3月に本格導入が予定されている第5世代移動通信システム(以下、5G)により、さらなる拡大が予想されるライブ配信市場。台湾発のライブ配信サービス「イチナナライブ(17 live以下、イチナナ)」も例外ではない。同サービスは2017年6月に日本法人イチナナメディアジャパンを設立し、9月に日本でローンチ。ライバーと呼ばれるライブ配信者たちに対して、視聴者はサービス内でバーチャルギフト(以下、ギフト)を購入し、プレゼントする“投げ銭モデル”を主な収益源としている。同社の調査によると、その売り上げ規模は日本のライブ配信業界のNO.1であり、63%のシェアを占めているという。「イチナナ」は日本におけるライブ配信の可能性と未来をどのように見ているのか。小野裕史イチナナメディアジャパン代表とインフルエンサーで「イチナナ」のライバーとしても活動するマリナさんに話を聞いた。
小野代表は投資家、そしてシリアルアントレプレナーとしての顔も持つ人物だ。08年にベンチャーキャピタル、インフィニティ・ベンチャーズを設立。日本と中華圏で投資を行いながら、起業家として複数企業の創業を担ってきた。ファッション業界では、ラグジュアリーECファーフェッチ(FARFETCH)に出資した後、共同代表として日本法人を設立している。そんな彼は、ライブ配信のどこに可能性を見出したのか。「ライブ配信先進国の1つである中国では既にマーケットが拡大しており、上場企業も複数社ある。中には月間で100億円以上売り上げているところもいる。まだ黎明期である日本でも、中国と同じような現象が起こる可能性は大いにある。例えばユーチューブは、10年ほどかかってようやくユーチューバーが職業候補としても考えられるほど経済的、文化的に認知されるようになった。スマホ一つあれば誰でもどこでも始められるライブ配信は、ユーチューブと同等か、それ以上のムーブメントを起こすことができると考えている」と説明する。
現在「イチナナ」は台湾や日本以外の各国にも進出しており、ユーザー数は合計4200万人。国別のユーザー数は公表していないが、日本での市場規模が一番大きく、トークや音楽、そしてヴァーチャルライバーなどさまざまなジャンルで月間数万のライバーが生まれているという。「TikTok」で約75万フォロワーを抱えるマリナさんもその一人で、19年の9月に「イチナナ」でライバーとしての活動をスタートした。「『イチナナ』は知人の紹介で始め、現在はファンの方と交流するためのトークをメインに配信している。ほかの方のライブ配信を見てどのようにファンと接しているのか勉強することもある」とマリナさん。これまでもインスタグラムのライブ機能などを使用してきたそうだが、「『イチナナ』でライブ配信を始める5分前に告知を兼ねてインスタライブをするなどして使い分けている」という。
「イチナナ」のライバーは、ユーザーから受け取ったギフトの現金化などを通じてマネタイズを行うことが可能だ。それによりライブ配信を生業とするプロライバーも出てきており、「イチナナ」の日本でのプロライバーは累計で1万7000人。マリナさんもマネタイズを実現している。成功しているプロライバーの特徴について小野代表は「定期的な配信を継続している人がやはり強い。芸能界などでも同じだが、ライブ配信では配信中しかコンテンツが発信しないこともあり、継続性が特に重要だ」と分析する。
プロライバーを始め、ユーザー数を着実に増やすことで成長している「イチナナ」は、来たる5G導入後の未来をどのように捉えているのか。「今後は5Gの導入により、動画の解像度や音質が向上し、視聴者とのコミュニケーションにおける遅延も少なくなる。われわれのほかにも、ライブ配信メディアが数多く立ち上がっていくだろう。ただ、われわれも含めライブ配信及びライバーの日本での認知はまだまだ低い。トレンドと現状のギャップをいかに埋めるかがカギとなる。私の知る限りで圧倒的に事業投資を行っている『イチナナ』としても、そのギャップを埋めるために真剣に取り組み、新領域を開拓していくつもりだ」。