今年1月、約50億円の資金調達とともに、代表CEOの交代が発表され、大きな話題となったフィンクテクノロジーズ(FINC TECHNOLOGIES)。同社が運営するヘルスケア・フィットネスアプリ「フィンク(FINC)」は850万ダウンロードを達成するなど、20~30代の女性を中心に人気となっている。南野充則氏に代表CEO就任の経緯と「フィンク」が見据える未来像を聞いた。
WWD:1月に南野さんの代表CEO就任と創業者である溝口(勇児)さんの退任が発表され、非常に驚いた。どういった経緯だったのか?
南野充則(以下、南野):2018年10月にフィンクテクノロジーズという社名に変わり、その時に代表取締役CTOに就任した。以降、テクノロジー要素を強めて、アプリを中心に会社を強くしていこうというのが前提としてあって、昨年末の取締役会で、「南野が代表をやった方がテクノロジーを存分に発揮できる。長期的に見てそのほうがいい」という意思決定がなされ、代表CEO就任となった。
WWD:突然決まった印象だが?
南野:昨年の10月くらいから取締役会で議題には上がっていて、12月にそれでいこうと決まった。
WWD:就任して1カ月ほど経つが、変わったことは?
南野:これまではずっと社内でアプリを開発していて、技術をどうするか、プロダクトをどうするか、KPIをずっと見てきたが、CEOになって1カ月は外の仕事が多かった。CEOとしての発言・指針が会社にとっては大事なので、自分の行動の精度をより高くしないといけないと意識している。
WWD:以前は溝口さん、南野さん、小泉(泰郎)さんの3代表制だったが、今回の人事で代表は1人になった。3代表制では意思疎通や意思決定の難しさがあったのか?
南野:3人代表がいることの難しさは感じなかった。逆に3人いたので、それぞれの役割分担もできていた。ただ、株主からは「意思決定のスピードをあげていくために代表は3人から1人にしたらいいのでは」というアドバイスをもらうなど、外部から見たときに代表が3人いることのメリットが分かりにくい部分はあったと思う。
WWD:創業者の溝口さんはどうやって関わっていく?
南野:溝口はファウンダー、非常勤取締役として残ってもらっている。これまでフィンクテクノロジーズの顔であり、創業者でもあるので、今もサポートはしてもらっているし、お互いいい関係でやっている。大事な取引先のところに行くときは一緒に行ったりもしている。
WWD:1月に資金調達した50億円はどんなことに活用していくのか?
南野:主にアプリの開発に投資していくつもりで、今のアプリの世界観を変えずに今後はより機能を充実させ、ユーザーの満足感を高めていきたいと考えている。
WWD;ユーザー数は?
南野:現在「フィンク」のアプリは850万ダウンロードでその約8割が女性という構成だ。これは戦略的にダイエット向けというのを強く訴求して、あえて20~30代女性をメインとしてきたことが大きい。今はある程度のユーザー数まできたので、今後は40代以上や男性など、もっと幅を広げていきたい。デザインも男女に関係なく使えるようなものにしていくつもりだ。ダウンロード数に関しては、今年中には1000万を超えると思う。
WWD:今後「フィンク」をどう成長させていく?
南野:ダイエット目的だけでなく、健康になるきっかけを与えることと、健康を支えるために使ってもらいたいと考えている。そのためには「フィンク」の強みである“記録”をベースにしていく。今は歩数や体重、食事の管理がメインだが、もっと他のデータと連係させれば、多角的なアドバイスが可能となる。例えば健康診断や病院、調剤薬局などと連携して、自分の健康情報は「フィンク」を見れば分かるというところまでもっていきたい。「フィンク」を使えば、自分に最適な食事や運動のアドバイスが届けられるようにしたい。
WWD:「フィンク」ではAIや深層学習(ディープラーニング)もかなり積極的に活用している。
南野:「フィンク」では300カテゴリーほどでAIによる食事の画像診断ができ、写真を撮るだけで、カロリーを計算できる。そうすると実際に毎日の食事を入力する手間が省けるので、続きやすくなる。今後はIoTにも注力していくつもりで、体重計に乗るだけで自動で記録でき、それに対してのアドバイスも受けられるといったサービスも可能になる。そのためには他社との協業も考えており、実際にいくつか進行中だ。昨年11月にはNECと共同で、インソールとアプリを連動させて“歩容(歩行の質)”を計測できるものを開発した。5月末くらいまでには製品化できるように動いている。
WWD:実際、テクノロジーはかなり進化している?
南野:画像の認識や異常の検知、レコメンデーションの精度といったものはディープラーニングの登場によってすごく進歩した。加えてIoTも進化していて、今まで取れなかったデータがどんどん取れるようになってきている。そのデータを分析してユーザーに届ける手段が増えたのは、ヘルスケアとっては大きい。
WWD:日本のヘルステック市場はどのくらいの規模だととらえている?
南野:今だと全体で1000億円ほどだと考えている。一般向けだと「フィンク」が一番ダウンロードされていると思うが、法人向けだとまだまだで、今後はそちらのサービスも充実させていく。
WWD:南野さん自身はもともと健康に興味があった?
南野:テクノロジー分野の出身なので、どちらかというとAIやアプリを作る方からスタートしている。「フィンク」をやる前は個人としてヘルスケアの事業に関わっていたこともあり、大学時代から起業してきた。医療分野は多いが、予防の部分はまだあまりやっている人が少なく、誰かがやらないといけないと思っていた。またヘルスケアはテクノロジーと相性がいいので、いいアプリを作ればユーザーに使ってもらえると確信していた。それで「フィンク」の創業メンバーとして参加した。
WWD:将来的には上場を目指している?
南野:そこがゴールではないが、考えている。あくまでも一つの通過点であり、資金調達の手法として、「フィンク」がより大きく成長するためのものだと思っている。