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「買うことを減らすのは不可能」 サステナビリティ推進のイタリア素材見本市会長が提案する「より良くする方法」とは?

 イタリアの素材見本市「ミラノ・ウニカ」会長のエルコレ・ボット・ポアーラ(Ercole Botto Poala)=レダ(REDA)社長は、2月に開催された21年春夏展で任期を終える。ポアーラ会長は、同見本市のコンセプトを2019年春夏向けから“サステナビリティの追求”にシフトチェンジし、9月の秋冬展の開催時期を7月に早めるなど市場ニーズに応えてきた。任期終了を発表した翌日の2月5日、レダのブースにポアーラ会長を訪ねた。

「サステナビリティは企業が生き延びるための必須項目」

WWD:会長職おつかれさまでした。会長職を振り返ると?

エルコレ・ボット・ポアーラ「ミラノ・ウニカ」会長(以下、ポアーラ):いやあ、肩の荷が下りたよ。その荷はお腹についちゃったけどね(笑)。

在任中に「ミラノ・ウニカ」がなくならなくてよかった。実は開催し続けることは当然のことではない――「ウニカ」はもともと3つの異なる素材見本市を一緒にしたものだったから。私が会長職に就いて行ったことはトレンド傾向やクリエイティビティへの投資、そしてサステナビリティにも注力した。今回もイノベーティブなスタートアップ企業にフォーカスしたエリアを新設したが、前進させることができたと思う。伝統的な生地の世界に新しさをもたらすことが必要だと感じた。

WWD:サステナビリティ推進に舵を切ったのは功績だったと思う。

ポアーラ:大変だったことは、美的感覚を備えたサステナブルな生地作り。生地は美しくなければならないからだ。今はいろんなタイプの生地が出てきてずいぶん簡単に作れるようになったが、当初は表現するのが難しかった。

WWD:来場者の変化は?

ポアーラ:昨年からサステナビリティへの興味が高まっているように感じる。それは、ミレニアルズとジェネレーションZの影響だろう。市場調査によると現在、売り上げの30%を占めるのが彼らの世代で、5年後には50%になるといわれている。彼らの世代、そしてさらに次の世代はサステナビリティに対する関心が高い。つまり、サステナビリティは企業が生き延びるための必須項目ということだ。

今、若い女性が世界に向かって叫んでいる。彼女の心配事に対して、私たちはその答えを出さなければいけない。叫ぶのは簡単だが彼女も年を重ねるし、そうすればさらに若い世代が続くので要求に応えなければならなくなるだろう。

WWD:叫ぶことも勇気がいるし、大変なことだと思う。業界を見渡してサステナビリティの進捗は?

ポアーラ:現在、オーガニックコットン、ノンミュールジング(ミュールジングとはうじ虫の寄生を防ぐため子羊の臀部の皮膚と肉を切り取ること)のウール、リサイクル糸などを用いた生地が多く提案されているが、でもそれはサステナビリティの一部分でしかない。生産工程におけるサステナビリティが需要なんだが、それをどう理解していいのかわからない人が業界内でも多い。また、マーケティングでサステナビリティを打ち出している企業が多く見られるが、実質的なことに取り組んでいる企業は少ない。本当の意味でサステナビリティ意識が足りない。

WWD:気候変動が危機的状況なのに、サステナビリティに実質的に取り組んでいる企業が少ないのはなぜだと思う?

ポアーラ:今世界中で起こっていることに対して、皆が意識しない理由がわからない。「ミラノ・ウニカ」は生地を提案する場で、1年後に店頭に出る商品のためのものであり、未来を見ているところでもある。未来を見つめなければいけない指名がある。もちろん、未来のことを語るのだから間違うこともあるが、個人的にはうまくいったといえるだろう。

レダの最新の取り組みは?

WWD:レダは原料のウールの動物福祉やトレーサビリティーを徹底し、さらに設備投資をして環境に配慮した生産態勢を整えている。さらに、若手社員育成にも積極的だ。サステナビリティマネジャーは20代半ばで、さらに大学にも通うチャンスを与えて授業料まで負担している。

ポアーラ:世界をよくしようと思ったら機械頼みというわけにはいかない。人があってのサステナビリティだからね。ヒューマンサステナビリティだ。

WWD:直近の業績は?

ポアーラ:2019年は増収で1億2300万ユーロ(約145億円)だった。でもこれにはトリックがあり、毛織物メーカー「コメロ(COMERO)」を買収したからだ。その分を除けば18年と同程度だ。20年の見通しはマイナスになる。1ケタ減が2ケタ減か――新型コロナウイルスの影響もあるから2ケタ減になるだろう。

「買うことを減らすのは不可能。よりよいものを意識的に買うことが重要」

WWD:2021年春夏シーズンは、旭化成のストレッチファイバー“ロイカV550”を用いた生地「レダ フレキソ(REDA FLEXO)」を前面に打ち出した。

ポアーラ:旭化成の “ロイカV550”は、有毒な化学物質を含まない原料を用いている。ネガティブなものを地球に戻さない認証であるC2C(クレイドル・トゥ・クレイドル)認証を取得していて、分解して自然に戻る糸だから環境に優しい。そうはいっても、私はそもそも100%サステナブルな商品はないと考えている。私たちがやらなければいけないのは、さらにサステナビリティを推進していくことだ。

WWD:ファッションはどんどん新しいものを作って売っていく産業だが、シーズンごとに商品を提案すること自体にも疑問が出てきている。どういう仕組みがいいと思うか。

ポアーラ:サステナビリティの一番の敵は、皆がよい状態でいようとすること。自分が必要としている以上のものを買うから捨てることになる。私たちが学ばなければいけないのは、前に買ったものよりも良いものを買うこと。人間は自分がいい状態になりたいと思うもので、それを否定できない。だから「少なく買いなさい」ということは幻想でしかない。

会社というのは、リサーチをして投資して、生き残っていかなければいけない。人間の習性として、石器時代からずっとよりよくなろうとやってきた。でもたくさん生産して皆がリッチになると地球はそれだけ苦しくなる。でもそれをやめるのは不可能だから、作るもの、買うものをよりよくしていくことしかできない。

食品も捨てないようにするとか。顔を洗ったり歯を磨いたりするときに水を垂れ流さないようにするとか。次に買う車はハイブリッドや電気のものにするとかね。洋服は商品に認証があるもので、前に買ったものよりも環境へのインパクトが少ないかどうかを考えること。

政治家にありがちだが、「2050年にはそういう問題が少なくなっている」という発言をするのではなく、毎日少しずつインパクトを少なくするためにできることを積み重ねること。50年にはその人たちは誰もいないからね(笑)。

WWD:私の周りでも毎日できることに取り組み始めた人は増えてきた。一方、何を選べば環境への負荷が低いのかというのが複雑で、わからないまま選べずにいる。

ポアーラ:ほかの産業でも議論されていることだが、政府がそのうち法律を作ってファッション業界もトレーサビリティーを明確に表示するようになっていくと思う。時間の問題だろう。

WWD:個人的なサステナブルアクションは何をしている?

ポアーラ:いっぱいお金を使うこと(笑)。「テスラ」の電気自動車を買った。ちょっと変な音がするんだけどね(笑)。歯を磨くときは水道を止める――これはずっと前からの習慣でもある。アフリカでの兵役のときには水がなかったからね。毎日、自分たちによる環境への負荷をなるべく少なくするように心がけているよ。会社では、認証を取って取り組んでいる。自分では測ることができないから、第三者機関に依頼して少しでも負荷を少なくすることに取り組んでいる。

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