「WWDジャパン」2月24日号は、毎シーズン恒例の「百貨店ビジネスリポート」2019-20年秋冬版が別冊付録となっています。同別冊と連動し、有力百貨店の特選(ラグジュアリーブランド売り場)バイヤーの取材を担当した記者が、対談形式で取材のこぼれ話をお届けします。
対談参加者
三浦彰:「WWDジャパン」編集顧問
五十君花実:特選担当記者/ニュースデスク
五十君:対談の前編で、バッグやスモール・レザー・グッズ以外のアイテムが売れたブランドが好調だったという話をしましたが、「ジル サンダー(JIL SANDER)」もまさにそうでしたね。バッグの“タングル”やバレエシューズが売れているという話はここ数シーズン出ていましたが、19-20年秋冬は「アウターを中心にウエアも売れた」という声があがりました。松屋銀座本店と西武渋谷店では19年7~12月の売り上げが前年同期比40%増、伊勢丹新宿本店では同30%増だったといいます。
三浦:これまでは「アウターで50万円~と、ウエアは高額で販売が難しい」という話だったから流れが変わったね。新ラインの「ジル サンダー+(JIL SANDER+)」が19年秋にスタートしたことで20万円前後のアウターが増えて、ウエアを購入する若年客が増えたということだった。
五十君:ウエアが売れているブランドとしては、「ロエベ(LOEWE)」の名前もあがりました。「フィービー・ファイロ(Phoebe Philo)時代の『セリーヌ(CELINE)』がそうだったように、今一番かっこいいお客さまを集めているのは『ロエベ』と『ジル サンダー』」だと、あるバイヤーが話していたのが印象的です。フィービーが「セリーヌ」を去って空白となった大人のリラックスエレガンス市場“ポスト・フィービー市場”は、「ジル サンダー」や「ロエベ」が獲得したと見ていいですね。
三浦:あとは、「ザ・ロウ(THE ROW)」も前年同期の2倍以上の売り上げと伊勢丹新宿本店のバイヤ―が言っていたよね。“ポスト・フィービー市場”に「ザ・ロウ」で臨もうと戦略を立てて売り場を拡大した効果も大きかったようけど、ブランド側が価格や商品の幅を広げたことも奏功しています。半面、エディ・スリマン(Hedi Slimane)体制になって2シーズン目の「セリーヌ」は、フィービーのラストシーズンである前年同期が絶好調だった分、苦戦の声が強かった。打ち出していたキュロットパンツの初速はよかったという店もあったけど、結果的に「フィービー時代に出していたパンツの売り上げを超えることはなかった」とのことだった。ただ、これでエディ体制になって丸1年が経ったから、20年春夏からは調子も上がるんじゃないの?
五十君:クリエイティブ・ディレクターが交代して間もないブランドでは、「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」も前年割れとの声がほとんどでした。「売り上げがついてくるのはまだこれから」「売れそうな気配はあるが、まだ爆発はしていない」そうです。編集者やインフルエンサーの間では評価がうなぎ上りなので、そのギャップにはやや驚きました。前年割れの要因は、「一般消費者の間ではブランドイメージが以前と変化していない」ことにあるようです。ブランドが刷新を進めていることの認知が広がれば、状況は大きく変わりそうですね。
三浦:「プラダ(PRADA)」は、店によって好・不調が別れたね。たとえば、伊勢丹新宿本店や大丸松坂屋百貨店などは前年実績を超えたと話していた。好調という言葉ではなくて「底を打った」と表現していた店もあるけどね。ラフ・シモンズ(Raf Simons)の共同クリエイティブ・ディレクター就任が大きく話題になっているから、今後はそれがカンフル剤のように効いて、復調間違いなしだと思うけど。
ラグジュアリーもドミナント出店する時代?
五十君:ここ数年、驚異的な伸びで市場をリードしてきた「グッチ(GUCCI)」「バレンシアガ(BALENCIAGA)」の伸び率はぐっと下がって、安定期に移ったという印象です。ただ、例えば高島屋(全17店)の7~12月でいうと、「グッチ」が前年同期比15%増、「バレンシアガ」も同10%弱増だったといいいます。
三浦:それこそ外商組織がしっかりしている百貨店の強みなんだと思いますよ。ある店舗の店頭で売れなかったとしても、そのブランドの常設売り場がない他店舗で外商営業にまわせば売れるというケースもあるだろうし。そうなると、ブランドの流行期が去って勢いが以前より落ちてきたとしても、息長く売り続けることができる。それはブランドを守ることになりますね。ラグジュアリーブランドにとって、そこは百貨店と組むメリットだと思います。
五十君:確かにそうですね。ただ、ラグジュアリーブランドの出店先は今までは百貨店がほとんどでしたが、最近はそうした考え方がやや変わってきているように感じます。19年11月にオープンした渋谷パルコに、「グッチ」「ロエベ」が入って話題になりましたが、パルコの開発担当者に「これまで取り組みのなかったラグジュアリーブランドをどうやって口説いたのか?」と聞いたんです。「ラグジュアリーブランドはこれまでの百貨店との付き合いの中で、年齢の高い客層はしっかりつかんでいる。でも、これからの時代のラグジュアリーのあり方を考えたら、若い客が来る場所で、カルチャーなどさまざまな要素とともにブランドを発信するべきではないか?と伝えた」と言っていました。渋谷パルコだけでなく、百貨店外の商業施設にラグジュアリーブランドが出店するケースが最近は目立ちます。
三浦:今回の取材の中でも、渋谷・宮下公園の再開発で6月に開業する新施設に「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」「グッチ」「バレンシアガ」「プラダ」が出店するという話が出たね。どのブランドも既に渋谷の百貨店や商業施設に店があるし、この4ブランド以外でも、例えば「ケンゾー(KENZO)」は西武渋谷店、渋谷パルコ、渋谷スクランブルスクエアと渋谷地区だけで3店を出しているよね。コンビニ並みとは言えないけど、ドミナント出店ではある。コンビニとは違ってそう簡単に効率化はしないと思いますけどね。ただ、ラグジュアリーやデザイナーズのブランドが、将来のために出店先の業態やブランドの切り出し方を検証しているというのは強く感じる。みんな次の一手を模索しているんじゃないですか?