※この記事は2019年11月19日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから。
大人の女たちよ、笑いを取りにいこう!
日本のメンズブランドが世界的に評価が高い理由のひとつは、笑いをとるセンスがあるからだと思います。ちゃんとしたモノ作りをしていても、どこがふざけていて「何、真面目にやっているの」というノリツッコミ待ちの姿勢とでも言いましょうか。
「ダブレット(DOUBLET)」がその代表です。デザイナーの井野将之さんは至極まじめかつ誠実な方ですが、とにかく笑いを取りにくる。「ダブレット」がグランプリを受賞した2018年の「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ(LVMH YOUNG FASHION DESIGNER PRIZE)」の最終審査会で、審査員のマリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuli)「ディオール(DIOR)」アーティスティック・ディレクターが井野さんの「タブレット」をのぞきこんでケラケラと笑っているのを遠目に見て、すごッ!と思いました。そのときマリア・グラツィアは松葉杖をついていたのですが、「ダブレット」の映像がツボだったらしく、松葉杖に体を預けて声を出して笑っていました。国境を越えて笑いを取るなんて、すごいことです。
他にもメンズブランドでは、“笑える”アイデアとよく出合います。例えば「カラー(KOLOR)」が現代美術作家の加賀美健さんとコラボレーションしたTシャツも面白かったですね。バスク天竺のボディーに、「イメージと違う」「ちょっとだけカシミヤ入っています」「このデザイン攻めてますね」などと入っていて1万3000円でした。最高です。
彼らの風刺が効いたユーモアは、落語に通じるものがあります。落語は誰かを貶める笑いというより、町民が自らの辛い日常を笑いに変えるものですよね。自分を笑いに変えることができる知力は、こんなご時世だから求められています。風刺が効いたユーモアは知的な遊び。それが日本のモノ作りと一つになるから強いです。
冒頭に「メンズブランド」と書いたのは、ウィメンズには“笑える”ブランドは少ないから。女性は自分を笑いに変えるのは苦手なのか、昔の「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」のように“笑える”ブランドは少ない。ユーモアを武器にしたウィメンズが日本から生まれてもいいのに。と常々思っています。
なんてことを、茶飲み友だちであり尊敬する編集者の中島敏子さんに投げかけると、「それを女性に期待するなら、若い女性より大人の女性。酸いも甘いも経験し、男たちとバチバチやって、その上で元気に頑張っている大人の女性向けにならできるんじゃないかな」と返ってきました。なるほど、そうかも。
まだうまく言葉にできないのですが、「大人の女性のための、余裕たっぷりの、笑えるファッション」は見てみたいし、マーケットの可能性もありそう。このテーマ、しばらく考えてみようと思います。
IN FASHION:パリコレもストリートも。ジュエリーもインテリアも。今押さえておきたい旬なファッション関連ニュースやコラムを「WWDジャパン」編集長がピックアップし、レターを添えてお届けするメールマガジン。日々の取材を通じて今一番気になる話題を週に一度配信します。
エディターズレターとは?
「WWDジャパン」と「WWDビューティ」の編集者から、パーソナルなメッセージをあなたのメールボックスにダイレクトにお届けするメールマガジン。ファッションやビューティのみならず、テクノロジーやビジネス、グローバル、ダイバーシティなど、みなさまの興味に合わせて、現在9種類のテーマをお選びいただけます。届いたメールには直接返信をすることもできます。