションについて話していて、「ファッション協定」はもはや話の前提の一つになっていました。これは35~40社ほどの企業、150以上のブランドが署名している環境保護に関する協定です。気候変動、生物多様性、海洋の3分野における実践的な目標を、協力して達成するために設けられました。こうした取り組みが大事だということは自明ですが、多くの企業にとっては難しいことです。ビジネスモデルや、製品をどうデザインするのかを変えなくてはなりませんから。
「持続可能なファッションの
先進国である以上、
言い訳は許されません」
そもそも「ファッション協定」は、マクロン(Emmanuel Jean-Michel Frederic Macron)大統領がG7サミット(19年8月24~26日に開催)に先立ち、ケリングの会長兼最高経営責任者(CEO)であるフランソワ・アンリ・ピノー(Francois-Henri Pinault)氏に、ファッション業界が協力し合って取り組めないかと声をかけたことから始まっています。そうして協定が策定され、多くの企業が署名した結果、今や一大ムーブメントとなりました。企業やブランドの垣根を超えて、気候、生物多様性、海洋の3分野で協力し合おうと団結したのです。
そして今度はそれをさらに拡大しようとしています。そのためには、新しいソリューションが必要なのです。「ファッション協定」の枠組みの中で目指すべき目標を設定する必要がありますし、ここフランスでそれらを実践していかなければなりません。持続可能なファッションの先進国である以上、言い訳は許されないのです。
“廃棄禁止”の背景にあるものとは?
持続可能なファッションの推進のため、フランスは在庫や売れ残り品の廃棄を禁止する法案を成立させました。正確には、まさに今日(1月30日)の午後その法案が成立します。ファストファッションの問題に法律が斬り込むのは、これが初めてです。
フランスでは年間10億ユーロ(約1180億円)相当の商品が廃棄されています。新品で、当然まだ使える物なのに、です。5000万ユーロ(約590億円)相当の衣料がただ廃棄されていて、多くの場合は埋め立て地に捨てられています。私たちの願いは、こうした衣料が地元のNGOや、アップサイクル用として地元の企業に寄付されることです。そうすれば、何か新しい製品に生まれ変わり、地元の雇用にもつながります。一番望ましいことはNGOに寄付されて、必要としている人たちの手に届くことだと思います。フランスには貧しくて服が買えず、「外に着ていけるような服がない、恥ずかしいから家から出たくない」という人が300万人もいるのです。この法律は、こうした問題への取り組みにもつながります。
「“廃棄禁止”の次は
“洗濯用フィルターの義務化”」
皆さんご存じかと思いますが、ファッション業界は海洋プラスチックごみの3分の1に責任があります。3分の1も、です。これをどうするか――まず、プラスチックごみが出ないようにすることが重要なので、洗濯機にフィルターを付ければいいのです。分かりやすい解決策ですよね。とにかく、マイクロプラスチックごみが川に、そして海に直接流れ込むのを食い止めたい。このため、洗濯機にフィルターを付けることを義務付けます。フランスでは、年間250万台の洗濯機が販売されています。もちろん、業務用の洗濯機にもフィルターを付けることを義務付けます。これが2つ目のステップです。
そして、3つ目のステップ。最近の消費者は、自分が着ている服がどこでどのように作られたのかを知りたいと思っています。誰がデザインしたのか、誰がどのように製造したのかを知りたいのです。ですから、その情報を消費者に提供するタグを衣服に付けます。
フランスで販売される全ての衣料に、環境や社会的な問題への影響に関する情報が含まれているタグを付けるよう、現在急ピッチで開発を進めています。これは、まだほんの始まりです。本当に基本的なことですから。世界中の全ての国が、少なくともヨーロッパの国は、私たちと同じことを実行してほしいと思います。
「フランスを
イノベーション・ラボにしたい」
そして、私たちはさらにその先へと進みたいと思っています。そのために必要となる先進的なソリューションを、この会場にいる皆さんは開発しているのです。私はフランスを“イノベーション・ラボ”にしたいと考えています。「チェンジ ナウ」は、フランスにおける、そしてヨーロッパにおけるテキスタイルやファッション業界でのイノベーションを先導してきました。私たちは、トレンドよりも先んじていなければなりません。
「チェンジ ナウ」は希望の源です。人々に訴えかける力があるし、テキスタイル業界には変えるべきところがたくさんあります。会場にいる皆さんには本当に期待しています。ファッション分野におけるサステナブルなソリューションを見つけるべく、私たちに力を貸してくださるようお願いします。