ファッション

どんな気候でも売れる“シーズンレス商品”って結局何なの? 大事なのは「同じアイテムをいかに売りつなぐか」の視点

 異常気象の傾向が強まり、春夏秋冬に根差したこれまでのアパレルMD戦略が過去の遺物となりつつあります。直近では2年連続で暖冬を経験し、「どんな気象条件下でも売り続けられる定番品をいかに持つか」という考え方が、ファッション関連各社の間で急速に広がっています。最近では、“ステイプル(STAPLE=季節や流行に関係ない基本的で主要なアイテム、などの意)”とも呼ばれるようになってきたこうした定番品ですが、「じゃあ具体的にどんなアイテムが日本のマーケットでは“ステイプル”なの?」と疑問に思っている人も多いはず。そんなことを考えていたら、先日お邪魔した展示会でまさにドンピシャなアイテムに出合ったのでご紹介します。

 訪問先はアダストリアの子会社、エレメントルールが運営するセレクト業態「カオス(CHAOS)」の2020年夏展でした(もちろん、消毒やマスク着用など、新型コロナウイルス対策は万全にして展示会をされていました)。夏展なので4~6月投入商品がメインだったのですが、MDさんと話していると、テーマは自然と「長過ぎる夏商戦をどう乗り切るのか」という業界の共通課題に。旧来のアパレルカレンダーでは7月以降はもう秋ですが、近年は9月も10月もまだまだ暑くてアウターやニットを買うなんてありえない。初夏物のボリュームたっぷりのチュニック風ブラウスを見せながら、「去年はこういうブラウスが実は11月まで売れ続けたんですよ」と話されていたのが印象的でした。

 そう聞くとそのブラウスも“ステイプル”と呼んでよさそうですが、「カオス」では実際に、年間通して同じ型、同じ素材で売り続けている実績商品が他にあるんだとか。冒頭に写真を載せた、深いV開きのカフタン風ロングドレス(6万1000円)がそれで、売り切れては作るというサイクルを絶えず繰り返しているそう。素材はコットンがメインで、粗野なタッチを出すために少しだけアルパカなども混ざっていますが、暑苦しさはなし。夏に着れば風が抜けて涼しそうです。一枚で着た時にインナーのストラップがはみ出さないよう、肩にはストラップ留めもしっかり付いていました。「私は秋冬はインナーにタートルネックを合わせています」とMDさん。上からざっくりしたセーターを着てもよさそうです。

 それ以外にも、ダブル前のジャケットと側章付きパンツのセットアップなどを年間通して販売しているアイテムとして紹介いただきました。それもステキでしたが、こちらは「結婚式二次会など、華やかなシーンを想定したオケージョンアイテムを常にそろえておく」といった考え方に近いかも。海外ブランドでも、エレガントなスーツやジャケットを“ステイプル”として打ち出す動きは多いですが、日本の大多数の女性にとっては、前述のドレスの方がスタイリングや着用シーンが想定しやすくて、“ステイプル”と言われた時の納得感が大きい気がします。

「EC専業ブランドは
商品を半年間で売り切る必要がない」

 “ステイプル”という言葉を私が初めて目にしたのは、19年10月14日号の「WWDジャパン」内の20年春夏ミラノ・コレクション特集でした。「プラダ(PRADA)」がぐっとシンプルになり、型数自体も減らしたことなどを“ステイプル”と紹介していましたが、それを読んだ当時の印象は「長く着られる、エッセンシャルな定番品に回帰しているんだな~」といった感じ。正直、ファッション業界の定番回帰は定期的に訪れるものなので、そこまで注目していなかったんですよね。ちなみに、定番回帰の流れは不景気になるとやってくるというのが私見です。前回は08年のリーマンショック後、フィービー・ファイロ(Phoebe Philo)の「セリーヌ(CELINE)」がけん引する形で本質回帰やミニマル回帰がうたわれ、それがより広いマーケットに伝わってノームコアファッションブームになったと記憶しています(そして今また、新型コロナウイルスショックの中で定番回帰の流れがあるというのは、今後の更なる景況悪化を暗示するようでもあってなんとも意味深です)。

 そんなふうに、最初はそこまで注目していなかった“ステイプル”という概念ですが、自分ごと化して考えられるようになったのはある人のインタビューがきっかけ。それは、今年の年明けに行った宮井雅史さんのインタビューです。宮井さんは19年春のデビュー以来、30~40代のウィメンズ市場で一気に知名度を獲得したクロスプラスのEC専業ブランド「ノーク(N.O.R.C)」のトータルプロデューサーなどを務めています。「どうして『ノーク』はこんなに快進撃なんですか?」といったことを聞きに行った取材だったのですが、宮井さんは元々オンワード樫山歴が長く、商品開発室室長なども務めていた人物だけに、旧来型のアパレルメーカーとEC専業ブランドの戦い方の違いを熟知していました。そして、「EC専業ブランドはこうすれば売れる」「こうしないと売れない」ということを、ものすごくロジカルに語ってくださいました(そのインタビューはこちら)。

 宮井さんの話の中でも特に新鮮だったのが、「店頭の鮮度アップを常に考えねばならない実店舗のビジネスとは違って、EC専業ブランドはECのサムネイル画像さえ変えれば、投入から時間が経ったアイテムでも再度新鮮に見せることができる。それゆえ、半年間で商品を売り切る必要がなく、年間通して販売ができる。逆にいえば、同じアイテムをいかに売りつなぐかという視点が重要になる」というものでした。これってまさに、“ステイプル”の発想ですよね。

 そんな考えのもと、デビューシーズンの19年春夏の「ノーク」は「スカートとワンピースで商品の約5割を構成した」そうです。なぜなら、「シーズンレスアイテムといえばスカート(やワンピース)」と考えたから。スカートやワンピースなら、ニットとコーディネートすれば冬でも売れるからシーズンレス、という発想です。これ、先ほどの「カオス」のサックドレスの提案の仕方にまさに重なるものです。

 もちろん、ドレスやスカートだけが“ステイプル”なわけではありません。ブランドの特性によって何が“ステイプル”なのかは違ってきます。たとえば、「ユニクロ(UNIQLO)」の店頭を見ていて感心するのは、冬でも“エアリズム”を売っていること。なんとなく、冬は“ヒートテック”で“エアリズム”は夏、という勝手なイメージを抱いておりましたが、車移動が多い地方都市だと、「車に乗ってアウターを着ていると暑いからインナーは“エアリズム”がいい」っていうニーズも多そうですもんね(地下鉄移動が多い都市圏でも、ダウンアウターを着て地下鉄に乗ると暑いですし)。ゆえに「ユニクロ」は“エアリズム”を年間通して打ち出している。つまり「ユニクロ」にとって、“エアリズム”は“ステイプル”なんだと思います。「ユニクロ」だと、ブラトップとか靴下も同様ですね。

 とはいえ、下着や靴下を扱っているのは「ユニクロ」だから。ファッションブランドは、おしゃれ着としての自社の“ステイプル”を追求しなければいけませんよね(もちろん「ユニクロ」もおしゃれ着分野でも模索していますが)。それってブランドのアイデンティティーや得意な分野をあらためて問うことになります。カジュアルブランド、たとえば「ジーユー(GU)」が、いくら“ステイプル”だろうからってガチのスーツ出しても「スーツは別で買おうかな……」となってしまいそうですし。というわけで、「あのブランドでコレが売れているからうちも作ろう!」「今シーズンはこれがトレンドらしいからうちもとりあえず企画しよう!!」(だけ)では、ますますダメな世の中になっているなとあらためて感じます。

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