ファッションの祭典でもあるレッドカーペットに、少しずつ変化が起きています。リアルなトレンドを落とし込んだ着こなしが増えてきたのも、以前との違い。つまり、レッドカーペットはリアルコーディネートのお手本に使えるようになってきたわけです。そこで今回は、今春開催されたアカデミー賞とゴールデングローブ賞のレッドカーペットから、リアルなコーディネートに生かしやすい女優ルックをピックアップしました。
オートクチュールのタフタ仕立てドレスがかつてのレッドカーペットの“お約束”でした。でも、今ではプレタポルテ風の派手すぎない装いが好まれるようになっています。たとえば、今回のアカデミー賞に、歌手のビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)はオーバーサイズのセットアップというトレンドルックで出演。「シャネル(CHANEL)」のロゴを散らし、白のワントーンでまとめた、ツイード素材のパンツ・セットアップは、今春夏の注目テイストを凝縮したかのようです。
クラシックなマント類で、全身を品格で包む
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“クラシック”がトレンドとして浮上している今シーズンだけに、象徴的なマント類は取り入れてみたいアイテムの筆頭格です。レッドカーペットでもトップ女優が相次いでマントやローブ、ガウンを取り入れました。ジェンダーレスやフェミニズムの盛り上がりを背景に、肌を見せずに、女性らしさを漂わせる着方に関心が高まっていて、その意味からも注目を集めています。
ナタリー・ポートマン(Natalie Portman)は「ディオール(DIOR)」でゴールドとブラックのコンビネーションを組み立て、晴れ舞台にふさわしい装いに。彼女は女性映画人の権利を主張する、ハリウッドでのキーパーソン的立場になっていることもあって、ジェンダーニュートラルな意識がうかがえます。ゆったりしたアウターはボディーラインを完全に覆い隠しています。
ブリー・ラーソン(Brie Larson)はシャンパンピンクがあでやかな、羽織り物付きの「セリーヌ(CELINE)」のドレスで来場。床に届く程のロング丈が縦落ち感を強めています。しんなりと体に沿っているのは、生地が薄手だから。肌を隠しつつも、全体をエレガントにまとめやすいのが、ソフト仕立てマント類の魅力。隙間からチラリと腕がのぞく様子もさりげない色香を感じさせ、大人女性にぴったりです。
“グリーン”をまとって、サステナへの共感示す
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サステナビリティやエコは今のファッションで最重要視されるテーマに位置づけられています。ネイチャー気分のグリーンがトレンドカラーに浮上したのも、こういった自然派志向の流れから。もともとエコ意識の高いハリウッドでは、装いにグリーンを生かす動きも広がってきました。
シャーリーズ・セロン(Charlize Theron)はランジェリー風ビスチェの上から、ワンショルダーのグリーンドレスを重ね着して官能美とナチュラル意識を響き合わせました。「ディオール」の装いです。過剰に飾り立てない、流れ落ちるような自然体のシルエットにも、エコマインドが漂います。
ジョディ・カマー(Jodie Comer)はボトルネックとパフスリーブという、旬のディテールを盛り込んだ「メアリー カトランズ(MARY KATRANTZOU)」のドレスで登場。高い位置に施したディテールの効果で、視線が上に引き寄せられる仕掛け。ウエスト位置が高く見え、スタイルアップ効果も発揮。グリーンの深みを、ドレープで引き出す演出も冴えています。
ふんわりスリーブでレトロかわいい淑女ムードに
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ヴィクトリアン風のパフスリーブは、“袖コンシャス”ブームから引き続き、人気が衰えていません。大人女性が取り入れる場合のコツは、甘さをそぎ落とすところ。シックなボトムスと組み合わせたり、渋めの色を生かしたりといった着こなしが効果的です。
ルーシー・ボイントン(Lucy Boynton)の「シャネル」のドレスは、パフスリーブと細い袖を組み合わせて、すっきりした袖まわりにまとめました。ひじから先がギュッと細くなる“ジゴ袖”のショートバージョン風で、腕が引き締まって見えます。レトロな襟元もキュート。ボトムスは黒のロングスカートで合わせ、ガーリーとゴシックを上品にミックスしました。
ダコタ・ファニング(Dakota Fanning)が選んだのは、ふんわりとふくらんだバルーンスリーブの「ディオール」のドレス。色がスモーキーピンクだから、甘く見えにくくなりました。透けるチュール系素材がファンタジー感を醸し出しています。重層的な透け生地使いで、気品も漂わせました。
大ぶりの“リボン&ラッフル”でタイムレスな装いに
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リボン(ボウ)やラッフルなど、普遍的なディテールは“クラシック”のムードを強めてくれます。本来は控えめな存在のディテールを、あえて大きめにあしらって、フェミニンな主張を強めるのが今季のトレンドです。
ジェニファー・ロペス(Jennifer Lopez)が着用した「ヴァレンティノ(VALENTINO)」のグリーンドレスは、ゴールドがまばゆい巨大リボンがアートモチーフのように添えられています。ミニマル志向が強まった今季は、服のシルエットをシンプルに抑えながら、ディテールで“盛る”という組み立てが広がっています。
フローレンス・ピュー(Florence Pugh)は、ティアードとラッフルの合わせ技が華やかさを生み出した「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」のドレス。上半身はストラップですっきり仕上げているので、スイート感がトゥーマッチになっていません。たくさんのラッフルが着痩せ効果も引き出しました。
浮き世離れした“おしゃれ博覧会”と思われがちなレッドカーペットの装いですが、実は直近のリアルトレンドとも地続きです。ゴージャス感をトーンダウンすれば、普段の着こなしにも参考になる工夫がいっぱい。ランウエイよりもじっくり眺めやすく、アレンジも多彩なレッドカーペットは最新の“おしゃれ見本帳”としても見応えがありますよ。
ファッションジャーナリスト・ファッションディレクター 宮田理江:多彩なメディアでコレクショントレンド情報、着こなし解説、映画×ファッションまで幅広く発信。バイヤー、プレスなど業界での豊富な経験を生かし、自らのTV通版ブランドもプロデュース。TVやセミナー・イベント出演も多い