「WWDジャパン」2月24日号は、2019-20年秋冬版の「百貨店ビジネスリポート」が別冊付録となっています。同別冊は定期購読者向けサービスとしてスタートしましたが、19年春夏からは単独での販売も開始。全国約50の百貨店にアンケートを送付し、カテゴリー別の売り上げ進捗を掲載しています。別冊と連動し、「WWDジャパン」本紙では有力百貨店の特選(ラグジュアリーブランド売り場)バイヤーに、19年7~12月の商況を個別取材しました。新型コロナウイルスの感染拡大で20年1月以降は状況が一変しましたが、19年秋冬も、消費増税や免税売り上げ減など、さまざまな要素が特選売り上げに影響を与えました。担当記者による対談形式で、取材のこぼれ話をお届けします。
対談参加者
三浦彰:「WWDジャパン」編集顧問
五十君花実:特選担当記者/ニュースデスク
五十君:ここ数年、百貨店各社は特選や宝飾、高級時計などの売り場を拡大し、その分婦人服や紳士服売り場を縮小するという動きを進めてきました。その甲斐もあって、都心店を中心とした19年7~12月の特選売り上げは、前年実績を超えたという声が多かったですね。
三浦:確かに特選の売り上げは前年を上回ってはいたけど、10月からの消費増税がボディーブローのように効いた感じがするよね。当初、特選では「増税前の駆け込み購入はそれほど起こらない」という見方が大勢だった。それが蓋を開けてみたら、9月末の短期間で予想以上に駆け込み購入があったと話していたバイヤーは多かったですね。
五十君:一方で、外商顧客のような富裕層の売り上げは、増税後もほとんど影響がなかった。庶民は増税前の駆け込みで長期間使える定番アイテムを購入したということですが、富裕層にとっては消費税率が8%から10%に上がろうと大した違いではないんですね。消費の二極化がいっそう進んでいるように感じます。
三浦:特選売り上げは国内の富裕層に底支えされているけれど、一般市場の景況感は暖冬も影響して悪いよね。それは新型コロナがここまで拡大する前から感じていました。単純に消費税率が2%上がったという話ではなく、10%になったことで税の“透視化”が進んだと思う。8%だとあまり細かく計算しなかったけど、10%になったことではっきりと金額として見えるようになった。それに、昨年11月にIMF(国際通貨基金)が「日本は30年までに消費税率を15%まで引き上げるべき」と報告書で指摘しています。増税はこれで終わりではない。そういうことを考えると、そりゃあ財布のひもは固くなりますよ。
五十君:増税に加えて、免税売り上げの減速という要素も19年7~12月の特選売り上げを語る上では欠かせません。円高人民元安がショッピングを楽しむ訪日外国人(インバウンド)客に水を差しました。インバウンドのおう盛な消費を享受し、この間2ケタ伸長を続けてきた新宿や銀座の百貨店で免税売り上げにブレーキがかかっていましたね。一方で、渋谷の街全体の再開発が起爆剤となり、西武渋谷店特選の免税売り上げは前年同期比12%増とのことでした。
三浦:新型コロナの感染収束はまだ先になりそうだし、免税売上高は19年7~12月が天井で、これ以上伸ばすことはもう難しいんじゃないですか? 15年に中国人客による“爆買い”が話題になって、16年には中国政府の締め付けでそれが一気に消えて、百貨店各社は大幅な売り上げ減に苦しみました。でも、特選カテゴリーはそこからずっと伸ばしていたんだよね。百貨店がラグジュアリーブランドと組んで富裕層の掘り起こしに精を出してきた成果なわけだけど、それもいよいよ厳しくなりそう。東京五輪が控えているとはいえ、楽観はできない。よりいっそうの消費振興策が必要になるね。
王道ブランドの定番品に消費が集中
五十君:全国の百貨店への特選アンケートで伸長率上位となったブランドは、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」「エルメス(HERMES)」「ロエベ(LOEWE)」「ディオール(DIOR)」の順でした。「グッチ(GUCCI)」「バレンシアガ(BALENCIAGA)」は急成長期を終え、安定期に移ったという感触です。
三浦:前シーズンから続く傾向ではあるけど、「ルイ・ヴィトン」「エルメス」「ディオール」と並ぶと、マーケティングに大規模投資ができるメガブランドにラグジュアリー消費が収れんしているんじゃないかと感じるよね。
五十君:阪急うめだ本店などが、「価値が変わらない定番品を買い求める動きが広がっている」といったことを話していたんですが、それもメガブランドの活況を後押ししているようです。アイテム別で声を集めると、「ディオール」のトートバッグ“ブックトート”をヒットアイテムとしてあげる声がかなり強かったですね。
三浦:“ブックトート”をきっかけに「ディオール」が浮上したというのはニュースでした。阪急うめだ本店や高島屋(全17店)の7~12月の「ディオール」売り上げは、同60%増以上と絶好調だった。あとはやはり「ルイ・ヴィトン」の底堅さが印象的だったよね。百貨店と組んで、ホテルでの外商催事などのイベントをかなり強化してきた成果なんだと思います。
五十君:引き続き、大丸松坂屋百貨店などで、「『ルイ・ヴィトン』がクロコダイル革などのエキゾチックレザーのバッグを増やしており、売れている」という話が出ました。
三浦:エキゾチックレザーって、販売力があるブランドでないと売れない商品ですよ。一見客にクロコダイルなんて売れませんから、百貨店の外商部門とブランドが組んでお客さまを丁寧にケアする必要がある。「ルイ・ヴィトン」は国別売り上げを公表していないけど、日本では恐らく00年代前半にピークがあって、08年のリーマンショック、11年の東日本大震災でガクンと落ち込んでいたはず。百貨店の声を総合すると、そこから今はまた大きく回復しているような感触があります。「ルイ・ヴィトン」でバッグやスモール・レザー・グッズ(財布など)が売れたといわれても当然ですけど、「ウエアの構成比率が高まっている」という声が何人かのバイヤーからあがったのは印象的でした。10年前はウエアの構成比率は3~5%前後だったと思うけど、それが今では2~3倍になっているといった話もあったね。
五十君:バッグ以外が売れて好調という話は「エルメス(HERMES)」にも通じます。「バッグに加えてウィメンズシューズも前年同期比50%増と好調」(藤崎)、「シューサロン設置も含め、トータルコーディネート提案を強化したことが奏功」(岩田屋本店)、「ジュエリー売り上げも好調」(大丸札幌店)といった声がアンケートで見られました。伊勢丹新宿本店でも、19年7~8月に、1階の「エルメス」ブティックではなく2階の靴売り場内で靴のポップアップストアを開いていましたよね。
三浦:なんといっても、「エルメス」靴部門のディレクターはピエール・アルディ(Pierre Hardy)ですからね。それに加えて、彼はジュエリー部門も率いているはず。今はシューズとジュエリーが“ファーストエルメス”として人気になっているそうだね。バッグの“ケリー”や“バーキン”だと100万~300万円だけど、シューズだとヒールサンダルやスニーカーで10万円前後。若い男性客にも人気のシルバーチェーンブレスレット“シェーヌ ダンクル”も20万円前後という感じでしょう?ラグジュアリーブランド全体の話として、バッグやレザーグッズは散々売ってきたわけだから、それ以外のアイテムを強化するというのは自然の流れだよね。