サカイ(SACAI)
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DESIGNER/阿部千登勢
「サカイ(SACAI)」がまたひとつ次のステージへ進んだ。“ハイブリッド”をキーワードに新しい服の形を模索し続けているが、今季の“ハイブリッド”は従来のレイヤードやパッチワークとは考え方が異なる。阿部千登勢デザイナーによるとそれは、「視覚的な3次元のフォームを超えた4次元のシルエットの探求」だ。
立ち止まっているとメンズのスラックスのように見えるアイテムは、モデルが歩きだすとボリュームあるドレスであることがわかる。ここで言う「4次元」とは、動いた時の意外性ある布の軌跡や残像も含めたデザインと解釈して良さそうだ。それは服と人の体の間の感情をもデザインしたオートクチュールのデザイナー、クリストバル・バレンシアガ(Cristóbal Balenciaga)の仕事に通じるものがある。
質感の異なる生地をつないでフラットに扱う手法も印象的だ。大量の情報をギュッとプレスして2次元に落とし込むかのようでおもしろい。そして平面だからボリュームあるシルエットでも軽やかで現代的になる。
4次元の象徴として扱う宇宙のプリントは、NASAが所蔵する宇宙の写真からおこしたもの。アルファベットが並ぶプリントは、ミッドセンチュリーを代表するデザイナー、アレキサンダー・ギラルド(Alexander Girard)のアーカイブプリントを「サカイ」のために特別なカラーリングに変更したもの。
アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)
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DESIGNER/サラ・バートン(Sarah Burton)
ハートのモチーフが随所に見られるのはデザイナーのサラ・バートン(Sarah Burton)が今季、「家族やチームへの愛のメッセージを込めたから」。情熱的な赤の使い方もまた、サラの溢れんばかりの愛情表現から来ている。
もうひとつのポイントはキルト。動物柄のドレスは赤ちゃんをくるむキルトから、ベビーピンク色のドレスは女性の肌着からそれぞれヒントを得ている。シルバーのドレスのフリンジはよく見るとラッキーチャームであるスプーン。民族の物語をさりげなく、随所の取り入れている。
ステラ マッカートニー(STELLA McCARTNEY)
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DESIGNER/ステラ・マッカートニー(Stella McCartney)
会場となったオペラ座の入り口を入ると、ウサギやウシなどコミカルな着ぐるみの動物たちがお出迎え。「家で植えてね」と来場者に苗木を配り、サステナブルな活動への参加を促す。海外からのゲストも多い中、全ての人が取り組めるかということはさておき、今季もステラはシリアスになりがちな話題に明るくアプローチしている。コレクションでは、動物を傷つけないビーガンレザーやシアリングのようなパイル地をキー素材に据えた。
口元まで覆うように襟を立てたオフィサーコートやゆったりしたスーツ、なめらかなシルエットのドレスやセットアップで描くのは、“自由な精神を持ちつつ地に足のついた意思の強い女性”。ファッションデザイナーやイラストレーターとして活躍したエルテ(Erté)のアーカイブプリントや大柄のチェック、垂れるベルト状の共布がデザインのポイントになっている。また、ウィメンズと世界観を共有するメンズ・コレクションも同時に披露した。
アクリス(AKRIS)
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DESIGNER/アルベルト・クリームラー(Albert Kriemler)
陽光が注ぐ現代アート美術館の館内で展示されている絵画の前でショーを行った。今季のインスピレーションは、1920年代から30年代にかけて活躍したフランスの建築家ロベール・マレ(Robert Mallet)。マレの建築に着想を得たグラフィックをベルベットやカシミヤといった上質素材にのせる。ジャケットとパンツのセットアップ、ブラック&ホワイトのシルクのブラウス、プラム色のラップコートなど実用的で上質なアイテムを着ることで同時にアートをまとう提案だ。それは「アクリス(AKRIS)」の変わらぬスタンスだが、ファッション全体がエレガンス回帰にある今、富裕層のリアルクローズとしてますますそのポジションが明確になっている。
JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。20年2月からWWDジャパン欧州通信員