平均価格約2万円の日本製時計で2万通り以上に組み合わせられる――それが「ノット(KNOT)」だ。クラウドファンディングにより資金を得た遠藤弘満社長が2014年にスタートさせた。口コミでファンを増やし、これまでに35万本を販売。その「ノット」が昨年末にテレビCMを放送し、5月には6カ国目となる海外店舗をフィリピン・マニラにオープンする。次なるフェーズに入った心境と狙いについて遠藤社長に聞いた。
WWD:今やカスタマイゼーション(パーソナライゼーション)はファッションビジネスに欠かせないキーワードの一つとなったが、「ノット」は時計分野でそれを先導した。トップランナーが感じる現在地点とは?課題についても聞きたい。
遠藤弘満KNOT社長(以下、遠藤):多くのメーカーが追随し、時計業界でもカスタマイズは一つのカテゴリーになった。しかし僕は、カスタムブランドを作ろうとしたわけではない。“カスタムだから売れる”わけでもない。これを見誤っているブランドが多い。“「ノット」が2万通り以上なら3万通り以上にしよう”“「ノット」がイージーオーダーならフルカスタムにしよう”では結果は出ない。同時に僕は、時計が“時を知る道具でいい”とも思わない。それならスマホで十分だし、このままでは“左手に何かがのる当たり前”がなくなってしまうと感じ、新たな価値を創出するべく「ノット」に取り組んだ。
WWD:それは付加価値ということか?
遠藤:もっと平たく言えば“ファッション”だ。眼鏡がそうであるように、僕は“時を知るための道具”にファッションをプラスした。ファッションとはコーディネートであり、コーディネートできない時計を売っていて何がファッションだ!が起点だった。
WWD:そんな「ノット」の客層について知りたい。
遠藤:決定率で言うと男女比は5.5:4.5だ。ブランド創設当初は9:1か、それ以上だった。現在は30代のカップルが多く、就学前の子どもがいるケースが多い。
WWD:「ノット」の強みとは?
遠藤:“体験可能な場”として店舗を持っていること。“ギャラリーショップ”と呼ぶ直営店を11、“コンセプトショップ”と呼ぶサービスなどについて特別な研修を行った卸先を5つ持つ。ギャラリーショップの中には19年12月、1号店である吉祥寺店の地下にオープンした“プレミアムサロン”も含まれる。機械式時計に特化したショップだ。これらとは別に、売り上げベースでは1割弱だが、純粋な卸先もある。
WWD:直近のオープン予定は?
遠藤:3月末~4月頭の予定で京都店が、また5月30日には「ニュウマン横浜(NEWoMan YOKOHAMA)」内に新店ができる。その先は、まず日本全国のエリアにギャラリーショップをオープンしたい。そのために、あと20店舗は必要だ。そのうえで25年までに約30店舗を開店したい。プレミアムサロンも増やしたい。
WWD:EC化率は?
遠藤:「ノット」はクラウドファンディングからスタートしたブランドなので、当初EC化率は100%だった。それが落ち着いて今は25%ほど。理想的な数字だと思う。まずは店舗で体験してほしいからだ。ECは、あくまで実店舗を補完する役割。
WWD:台湾、シンガポール、タイ、ベトナム、韓国と海外にも5店舗を持つ。海外戦略の今後は?
遠藤:5月にフィリピン・マニアに6店舗目ができる。アジア進出に障壁は感じない。しかし同時に、結果も出にくい。“アジア”とひと口に言っても多様で、数字で測りにくい部分がある。例えば日本なら平均収入の“山”となる部分が日本人像を形作るが、アジアの場合、上と下に振り切れた層がおり実像がつかみにくい。
WWD:欧米はどうか?
遠藤:現状、認知度はないに等しいが日本の店舗を訪れた客からは、「日本製の時計をこの価格で買えるのはすごい!」「すぐに私の国に出店すべきだ」と言ってもらえている。
WWD:ブームだった北欧系ミニマルデザインウオッチは失速した。そのユーザーを取り込めているか?
遠藤:取り込んでいるとも取り込んでいないとも言えない。「ノット」が独自路線をいくからだ。われわれは“サービスを売っている”と考えている。
WWD:フルオーダーに疲れた層に向けたイージーオーダーの選択はさすがだと感じた。今後、カスタムウオッチの分野はどうなると予想する?
遠藤:重要なのは、メーカーが“楽しさ”を提供できているかどうか。同時に、面倒くさい部分をメーカーがしっかり請け負っているかだと思う。
WWD:昨年末にテレビCMを放送したり、“ノット・スタイルブック”と名付けたライフスタイル誌のようなSPツールを制作するなど、“きちんとPRして大きく前進しよう!”というフェーズに入ったと推察する。それに至った経緯と、今後の具体策について聞きたい。
遠藤:おっしゃる通り、次のフェーズに進もうとしている。腕時計の裾野をいっそう広げたい。「ノット」の累計販売数は35万本で、20万人のメンバー(登録者)がいる。“100万ユーザーをつくろう!”が当面の課題だ。先日、外部の業者に依頼して全国の老若男女約2万人にアンケートを行った。その中で東京でのブランド認知度は23%だった。一方、沖縄では0%!われわれは19年6月に「サンエー浦添西海岸パルコシティ(PARCO CITY)」に出店したが、“売れないわけだ”と納得した(笑)。テレビCMはある種の所信表明とも言えるが、今後はオウンドメディアを核にしたい。それを支える存在としてSNSも強化する。
WWD:メード・イン・ジャパンを貫くための開発、それに伴う提携・買収についても聞きたい。
遠藤:無策な内製化は不要。アウトソーシングにも、しっかり投資をする。それが工場にとって保証や安心になるからだ。KNOTは創業から3年間、ラインの確保など工場との関係性づくりに終始した。
WWD:売上高や伸長率など、現在の好調を示す数字を何か開示してほしい。
遠藤:具体的な数字はオープンにできないが、今は“踊り場”にいる。
WWD:それは“上位置でキープできている”ということか?
遠藤:その理解でいい。機械式時計の売り上げは、前年比で10%増となっている。ただし数字をがむしゃらに追い求めるのではなく、“豊かに成長したい”と思っている。