新型コロナウイルス騒動で世界が揺れる中、ミラノ・ファッション・ウイークが続いています。「イタリア人は、予想以上に優しい」と話す日本人が大半ですが、それでもさすがに今回は、アジア人に対する街の人々やバックステージの反応は、いつものミラノと違うように思います。今季は、毎回バックステージのパスが出ていたブランドからも取材許可が下りなかったり、撮影がNGになったりしています。
「フェンディ(FENDI)」のバックステージでは、全てのバックステージ・フォトグラファーは外で待つよう指示され、ビューティの撮影はできないことを現場で言い渡されました。現地のスタッフと話していた知り合いのフォトグラファーが私に向かって、「コロナウイルスのチェックをするって。グッドラック!」。外で待つこと約50分、ようやく中に入ると、ミラノの空港のように衛生保健員の方々が体温計を手に待機しています(現在イタリアでは、ほとんどの空港で体温チェックがおこなわれています)。一人一人の額にレーザーを当てて体温をチェック。バックステージには別の衛生保健員が2人、具合が悪くなった人をケアできるよう待機していました。慎重な体制は最悪の事態に対する備えです。開催者としての、責任ある姿勢を感じました。3日目を終えた段階では、こんなブランドは他にはありませんし、知り合いからも耳にしていません。
残念なことにバックステージでは、私を含めたアジア人をジロジロ見ながらコソコソ話す人、露骨に避ける人も結構います。「あのモデルは、中国人かな?」という会話が聞こえてきたり、汚いものを見るかのように扱われたりもないわけではありません。某有名ブランドでは、現地のフィッティングスタッフが私を物色した後に面と向かって「チナ(中国)」と言ってきます。「私は日本人です」と返すと、「日本も危険」と言われました。そこで「パリに住んでいます」と答えると「オッケー」だそうです。
フォトグラファー同士でも、くしゃみをした仲間に「あ、お前ウイルス持ってるんじゃない?」と笑えないジョークを飛ばす人が。言われた本人も「中国に行ってないのに、おかしいな。昨晩、中国発祥のマッサージに行ったけど、そのせいかな?」と、これまた笑えないジョークで返す。そして、私をちらっと見る。私がくしゃみをしたら、きっとこれ以上の差別を受けることでしょう。もちろん全ての人が差別しているわけではなく、「もうアジア人だけの問題じゃないんだから、アジア人を避けたり差別したりするのはバカみたいだし、間違っている」とコメントしてくれる人もいます。
このように、今回のバックステージの取材はいつもにも増して人種差別が酷く、肩身が狭い時もあります。また、電車やトラムなどの公共機関でもお年寄りを中心に同じような態度を取られることがあります。ただ私自身、あるバックステージで具合が良くないアジア系モデルがゴミ箱に嘔吐している姿も見かけた時、今はなおさら、ちょっぴり神経質になってしまったのが正直なところ。過敏になるのは仕方なくもあります。
今回のミラノ・ファッション・ウイークのリアルでした。
景山郁:フリーランス・フォトグラファー。2003年からフォトグラファーとしてのキャリアをスタート。07年に渡米、09年より拠点をパリに移す。10年から「WWDジャパン」でパリ、ミラノなどの海外コレクションのバックステージと展示会などの撮影を担当。コレクション以外にもポートレート、旅やカルチャーなどエディトリアル、広告を手掛ける。プライベートでは動物と環境に配慮した生活をモットーにしている