「モンクレール(MONCLER)」はミラノ・ファッション・ウイーク期間中の2月19日、「モンクレール ジーニアス(MONCLER GENIUS 以下、ジーニアス)」2020-21年秋冬コレクションのプレゼンテーションを開催した。会場となったのは、もともとは市場だったという広さ1000平方メートルの巨大な建物。その中に、参加した9人の個性豊かなクリエイターがそれぞれの趣向を凝らしたブースを設け、新作を披露した。今回で3回目の秋冬シーズンを迎えた同プロジェクトのモットーは、 “1つのメゾン、異なるボイス(ONE HOUSE, DIFFERENT VOICE)”。協業を通してブランドの多様な可能性の探求し、進化を続けている。
今季の「ジーニアス」の目玉は、なんと言っても新たにメンバーに加わったジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)によるコレクションだろう。アンダーソンは、自身のブランド「ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)」のコレクションで過去に発表したデザインを出発点に、ダウン素材を生かしたアイテムを提案。メンズとウィメンズで共通するスタイルも多く、彼らしいジェンダーの垣根を超えたコレクションに仕上げた。
さらに新たな取り組みとして、ファッションだけでなくプロダクトの分野にもプロジェクトを拡大。ドイツのラゲージブランド「リモワ(RIMOWA)」との協業によるトラベラーの考えを映し出すLEDスクリーンを搭載したラゲージコレクション「モンクレール リモワ “リフレクション”」を発表したほか、デンマーク発の「メイト バイク(MATE.BIKE)」と共に制作した山道や雪道にも対応する折り畳み電動自転車もお披露目した。また、ドッグウエアブランド「ポルド ドッグ クチュール(PORDO DOG COUTURE)」とも引き続きコラボしている。
その他の「ジーニアス」メンバーは、前回からの続投。「フラグメント デザイン(FRAGMENT DESIGN)」の藤原ヒロシや「1017 アリックス 9SM(1017 ALYX 9SM)」のマシュー・ウィリアムズ(Matthew Williams)、シモーン・ロシャ(Simone Rocha)、クレイグ・グリーン(Craig Green)、リチャード・クイン(Richard Quinn)らが名を連ねる。ここからは、各コレクションをリポートする。
1 MONCLER JW ANDERSON
テーマは、“ノンバイナリー・エレガンス”。「男性にも女性にも分類されない性別認識」を指す「ノンバイナリー(Non-binary)」を掲げたコレクションは、まさにアンダーソンが自身のブランド「ジェイ ダブリュー アンダーソン」で早くから打ち出してきたジェンダーの固定観念を覆したデザインが着想源だ。ドットやスパイクのデザインをダウンで表現したジャケットと裾にラッフルを配したショートパンツのカラフルなルックや、質感の異なるマットとシャイニーな素材のコントラストを生かしたレイヤードルックで、カントリースタイルと都会的な装いを融合した。
2 MONCLER 1952 WOMAN
ヴェロニカ・レオーニ(Veronica Leoni)が手掛ける「モンクレール 1952」のウィメンズは、赤い砂が盛られた空間でショーを開催。“洗練されたフェミニニティー”をテーマに「モンクレール」のアウターウエアとアウトドアの要素を再解釈し、フェミニンでエレガントなコレクションを披露した。素材は、テーラリングに用いられるウールやデヴォレ・ベルベット、ナイロンツイル、ダイヤモンドキルティング、ニットを多用。テクスチャーのレイヤードやミックスで、立体感のあるスタイルを生み出している。
2 MONCLER 1952 MAN
“ロサンゼルスとのコラボレーション”がテーマにしたセルジオ・ザンボン(Sergio Zambon)による「モンクレール 1952」のメンズは、現地を拠点にするアーティストとの協業による巨大なオブジェやパネルを並べた空間を用意。LAのユースカルチャーを着想源に、グラフィカルなプリントやポップカラーと、1970年代を象徴するプレッピーやヒッピー、パンクなどの要素を掛け合わせ、若々しくリラックス感のあるスタイルを提案した。特にコーデュロイのダウンジャケットやダウンベストが印象的だ。
3 MONCLER GRENOBLE – SANDRO MANDRINO
サンドロ・マンドリーノ(Sandro Mandrino)は、今季もユニークな演出でコレクションを発表した。それは、天井から横向きにワイヤーで吊るされたモデルたちが壁を歩き、その様子が鏡張りになった床に映し出されるというもの。モデルが着るスキーウエアのようなジャケットやパンツは真っ白でシンプルに見えるが、照明が消えると光る仕様になっている。ただ今季のコレクション全体のテーマは、“多種多彩なカラー”。手描き風のカラフルなプリントと鮮やかな色を駆使したスキースタイルを取りそろえる。
4 MONCLER SIMONE ROCHA
“モダンロマンティシズムの躍動”をテーマにしたシモーン・ロシャは、イタリア人映画監督のフェデリコ・フェリーニ(Federico Fellini)の描く世界から着想。赤いベルベットで覆われた映画館のようなスペースを用意し、ショートムービーを通してコレクションを見せた。コレクションのキーワードは、「ダンスとドレスのファンタジー」。フレアシルエットやパフスリーブを取り入れた彼女らしいロマンチックでガーリーなシェイプを、アクティブなルックへと昇華した。装飾はパンジー、デイジー、ローズといった花々をモチーフにした刺しゅうやエンボス、プリント、そして、この上なく軽やかなチュールを用いたフリルがポイント。
5 MONCLER CRAIG GREEN
クレイグ・グリーンが掲げたテーマは、“トランスペアレンシー(透明性)とプロテクション(保護)”。プレゼンテーションでは2つの部屋を用意し、その一つではところどころにスリットが入ったキルティングシートのようなアイテムをモデルが着用。もう一方では、中に空気を入れて膨らんだマイクロリップストップナイロンのカラフルなシート状のアイテムがモデルの体を包む。今季もかなりコンセプチュアルだが、どのように実際のアイテムに落とし込まれるか気になるところ。
6 MONCLER 1017 ALYX 9SM
“マウンテンの都会的な探索”をテーマに、マシュー・ウィリアムズはガーメントダイを探求した。色は、くすみのある白やサンドベージュ、ネイビーと黒が中心。リサイクル・ナイロンラケなどサステナブルなテクニカルファブリックを用いたアウターウエアを軸にしたスタイルを展開する。デザインのアクセントとなるのは、アイコニックなバックルなどの金具をはじめ、ラバーのトリムや止水ファスナーといったインドストリアルなディテール。インパクト満点のスワロフスキーを全面にあしらったジャケットもある。会場では、垂直に印刷できるインクジェットプリンタを使い、巨大なパネルにルックビジュアルを描いた。
7 MONCLER FRAGMENT HIROSHI FUJIWARA
テーマは“継続的な文化のプログレス(発展)”。歪んだ鏡で囲まれた空間の中で、ビンテージやミリタリーなどの要素を藤原ヒロシらしい視点で取り入れたストリートスタイルを提案した。今季のトピックスは、豊富なコラボレーション。ポケモンとの合同プロジェクト「サンダーボルト プロジェクト(THUNDERBOLT PROJECT)」との取り組みを継続している他、新たに「コンバース(CONVERSE)」「ルイスレザー(LEWIS LEATHERS)」「ラミダス(RAMIDUS)」と協業。アメリカのファンクバンド、クール・アンド・ザ・ギャングが1975年に発表したアルバム「Spirit of the Boogie」のグラフィックなど、アウターの背面に施されたデザインも目を引く。
8 MONCLER RICHARD QUINN
“リュクスの拡大”をテーマにしたリチャード・クインは、今シーズンも自身のクリエイションを象徴するカラフルで大胆なプリントを活用。そこに刺しゅうやビジュー装飾を施すことで、華やかなコレクションを作り上げた。宇宙ステーションのような雰囲気の空間に登場したモデルは、60年代をほうふつとさせるミニドレスが印象的。加えて、ウエアからアクセサリーまで全身をプリントで覆ったインパクトのあるルックやクチュールライクなイブニングガウンまでを打ち出した。
JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。20年2月からWWDジャパン欧州通信員