ビューティ
連載 鈴木敏仁のUSリポート

鈴木敏仁USリポート ビューティ専門店「セフォラ」の出店拡大の背景

 アメリカ在住30年の鈴木敏仁氏が、現地のファッション&ビューティの最新ニュースを詳しく解説する連載。今回はビューティ専門店チェーンであるセフォラ(SEPHORA)の成長とその戦略をリポートする。

 ビューティ専門店チェーンのセフォラが今年の新店計画を発表した。昨年の新店数のおよそ2倍となる100店舗を北米にオープンするという。同社はフランス企業のLVMH傘下で、コングロマリットのLVMHは事業ごとの詳細な数値を公表しておらず、セフォラもご多分にもれず正確な数値は不明なのだが、2018年度の店舗数はグローバルで約1900店舗と記載されていて、これに加えて百貨店のJ.C.ペニー(J.C. PNNY)内にインストアショップとして660店舗を有しているので総数は2500店舗前後となる。

 アメリカ国内の店舗数も未公表なのだが、ある資料によると昨年半ばの時点で単独店舗が約500店舗、そして昨年の新店予定数は35店舗となっている。今年の新店計画の100店舗にはJ.C.ペニー内のインストアショップを含んでいないようなので、35から100へと新店数を急増させたことになり、絶好調なのだろうという推測が成立する。

 アメリカ国内には競合するビューティ専門店チェーンとしてもう1社、アルタビューティ(ULTA BEAUTY)がある。こちらも好調で、一昨年度の売上高は67億1661万ドル(約7388億円)で前年比14.1%増、既存店成長率は同8.1%増、店舗数は1174店舗で新店数は107店舗だった。ネット販売がリアル小売業界をディスラプト(崩壊や粉砕)しているという論調で語る人が少なくないが、そういうわけでもないということが分かる。

 ちなみにセフォラの年商は私の推計で100億ドル(約1兆1000億円)を超えている。ビューティを専門店として売るだけで1兆円を超えるのだ。日本にはビューティ売り場を持つ企業が多いが、専門店フォーマットとしてここまで大きな企業は存在せずイメージしづらいかもしれない。世界にはそういう小売企業が存在するのである。

セフォラの出店が新しいステージへ

 今年のセフォラの新店計画で目を引くのは、店舗数の急増だけではなくて、出店する立地も今までとは異なっている点である。今までの店舗のほとんどはモール内だったのだが今年からはモール外に積極的に出していくとしている。またニューヨークやロサンゼルスといった人口の多い大都市に集中させてきたのだが、今年から中規模都市にも進出していくという。

 セフォラの創業は1969年のことで、イギリスのブーツと香水チェーンによる共同事業から始まっている。93年にドミニク・マンドノー(Dominique Mandonnaud)氏が買収して自身の香水チェーンと統合したが、このマンドノー氏がカウンター越しに対面で売る従来の売り方からセルフ環境で売る手法へと変え、これが今の成功へとつながっている。

 ビューティは高価格帯で対面要件がつくプレステージと、低価格帯でセルフで売ることができるマスとに、大きく2つに分類することができるのだが、これをコントロールしているのはブランドメーカーである。商品を置く店舗を厳選し、自社が雇う美容部員を配して他人には売らせないのがプレステージである。ところがお客の中には誰かを介さないと買えない対面販売が面倒だと感じる人もいるし、買わされてしまうという心配から敬遠する人もいる。また、対面販売が成立する要件は販売する側と買う側に情報の非対称が存在することなのだが、メディアの普及で十分な情報を持つ消費者が増えて対面ニーズが薄れ始めた。

 こういった消費者の変化をセフォラは捉えて、セルフでプレステージを売る売り場環境を作り、いわば売り方の革新を起こしたのだ。実はアルタビューティも類似するフォーマットを展開しているのだが創業は90年なので、どちらがオリジナルなのかは今となっては分からない。ヨーロッパとアメリカでほぼ同時期に同じような特徴を持つフォーマットが生まれたのである。

 アルタビューティは他にもユニークな特徴を持っているのだが、詳しい話は別の機会に譲るとして、両社の最大の相違点は立地にある。セフォラはモール内、アルタビューティはモール外なのだ。アルタビューティは主に中商圏規模のコミュニティー型ショッピングセンターに出店する。

 プレステージブランドは百貨店による独占販売に近い存在で、これを同じモール内に立地するセフォラが徐々に崩していった。消費者の買い方の変化と、百貨店自体の集客力の低下の2つが追い風となったのだが、ブランドメーカーも売り上げが伸びない百貨店の外に販路を求め始めていて、そこにセフォラとアルタビューティの新しいフォーマットがマッチしたのだと考えられる。

百貨店にとっては驚異

 セフォラがモール外にこれから店舗を増やしていくのは、モール内でのビジネスがそろそろ飽和し始めたからだろう。そしてこれで影響をこうむるのは直接競合するアルタビューティと、近隣で買えるようになることで消費者の足がさらに遠のく百貨店ということになる。今後のモール外の新店の面積は既存の5500スクエアフィート(510平方メートル)から4000スクエアフィート(372平方メートル)に縮小すると言っているので、小商圏出店も想定しているのだろう。

 ある調査会社によると、アメリカのビューティ市場は2009年から10年間で52%伸びたという。これは市場全体の成長率なので年平均5%という伸びは高く、さらに今後もしばらく続くだろうとみられている。アメリカでは新興のデジタルブランドが続々と誕生しているのだが、一つには市場全体の大きな伸びがある。セフォラの積極的なリアル店舗の拡大戦略も市場の成長が背景にあるといってよい。

鈴木敏仁(すずき・としひと):東京都北区生まれ、早大法学部卒、西武百貨店を経て渡米、在米年数は30年以上。業界メディアへの執筆、流通企業やメーカーによる米国視察の企画、セミナー講演が主要業務。年間のべ店舗訪問数は600店舗超、製配販にわたる幅広い業界知識と現場の事実に基づいた分析による情報提供がモットー

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