2020-21年秋冬シーズンのロンドン・ファッション・ウイーク(以下、LFW)が閉幕して早2週間。遅ればせながらLFW後半戦の16〜18日に発表されたブランドとイベントをピックアップしてダイジェストでお届けします。
2月16日(日)
50周年の「マーガレット・ハウエル」ショーで鳥肌
50周年を記念した「マーガレット・ハウエル(MARGARET HOWELL)」のショーのファーストルックは、白シャツ一枚。コットンシャツから始まったブランドの歴史を振り返ります。次々と登場するルックを見て鳥肌が立ってしまいました。何故なら、2日前に訪れたアーカイブ展で見た50年分のブランドのキーとなるブレザーやコーデュロイジャケットなど名品の数々が登場したからです。上品だけれど気取らない、カジュアルだけれど角のない、「マーガレット・ハウエル」の普遍的な美しさが上手く語られていたコレクションでした。5月にはデザイナーのマーガレットが来日して50周年記念のイベントを行うそうなので、直接マーガレットに話を聞いてみたいと思います。
ピュアでドラマチックな「シモーン ロシャ」
ロンドンでは、お隣の国アイルランド出身のデザイナーも多く活動していますが、実はシモーン・ロシャ(Simone Rocha)もその一人です。今回はアイルランドのアラン諸島のアランニットや、マタニティードレス、洗礼式の純白のドレスから着想を得たそうです。「Birth, Life, Loss(誕生、人生、喪失)」という言葉をキーワードにピュアな白、ダークな黒、海の青のカラーパレットで、ドラマチックに生死をコレクションで表現しました。ランウエイには、モデルの美佳ちゃんとモトーラ世理奈ちゃんが登場!ショー後にモトーラちゃんにばったり会ったのですが、「ずっと憧れのブランドに出ることができて、とても緊張したけれど、本当にうれしかった」とホッとした様子でした。
「TNF」 × 「エムエム6」コラボについてデザイナーを直撃取材
「エムエム6 メゾン マルジェラ(MM6 MAISON MARGIELA以下、エムエム6)」と米「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE 以下、TNF)」のコラボレーションをいち早く見て来ました。詳しいレポートはこちらをご覧いただけますが、こちらでは取材の裏側の話をさせていただきます。
実はショー終了後には、そのバックステージで「エムエム6」のデザイナーから直接商品について説明してもらえる機会をいただきました(メゾン マルジェラは匿名性をブランドのポリシーとしていて、「エムエム6」はデザインチームでの体制です)。商品説明をしてくれたデザイナーは「私たちは洋服をただジョーク(面白いもの)にはしたくない。デザインも機能性も優れたものにしたい。だから、『エムエム6』の強くアバンギャルドな印象を持たせながらも、『TNF』のそのままの素材を生かした。さっと着られるウエアラブルなウエアにして、両ブランドの良さをパーフェクトに表現した」と話していたのが印象的でした。メゾン マルジェラのスタッフはいつもショー会場でドクターズコート(白衣)を着ていますが、この日はスペシャルな「エムエム6」と「TNF」のロゴが入ったものを着用していました。
ご存知の方も多いと思いますが、日本ではゴールドウインが「TNF」の独占販売権を持っているため、日本国内で購入できる「TNF」の商品は基本的に日本企画アイテムです。記憶に新しい「ハイク(HYKE)」や「ミナ ペルホンネン(MINA PERHONEN)」とのコラボもゴールドウインの企画による商品でした。なので、最初にこのアメリカ本国の「TNF」との「エムエム6」コラボの一報が出た時は、日本で発売されるのか心配する声も聞こえましたが、安心してください、ちゃんと販売されますよ!発売時は行列必至にはなると思いますが、お店もお客さんも皆盛り上がりそうで今から楽しみです。
豪華なモデルが続々出て来る「トミー ヒルフィガー」
「トミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)」は毎シーズンさまざまな都市でSEE NOW, BUY NOW(見てすぐ買える)コレクションを発表し続けていますが、今回はロンドンにカムバック。従来の“ヒルフィガー コレクション”に加えて、英国人F1レーサーのルイス・ハミルトン(Lewis Hamilton)との4度目のコラボコレクション“トミー × ルイス(Tommy X Lewis)”とアメリカ人歌手のH.E.R.も加わったカプセルコレクション“トミー × ルイス × H.E.R.(Tommy X Lewis X H.E.R.)”も発表しました。サステナビリティ、インクルージョン&ダイバーシティーなど今重視されるキーワードを盛り込んでいて、ショーに出た服は翌日から発売です。
フロントローには剛力彩芽さん、Kemioさんの姿がありましたが、ランウエイモデルも凄かった!ファーストルックからナオミ・キャンベル(Naomi Campbell)が出たと思いきや、英バンド、オアシスのリアム・ギャラガー(Liam Gallagher)の息子のレノン(Lennon Gallagher)、ケイト・モス(Kate Moss)の妹のシャーロット・ロティ・モス(Charlotte "Lottie" Moss)、ローリング・ストーンズ(The Rolling Stones)のミック・ジャガー(Mick Jagger)の娘のジョージア・メイ・ジャガー(Georgia May Jagger)、と息子ルーカス(Lucas Jagger)ら挙げたらきりがないほどセレブ&2世たちが次々と登場したんです。「トミー ヒルフィガー」は今年で35周年だそう。セレブとの強いコネクションや、常に新しいことにチャレンジして発信するブランドのパワーを感じます。
2月17日(月)
中流階級の写真家の美しさを磨く努力を表現した「アーデム」
「アーデム(ERDEM)」の会場は、イギリスの歴史上の人物の肖像画が展示されているナショナル・ポートレート・ギャラリー。フロントローには夏木マリさんと、前日の「シモーン ロシャ」のランウエイを歩いたモトーラ世理奈さんが座っていました。
ランウエイに銀のシートが敷かれていて、コレクションのテーマも“Age of Silver(銀の時代)”。これは同会場で開催された英国人写真家のセシル・ビートン(Cecil Beaton)の1920〜30年代の作品にフォーカスした写真展の題名と同じです。ビートンといえば、英国女王エリザベスII世らはじめとする王室写真から女優のオードリー・ヘップバーン(Audrey Hepburn)らを長年撮影してきた有名写真家です。中流階級の生まれだった彼が上流階級に受け入れられたのは、独創的な構図や演出、衣装が認められたからだったといいます。ビートンは若い頃から家族をモデルにしたり、自分自身も女性服を着てセルフポートレートを撮影し続けたりと、自分のスタイルを磨いていったそうです。今季の「アーデム」はその当時の写真からインスパイアされた贅沢なパールの装飾や、アールデコを意識した柄使いで高貴な印象になっています。
“潰れたビール缶”や“パンチバッグ”も昇華する「ジェイ ダブリュー アンダーソン」
LFWのメインディッシュともいえる、「ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)」の時間がやってきました。今季も優美で新しいテクニックが満載です。セルロイドテープを使ったキラキラした袖や襟、ころんとしたボリュームのニットケープ付きのニットワンピなど、バックステージでジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)はこのコレクションを「ヌーヴォー・シック(新しい上品さ)」と表現していました。シックなスタイルでも、ちゃんとウィットも忘れないのがジョナサン。架空のビール缶を潰したようなデザインのドレス、ボクシングのパンチバッグをイメージした新作バッグもありました(笑)。アンクルストラップ付きのもこもこしたシューズもかわいいです。
ティッシが3カ国の郷愁にふける「バーバリー」
お待ちかねの「バーバリー(BURBERRY)」。いつも豪華なセレブリティーが来場するため、注目してフロントローを見て回っていると、ウクライナ生まれでイギリスを拠点にする双子ユニット、ブルームツインズ(Bloom Twins)を発見。彼女たちのことをいろんなショー会場で見かけており、声をかけるといつも気さくに対応してくれていたんです。とても可愛く、「バーバリー」もかっこよくきこなしていて、気になる存在です。またLAからはローラも駆けつけていました。
ランウエイには大きな舞台セット。デュオのピアニストのラベック姉妹による生演奏でショーが始まりました。「バーバリー」の仕事のためにロンドンに拠点を移したリカルド・ティッシ(Riccardo Tisci)は、生まれ育ったイタリアや、学生時代を過ごしたロンドンでの記憶、その後移り住んだインドでの思い出に耽て、そこからコレクションを膨らませていったそう。
柄の掛け合わせが特徴的で、代表的なハウスチェックからタータン、インド発のマドラスチェックなどもミックスしています。代名詞であるコートは定番のトレンチからダッフルコート、ケープコート、人工ファーを襟や袖に付けたオーバーサイズのコートなどがバリエーションが豊富。アイテムで注目したいのは変形シャツで、ドレスになったラガーシャツや、3つのチェックシャツを再構築したトップスなども面白いアイテムがそろっていました。個人的にはモデルのジジ・ハディッド(Gigi Hadid)も着用していたタートルネック風のリブのチョーカーも気になります。
2月18日(火)
実はサステナビリティに取り組み始めた「ダックス」
私にとってのロンドンでのラストショーはロンドンの老舗ブランド「ダックス(DAKS)」でした。アイルランドの西海岸への旅からインスピレーションを得た今季は、ブランドとして始めてサステナビリティに取り組んだ“エコ コレクション”も一部発表しています。再生ウールを用いたニットウエアを始め、ペットボトルを原料にした人工ファーなど、いわれるまで気が付かない「え、そうなの?」というクオリティーの高さで驚きのあるいい事例だと思いました。
昨今は時流に乗ってリサイクル、アップサイクルした素材を用いた商品が増えていますが、「ちょっと安っぽすぎませんか?」と思えてしまうブランドもあります。サステナビリティを意識した商品でもどうせ買うなら素敵なデザインで、値段に伴うクオリティーのものを購入したいのが本音ですよね。リサイクルに取り組みことに気を取られて、ベストな状態ではないものを生み出して、売れ残ってゴミになってしまうのは悲しいな、と思います。挑戦することももちろん大事ですが、クリエイションとビジネス、そしてサステナビリティを両立できるよう活動を再考することも重要だと、たくさんのブランドが“ポジティブ・ファッション”を推進するLFWで感じました。