スイス発の「アクリス(AKRIS)」は、“Independent Women with Purpose”(目的を持ち自立した女性)のためのラグジュアリーブランド。ロゴやキャッチーなモチーフなどを排したエレガントなスタイルは“ディスクリート(控えめな)ラグジュアリー”と呼ばれ、ジャケットスタイルを中心に管理職や士業などの女性に根強いファンを持つ。同社のメリッサ・べステ(Melissa Beste)グローバル最高経営責任者(CEO)もまた、ファッションや小売りの世界で要職を歴任してきたエグゼクティブ女性であり、ブランドイメージを体現する存在だ。来日したべステCEOに、ブランドが目指す方向性を聞いた。
WWD:“Independent Women with Purpose”という言葉に込めた意図は?
メリッサ・べステCEO(以下、べステ):言葉自体は最近使い始めたものですが、これは突然生まれたアイデアなどではなく、「アクリス」がもともと追求してきた女性像を示すものです。メゾンの歴史をたどれば、現クリエイティブ・ディレクターのアルベルト・クリームラー(Albert Kriemler)の祖母であり、創業者のアリス・クリームラー=ショッホ(Alice Kriemler-Schoch)がそもそも、“Independent Women with Purpose”でした。彼女は1922年に「アクリス」を創業しましたが、子育てをしながら働き、地元の女性たちのために洋服を作っていた。さらにビジネスを拡大させて、彼女たちに仕事を提供したのです。アリスはまさに、女性をエンパワーする(力を与える)女性でした。
WWD:「現代女性が持つカリスマ性を輝かせる」というコンセプトを掲げている。「現代女性のカリスマ性」とは一体どういう意味?
べステ:カリスマ性を持つのは一部の女性ではなく、全ての女性が、それぞれのカリスマ性を持っていると「アクリス」は考えています。われわれが目指しているのは、そうした一人一人の女性に光を当てること。アルベルト(クリエイティブ・ディレクター)がデザインする上でいつも意識しているのは、女性たちの日々の生活です。どんな服ならば、彼女たちが心地よく日々を過ごすことができるか。それゆえ、機能性や着心地は非常に重視しています。女性たちのライフスタイルをグローバルな規模でイメージして、理解するよう努めています。
WWD:“Independent Women with Purpose”という考え方を、今後ブランドの発信の中にどう生かしていく?
べステ:われわれが“Independent Women with Purpose”を特に体現している存在だと思う方たちを、2020年秋以降にフォーカスしてキャンペーンなどを行っていこうと考えています。有名なセレブリティーなどに限らず、目的を持って何かを成し遂げてきた人と対話をし、一緒に取り組んでいきたい。毎シーズンのショーでも単に人気のあるモデルを起用するというのではなく、われわれが目指す女性像に合致するモデルをキャスティングしていますし、ブランドを運営していく中でのあらゆる選択においても、“Independent Women with Purpose”のためのブランド、という軸を通していきます。
WWD:日本でも女性活躍推進がますます叫ばれるようになっている。しかし、女性が仕事も私生活もどちらもバランスをとり、自己実現していくというのはまだまだ難しい。
べステ:女性が女性をセレブレート(賞賛する、ほめる)ことが大切だと思うし、「アクリス」としてもその背中を押していきたい。目的を探し、見つけ、それに向かって頑張っている人を女性自身が讃えるべきだと思います。安定した環境にいると、なかなか新しい目標に向かって挑戦しようとは思わないかもしれません。でも、挑戦をすることで自分に自信が生まれます。変化が自信への道を開くものだから、やはり常に「次の目標は何?」と考えていたいと私は思う。「アクリス」の服を着ることで、女性たちには「自分らしくいられる」と感じてほしい。スーツであれワンピースであれ、「『アクリス』を一着持っていれば何でもできる」という自信を女性たちに与えるようなブランドでありたいと思っています。 “Independent Women with Purpose”という女性像は、住んでいる国や地域、年齢を問わず、女性たちの誰もが欲しているあり方だと考えています。
WWD:ビジネスにおいて近年強化していることは?
べステ:19年の1年間をかけて、ECを全面リニューアルしました。ブランドや商品のストーリーを伝えることが不足していたので、リニューアルに際しそれを強化しています。また、20年からは実店舗の内装に新コンセプトを導入します。コレクションと同様、モダン建築に着想を得た内装です。まずは6月に米ワシントンD.C.に出店する新店舗から導入します。22年には創業100年を迎え、アルベルトがクリエイティブ・ディレクターに就いた1980年からは40年、シグネチャーバッグ“アイ”の誕生からは10年が経ちました。業界全体としてはサステナビリティにますます光が当たっていますが、われわれは工場まで垂直で管理しており、素材を含めてどこでどのように作られているかといったことに対して高い管理基準を持っています。「アクリス」はトレンドから外れているわけではないですが、トレンドを追いかけまわすようなモノ作りはしていないので、過去のシーズンの商品も着続けることができる。タイムレスでモダンというのがわれわれが昔から根幹に据える考え方であり、それは非常にサステナブルだと思っています。