ファッション

新型コロナの影響でファッション・ウイークにもデジタル化の波 オンデマンドサービスも人気に

 デジタル技術が、新型コロナウイルスの影響で打撃を受けているファッション業界の救世主となっている。2月18~24日に開催されたミラノ・ファッション・ウイークでは、中国の新進デザイナー8人が参加をキャンセルしたほか、中国からのバイヤーやプレスが渡航および入国制限措置などにより来場できない事態となった。同イベントを運営するイタリア・ファッション協会(Camera Nazionale della Moda Italiana)は、こうした中国のファッション業界関係者がオンラインで参加できるように「チャイナ・ウィー・アー・ウィズ・ユー(China, we are with you)」プロジェクトを実施。中国の人気SNSウィーチャット(微信、WeChat)を擁するインターネットサービス企業大手のテンセント(騰訊、TENCENT)と中国版ツイッターのウェイボー(微博、WEIBO)の協力を得て、ショーやデザイナーのインタビュー、舞台裏の様子などのコンテンツをデジタル配信した。

 同協会のカルロ・カパサ(Carlo Capasa)=プレジデントによれば、テンセントのプラットフォームで延べ1600万のユーザーがライブ配信を視聴し、ウェイボーでは同900万のユーザーがコンテンツにアクセスしたという。同氏は、「バイヤーやメディア関係者、インフルエンサーなど1000人近くの関係者がミラノ・ファッション・ウイークに来場できなかったが、このプロジェクトのおかげで、それを補って余りあるほど大勢の消費者にアプローチできた。今回のような危機的な状況下ではなくても、こうした“デジタル・ファッション・ウイーク”には大いなる価値があるのではないか」と語った。しかし、これは実際のファッション・ウイークに置き換わるものではないと同氏は言う。「今回のデジタル・プロジェクトが大成功したことで、今後は実際のショーとデジタル上のものが相互に補完して共存するフェーズに入ったと思う」と説明した。

 3月26日から開催される予定だった上海ファッション・ウイークも、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて延期が決定していたが、アリババ(ALIBABA)が運営する中国大手EC「Tモール(T MALL)」と提携して3月24〜30日にオンライン上で発表する。参加ブランドは2020年春夏コレクションの販売や、20-21年秋冬コレクションのショーのライブ配信をすることができる。リブ・シャオレイ(Lv Xiaolei)上海ファッション・ウイーク委員会バイス・セクレタリーは、「新たなテクノロジーを活用しないのは大きな機会損失になる。『Tモール』では会期中に何百万ものユーザーがアクセスすると見込んでおり、各ブランドはより大きな売り上げを達成することができる。これによって破産を免れるブランドも多いだろう」と語った。同氏はまた、今回の試みが成功すれば、将来的には上海ファッション・ウイークに“オンライン版”を追加したいと話した。

 イベントにデジタル技術を活用した先駆けとしては、イタリアのフィレンツェで開催されるメンズファッション最大の見本市「ピッティ・イマージネ・ウオモ(PITTI IMMAGINE UOMO以下、ピッティ)」が挙げられる。「ピッティ」はコレクションを提示するバイヤー向けのポータルサイト「イーピッティ(e-Pitti)」を11年に立ち上げているが、実際の見本市と競合することはなく、予算やスケジュールの関係で来場できない関係者も参加できる新たなツールとして役立っているという。

 「サルヴァトーレ フェラガモ(SALVATORE FERRAGAMO)」も、今回の状況を受けて中国のバイヤー向けにデジタルショールームを開設した。同ブランドは数年前から伊デジタル開発会社ハイフン(HYPHEN)と提携していたため、立案から12日という短期間でデジタルショールームを立ち上げることができた。現在は小売りのオムニチャネル化が進んでいるため、こうした危機的な状況ではなくてもデジタル化は重要だと、ステファノ・リゲッティ(Stefano Righetti)=ハイフン創業者兼最高経営責任者(CEO)は指摘する。「現実とオンライン上の世界の境界線がどんどん薄れてきている。オンライン上でのイメージをしっかり管理するためにも、またバイヤーや消費者へのアプローチという意味でも、各ブランドはデジタル化を推進するべきだ」と述べた。

 複数のブランドを取り扱うショールームのリッカルド グラッシ(RICCARDO GRASSI)では、新型コロナウイルスの影響により、ミラノ・ファッション・ウイーク中に予定されていた商談のうち70%がパリ・ファッション・ウイークでの、もしくはデジタルでのやりとりに変更されたという。同社は、「アジアで新型コロナウイルスが発生したことを知ったのは1月だったが、当社の売り上げのうち40%程度をアジアが占めているため、すぐに行動した。各ブランドと協力してコレクションの主なルックを動画に撮ってデジタル化したところ、国外のバイヤーから非常に好評だった。もちろん実物を見て触れることの重要性は変わらないので、今後も全てがデジタルで済むことはないと思うが、重要なツールであることは間違いない」とコメントした。

“出歩けない“ことでオンデマンドサービスの需要が急増

 デジタル化の恩恵を受けているのはアパレルブランドばかりではない。イタリアでは新型コロナウイルスの感染者が急増しており、混雑した場所に出かけないよう同国政府が呼びかけている。このため在宅勤務に切り替える企業が増加し、商業施設やスポーツクラブなどが一時休業もしくは短縮営業をしている中、さまざまな業種でオンラインやオンデマンドサービスの需要が高まっている。

 メイクアップアーティストや美容師をスマートフォンのアプリで予約し、自宅などに呼べるサービスをミラノで展開するマダム・ミランダ(MADAME MIRANDA)では、2月末から毎日予約で埋まっているという。ディアマンテ・ロセッティ(Diamante Rossetti)共同創業者は、「通常は夕方など仕事が終わったタイミングでの予約が混み合うが、現在は日中の時間帯も埋まっている。新規顧客もかなり増加した。当社の衛生ルールに関する問い合わせも多いが、安心して利用してもらえるようにさらに厳しいルールを設けている」と話した。

 衛生面を懸念する市民が増えたことから、事業が成長している会社もある。宅配でのドライクリーニング・サービスを提供するミラノのママクリーン(MAMACLEAN)では、宅配という利便性に加えて専門業者ならではの高い洗浄力が人気を呼び、シーツや毛布のクリーニングが増加している。

 ほかにもオンラインでのクラスを始めたヨガ教室など、これを機にデジタル化を推進している企業は多い。ECや二次流通プラットフォームでも、新型コロナウイルスの影響によって家に居ざるを得ない人が増えた国では売り上げが上昇している。イタリアの高級スーパーマーケット、エッセルンガ(ESSELUNGA)ではオンラインでの注文が通常の5倍に伸びているという。一方で、家で過ごす時間が増えたことから自宅で料理をする人が増加したため、調理済み料理の宅配サービスは注文が減少しているようだ。

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