「ケンゾー(KENZO)」は2月26日、フェリペ・オリヴェイラ・バティスタ(Felipe Oliveira Baptista)=新クリエイティブ・ディレクターによるデビューシーズンとなる2020-21年秋冬メンズ&ウィメンズ・コレクションのランウェイショーを開催した。会場は、パリ5区にある国立のろう学校の庭園。そこに設置した透明なビニールの入り組んだトンネル状のテントで、朝の自然光が差し込む中、“放浪者の遊牧精神”を軸にしたコレクションを披露した。
今季の出発点となったのは、メゾンのアーカイブ。昨年7月に就任したバティスタは、実際に高田賢三とも会って話し、彼が手掛けたアーカイブの研究をする中で理解を深めていった。ショー後のバックステージで「『ケンゾー』はアイコニックなブランドあり、賢三さんはコンサバだったパリのファッションに革命を起こした重要人物。そのデザインはタイムレスで、今の時代にもつながりを感じるものであり続けている」とショー後のバックステージで話す。そんな異国の地で成功を収めた高田とポルトガル出身である自身のパーソナルな思い出を掛け合わせ、アイデアをパッチワークするようにコレクションを作り上げたという。
ファーストルックは、ゆったりとしたダブルブレストのチェスターコートと背中にマントのように布が垂れるハットを合わせたオールブラックのスタイル。その後もブラウンやグレー、カーキ、ベージュなど自然界から着想を得た色を中心にワントーンやバイカラーのスタイルを打ち出す。シルエットは全体的にオーバーサイズで、男女を問わないチュニックやリブニット、アノラック、パーカ、ポンチョなどロング丈のアイテムをラインアップ。キルティングやリップストップナイロン、キャンバスといった素材使いや、シルバーのスナップボタン、シルエットに変化をつけるファスナーのディテールが、ユーティリティーなイメージ演出する。そして、多くのルックがハイネックだったり、帽子や大きなフードで頭を覆ったりで、現在の世界の状況を考えると“プロテクション(身を守る)”というイメージが頭に浮かぶが、「放浪の旅の中で、自分を守ることをイメージしたものだ」とバティスタは明かす。
そんなコレクションにアクセントを加えるのは、エレクトリックブルーや赤などの鮮やかな色と、カラフルなアートモチーフ。同ブランドのアイコンとなっているトラのモチーフは、ポルトガル出身の画家フリオ・ポマール(Júlio Pomar)の作品から着想を得て絵画風のプリントやニットで表現したり、刷新したトラの顔をウエアの隅に同色であしらったり。アーカイブを参考にした、無数の馬を描いた柄やバラをミックスした迷彩柄もある。
ただ、8年にわたりウンベルト・レオン(Humberto Leon)とキャロル・リム(Carol Lim)が描いてきたキャッチーな「ケンゾー」からは大きくシフトした。これがビジネスにどう影響するかは気になるところだが、「若々しさとは、若者をターゲットに向けたものを作るだけではなく、心理的なものでもある」とバティスタは語る。
JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。20年2月からWWDジャパン欧州通信員