バレンシアガ(BALENCIAGA)
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DESIGNER/デムナ・ヴァザリア (Demna Gvasalia)
写真のモデルの足元を見ると水しぶきが飛んでいることがわかるだろう。これは、ランウエイに水が張られているから。スタジアム式の客席は前から3列目までが水に沈み、天井一面に張り巡らされたモニターには押し寄せる波の映像が映し出された。異常気象により世界各地で多発している洪水を連想し、恐怖を覚える。
「バレンシアガ(BALENCIAGA)」の服は、そんな異常気象の中で生き抜くギアのようだ。手にスマフォを握り、耳にAirPodsを突っ込んだモデルは水を蹴散らし、裾が濡れることなどお構いなしにガツガツ歩く。誇張された肩は鎧のように体を守り、ネオプレーンを使ったスーツは実際に濡れても問題ない。イヴニングドレスも肌に吸い付くような生地で仕立てられ、着飾るというよりも体を守るもう一枚の皮膚のような存在となっている。靴はビブラム社(Vibram)とのコラボでこれも機能的だ。
ヴァレンティノ(VALENTINO)
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DESIGNER/ピエールパオロ・ピッチョーリ
今季表現したのは、平等性や包括性。さまざまな人種に加え、異なる年齢、体型、性別のモデルを起用し、それぞれの持つ人間性を描き出した。ベースとなるのは、“個性を消すもの”と捉えられることの多いユニフォーム。黒やグレー、ネイビーのチェスターコートやジャケット、オフィサーコート、腰履きした太いパンツといったテーラリングに加え、センシュアルなシルエットやクリーンなカットのドレスなどで作るワントーン中心のシンプルなルックをそろえる。アクセントを加えるのは、メゾンを象徴するや赤やピンクベージュ、そして、1月のメンズ・コレクションにも用いられたイネス&ヴィノード(Inez and Vinoodh)による花の写真。メンズと同デザインのコートをまとう女性モデルもいて、インクルーシブなスタイルを体現している。
足元は、今季のランウエイで多く見られ、来秋冬のITアイテムになりそうなゴツいブーツ。一方、バッグには大きなボウ(リボン)や花びらのような装飾をあしらい、ルックに甘さを加える。ショーの音楽はビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)の「All the good girls go to hell」。弦楽器の生演奏と合わさり、エモーショナルに心を揺さぶる。
イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)
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DESIGNER/近藤悟史
出発点は、擬態語や擬音語を表す“オノマトペ”。子どもが無邪気に工作をしたり、絵を描いたりするように、モノづくりの楽しさを服に落とし込んだ。最初に披露したのは、マジックのような太い線で布に描いた服を“スパッ”と切り取ったようなデザイン。そこには、一本の糸から一体成形で服を生み出す象徴的な技術「A-POC」が生かされている。その後も、“ジュワッ”と広がることをイメージをしたインナーとアウターがシームレスにつながっているアイテムや、色とりどりの粘土を”コネコネ”するように異なる色や質感を組み合わせたニットなど、多様なアイデアを打ち出した。
終盤には、何着もつながったホールガーメントニットを着た、身長も人種もさまざまな男女が登場。フィナーレには全員が連なって楽しそうに歩く演出で、未来への希望を表現。そんなポジティブなメッセージは、近藤悟史デザイナーによる「イッセイ ミヤケ」のカギになっている。
JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。20年2月からWWDジャパン欧州通信員