「WWDジャパン」と「WWDビューティ」は年に2回、全国の百貨店約50店舗にアンケートを行い化粧品、特選、婦人服、紳士服、バッグ、シューズ、時計、ジュエリー、ファッションジュエリーの9カテゴリーについて、各店の商況を「ビジネスリポート」という冊子にまとめて伝えている。「他店で何が売れたのか知りたい」「保存性の高い資料として欲しい」との声が高まり、2019年春夏からは単独販売も始めた。19-20年秋冬版で、時計において東日本一の伸長率(前年同期比約40%増)を記録したのは伊勢丹新宿本店本館だ。土屋友洋 三越伊勢丹 特選MD統括部 時計マーチャンダイザーに、好調の理由と維持するための施策について聞いた。
WWD:好調は昨年6月のリニューアルが最大の要因か?
土屋友洋 三越伊勢丹 特選MD統括部 時計マーチャンダイザー(以下、土屋):その通りだ。時計は売り場を4階から5階に移し、売り場面積も約2倍にした。さらにリニューアルに合わせて「ブレゲ(BREGUET)」「ウブロ(HUBLOT)」「オフィチーネ パネライ(OFFICINE PANERAI)」「ヴァシュロン・コンスタンタン(VACHERON CONSTANTIN)」を、百貨店としては国内で初めて直営ブティック化した。
WWD:6月の時点では、リニューアル後の初年度売り上げ目標を前年比30%増としていたが、それを上回る結果となった。
土屋:6月から9月の増税前まで、高額品を中心に売り上げが伸びた。これまでブランドの旗艦店でしか購入できなかった、直営ブティック先行販売品や限定品を導入でき、これらが確実に数字をつくった。これまで伊勢丹新宿を訪れなかった新客も獲得できた。
WWD:新客を顧客化するための施策は?
土屋:おもてなし接客を徹底し、そのうえでカード会員化を図る。リニューアルに伴い、売り場では接客を対面から側面に切り替えた。また接客スペースを増やすなど、環境の改善にも努めた。
WWD:2014年4月の5%から8%への増税時、時計は爆発的に売れた。そのときにある程度行き渡ったとの見方から、昨年の増税時にはそれほどの影響はないのでは?というのが時計関係者の意見の大半だった。しかし、実際には駆け込みが多かった。
土屋:9月中旬以降に、雪崩のように押し寄せた。おかげで9月は時計の過去最高売り上げを更新した。
WWD:歴史ある伊勢丹新宿で過去最高というのはすごい!
土屋:増税後の10、11月は価格にシビアな女性客の購入が微減となったが、男性客は前年並みをキープした。これは前回の増税時も同じ。しかし12月にはギフト需要が高まり復調した。また、12月にはリニューアルの仕上げとして平均単価が2000万円を超える超高級ブランド「リシャール・ミル(RICHARD MILLE)」を導入し、これも売り上げ増の大きな後押しとなった。
WWD:「リシャール・ミル」も直営ブティック?
土屋:いや、ホールセール(卸)だ。
WWD:「リシャール・ミル」は“全店舗完全直営店化”を掲げている。卸での出店はこの動きに反する。それだけのラブコールを送ったということか?
土屋:「銀座のブランド旗艦店にはない新客を紹介できる」と真摯に粘り強く交渉した。
WWD:好調をキープするための今後の具体策について聞きたい。
土屋:大きくは3つ。1つ目は、1階の“ザ・ステージ”の活用だ。時計は例年2回“ザ・ステージ”を使っているが、これを4回にしたい。2つ目は、年に一度の時計の催事「ウォッチコレクターズ ウイーク」でしっかり結果を出すこと。3つ目は、外商客から一般客まで幅広い時計ファンを売り場以外に招いてイベントを行うこと。
WWD:“ザ・ステージ”にはどのブランドが出店する?
土屋:詳しいことはまだ言えないが、「フランク ミュラー(FRANCK MULLER)」は13年来出店しており、昨年6月の売り場リニューアルに合わせてイベントを行った「ウブロ」はブランド自身の“ザ・ステージ”での最高売り上げを更新した。このあたりをヒントにしてほしい。
WWD:2週間の「ウォッチコレクターズ ウイーク」の売り上げは、「WWDジャパン」推定で約8億円だが、今年の目標は10億円突破か?
土屋:想像におまかせしたい(笑)。いずれにしても今年は7月8~21日の会期で行う予定だ。
WWD:時計ファンを招いたイベントとは先行予約会のようなものか?
土屋:その通りだ。ブランドと百貨店の双方からリストを出して盛り上げたい。これら3つの施策で、20年春夏は前年同期比2ケタ増を目標とする。
WWD:売り場への新型コロナウイルスの影響は?
土屋:客数は肌感で半減の印象だ。しかし購入意思の強い客が来店しているため1、2月とも前年同月をクリアしている。やはり欲しいものは欲しいし、高額の予約商品がこのタイミングで納品されたという事情もある。