現在パリで開かれているファッション素材見本市「プルミエール・ヴィジョン(PREMIERE VISION以下、PV)」の3大トピックスといえば、新型コロナウイルスの影響、見本市の開催時期のバッティング問題、そしてサステナビリティだ。
新型コロナウイルスの影響について企業関係者は「人の移動に制限がかかっているばかりか物流も止まっているので、すでに納期が遅れている取引先との調整を急いでいる」「リスクを分散させるために欧州でのサプライチェーン構築を再検討している」などと対応を語る。見本市が生地を紹介する場から調整の場になっている企業もある。
PVの開催時期の前倒しは、特にイタリア企業にとっては大きな問題になっている。このままでは21年は2月の春夏展も7月の秋冬展も「ミラノ・ウニカ(MILANO UNICA)」と会期が重なるからだ。両方の企業に出展する企業は「なんとか会期がずれることを祈っている。とにかく待ちましょう」「二手に分かれることは難しく、どちらかを選べといわれたら――『ミラノ・ウニカ』だろう」と考え方はさまざまだが皆が困惑している。
サステナビリティは、素材メーカーにとってもはや必須事項になっているが、特にフランスに目を向けると、廃棄禁止の法律がこの1月に成立されるなど、政治の力もあって加速している。
3大トピックスについて、PVの責任者であるジル・ラスボルド(Gilles Lasbordes)=ゼネラル・マネジャー(以下、ラスボルド)に直撃取材した。
WWD:新型コロナウイルスの影響は?
ジル・ラスボルド=ゼネラル・マネジャー(以下、ラスボルド):今回1755社の出展申し込みがあり、そのうち110社が中国企業だった。しかし45社が、コロナウイルスの影響で出展がキャンセルになった。中国以外の企業のキャンセルはない(編集部注:韓国のアクセサリーメーカーが出展する予定のブースは空だった)。
PVとしては開催直前ではあったが、中国の出展企業には中国にとどまり、できるだけ欧州のエージェンシーでカバーできないかと提案した。キャンセルになった45社の多くは縫製カテゴリーの企業で、欧州にエージェントがなかった。そのため52社が並ぶ予定だったホール2の「マニファクチャ― オーバーシーズ」を閉めることを決断した。
また出展社だけでなく、中国から来ることができなかったバイヤーは多いと思う。中国はファッション業界にとって重要な国。また、大企業が社員の渡航を控えさせていることもある。
われわれは新型コロナウイルスの被害を今体験しているわけだが、中国は国を閉めるほどになっている。そのせいで、「インターテキスタイル(INTERTEXTILE)」など中国で開催予定の見本市に加え、欧州でも大きなイベントがキャンセルになるなど大きな被害を目の当たりにしている。そんな中でわれわれはよく切り抜けていると思う。
WWD:来場者数は?
ラスボルド:3日後にまとめてプレス向けに発表する予定だが、来場者が減ることは予想している。
「われわれはけんかを売る気はない。善意を持って皆が満足する方法を模索している」
WWD:21年からPVの時期を2月初旬と7月上旬に前倒しすると発表したことで、現状ではイタリアのファッション素材見本市「ミラノ・ウニカ(MILANO UNICA、以下MU)」とバッティングすることになるが。
ラスボルド:日程に関してはフランスのモード研究所IFM(Institut Francais de la Mode)を通じて、バイヤーや出展社に大がかりな調査を行って意見を聞いた結果だ。日程を決めるにあたっては会場が取れるかどうかの問題が大きい。結果的に21年に関してはバッティングする日程になった。細かい話だが、7月の開催予定の前週には120万人規模の「マンガエクスポ(EXPO PARIS MANGA)」があるし、翌週の14日は(フランス共和国の成立を祝う)パリ祭がある。結果的にこの日程になった。
さらに詳しく言うと、7月に関しては21年はMUと同じ日程だが、22年と23年に関してはPVの後にMUが開催される予定で調整を進めている。あくまでも予定だが。一方、2月に関しては現在協議中だ。MUに加え、ドイツ・ミュンヘンの見本市「ファブリック スタート(FABRIC START、以下FS)」と重なっているためだ。
私たち見本市を運営する側は会場の制約がある。たとえば先週、MUとFSは同じ日程で開催されている。われわれは日程の変更や決定をするときに、通常1年ないし1年半前から他の見本市と透明性を大事にして話し合っている。日程のバッティングは誰の利益にもならないからだ。今後は日程がバッティングしないように決めていきたい。われわれはMUに対してもFSに対してもけんかを売る気はない。善意を持って皆が満足する方法を探さなければいけない。最も大事にしているのは市場とクライアントが何を求めているかだ。
WWD:いつから時期を前倒ししようと考えていたか。
ラスボルド:見本市を運営する者として開催時期は永遠の課題だ。常に考えているが、今回の件に関しては昨年の夏ごろから重要課題になっていた。
15年にも今回同様の調査を行っており、その結果プレ・コレクション用の「ブロッサムPV」を立ち上げた経緯がある。現状を更新するために調査したが、問題は非常に複雑で多岐にわたるため、全体を見て考えなければいけない。
「モード産業は時代の風の中にいないと生きていけない。生き延びるか、死ぬかだ」
WWD:仏政府はサステナビリティに力を入れている。1月末に開催されたサステナビリティサミット「チェンジ ナウ(CHANGE NOW)」でもサステナビリティ政策をリードするブリュヌ・ポワルソン=フランス環境連帯移行大臣付副大臣が登壇し、「廃棄禁止」の次は「洗濯フィルターの義務化」、そして「消費者に誰がどのように製造したかを見えるようにしたい」と話していた。トレーサビリティは素材の分野ではかなり重要だ。
ラスボルド:直接、彼女と話したことはないが、環境への責任に関してPVは積極的に考えて行動している。IFMの調査で分かったことは、欧州の2人に1人の消費者が環境に配慮した服を購入したことがあるとい結果が出たということ。
政府との話し合いは繊維連盟の仕事でPVの仕事ではない。政府の決定でこの1月から新品の廃棄を禁止する法律が施行されたが、この傾向はさらに強まるだろうし、それは消費者の期待に応えることでもある。だからモードもそれに応えなければいけない。
PVではそれを(サステナブルな素材や仕組みを提案する企業を集積したエリア)スマートクリエーションが担っている。われわれは各出展社が何に取り組んでいるのかが分かるように可視性を与えることを重視している。また、その方向に出展社を啓発し、さらにメーカーと消費者の双方に正しい情報を提供することが大事だと考えている。非常に複雑な問題なので、われわれの産業がどのように進むべきかを関係する皆と一緒に考えることが重要だと思っている。
フランスはモードのリーダーだし、リーダーの企業はいい例を示さなければいけないが、これは大変な仕事だ。モード産業は時代の風の中にいないと生きていけない。生き延びるか、死ぬかだ。