ファッション

全土封鎖のイタリア ブランド、素材メーカー、小売り、学校の対応は?

 新型コロナウイルスの急速な感染拡大を受け、イタリア政府は国内全域での移動制限措置を打ち出した。そうした中でも、イタリアを拠点とするアパレルブランドや素材メーカー、学校などは影響を最小限に抑えようと努力している。

 ジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)は、イタリア国内の病院や新型コロナウイルスの感染症対策に関わる機関に対して125万ユーロ(約1億4750万円)を寄付した。デザイナーのアルマーニは、感染者がいないなど安全が確保された各部署の代表者とのみ会うなど、直接対面する人数を最小限にしながら、次のメンズおよびプレ・スプリング・コレクションに向けて準備を進めているという。また同社では、可能な部署では在宅勤務などの柔軟な働き方を推進し、倉庫などの物流部門では最大限の注意を払いながら業務を続けている。

 「グッチ(GUCCI)」「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」「ブリオーニ(BRIONI)」「ポメラート(POMELLATO)」などのイタリアンブランドを擁するケリング(KERING)でも、従業員の安全を守るために必要な対策を講じており、在宅勤務などの措置を取っている。

 ベネトン グループ(BENETTON GROUP)は世界に5000店以上を展開し、7500人以上の従業員を抱えているが、今回の事態を受けて店舗は短縮営業とし、可能な部署では在宅勤務を推進している。ベネト州にある工場は3月9日付で操業を停止しており、操業を継続する工場でも昼食時間をずらしたり、シフトを組み直したりして、同じ空間に大人数が集まらないようにしている。また飛行機と電車での移動は禁止とし、ミーティングなどは中止もしくはビデオ会議に切り替えているほか、各オフィスの総務部が参加できるチャットルームを設置して状況の変化を迅速に共有できるようにしているという。

 「モスキーノ(MOSCHINO)」「アルベルタ フェレッティ(ALBERTA FERRETTI)」「ポリーニ(POLLINI)」などを擁するアエッフェ(AEFFE)でも、可能な部署では在宅勤務を推奨し、イタリア国内の店舗は営業時間を短縮している。5月22日にイタリア・リミニで開催予定の「アルベルタ フェレッティ」 21年プレ・スプリング(リゾート)・コレクションを行うかどうかについては、まだ発表されていない。なお、「ジョルジオ アルマーニ」は4月19、20日にドバイで開催予定だったイベントを、「プラダ(PRADA)」は5月21日に日本で開催予定だった21年プレ・スプリング(リゾート)・コレクションを延期。「グッチ」も、5月18日にサンフランシスコで行う予定だった同コレクションをキャンセルしている。

 高級ブランドのアパレル生産などを行い、自社ブランドも展開するキャスター(CASTER)でも、営業や管理部門では在宅勤務を実施しているが、裁縫職やパタンナー、物流部門のスタッフは工場で仕事を続けているという。同社のアンジェラ・ピコッツィ(Angela Picozzi)創業者は、「清掃や衛生管理サービスの強化など必要な対策を講じながら業務を継続している。今のところサプライヤーからの納品も予定通りに行われているが、仮にテキスタイルなどの納品が数日ほど遅れる取引先があったとしても、それほど大きな問題にはならないだろう。当社でも1週間から2週間程度の遅れが出るかもしれないが、今回の事態を踏まえると、それは仕方のないことだと考えている」と語った。同氏はまた、「今回の事態を受けて、以前は中国で生産していたブランドからの発注も増えている。確かにイタリアなどヨーロッパ諸国での生産は割高だが、中国からの輸送費もどんどん値上がりしているからだろう」と述べた。

 テキスタイルメーカーのマンテロ(MANTERO)とラッティ(RATTI)は、生産能力や品質を維持するために提携すると発表した。原材料や素材、情報を共有し、生産面でも相互にバックアップ態勢を取るという。両社は、このように協働することでシナジーを創出して共に難局を乗り切っていこうという考えに賛同するテキスタイルメーカーであれば、同様に提携していきたいとしている。

 デニムメーカーのカンディアーニ・デニム(CANDIANI DENIM)は、輸送手段が確保されているため、生産や物流にも特に問題はないという。同社のサイモン・ジュリアーニ(Simon Giuliani)=グローバル・マーケティング・ディレクターは、「メディアはパニックを煽るのではなく、人々を安心させるニュースをもっと流すべきだ」と話した。

 コットン生地メーカー、カンクリーニ 1925(CANCLINI 1925)のシモン・カンクリーニ(Simone Canclini)最高経営責任者(CEO)は、「今回の非常事態を憂慮しているが、新たなテクノロジーを導入して手順を整えることで、事業の継続性と効率性を確保している。生産面での影響はなく、納品の遅れはない予定だ」と説明した。シルク生地の専門メーカー、カネパ(CANEPA)のミケーラ・カネパ(Michela Canepa)創業者も、「物流が動いており原材料も滞りなく届いているため、工場は通常通り操業している。当社に来ることができない顧客のために、サンプルの出荷を増やしている」と述べた。

 トルコのデニム生地メーカー、イスコ(ISKO)のエレナ・ファルキーニ(Elena Faleschini)=グローバルフィールド・マーケティング・マネジャーは、「イタリア国内では生産していないので生産面での心配はしていないが、経済に対する長期的な影響を懸念している。ミラノがあるロンバルディア州が封鎖された際は、ただちに売り上げに影響が出た。こうした状況が続けばアパレルに対する需要が落ち、結果として多くのブランドが新製品の開発に慎重になるのではないか。新型コロナウイルスがフランス、ドイツ、アメリカなどでも拡大していることを憂慮している」と語った。

 ミラノの小売業は、イタリア全土の封鎖という厳しい状況にあっても営業を続けている店が多い。伊百貨店リナシェンテ(RINASCENTE)の場合、ミラノ本店は平日18時まで営業し、週末は休業とするが、ローマやフィレンツェなどの店舗は通常通りに営業する。

 一方で、イタリアのレッグウエアブランド「カルツェドニア(CALZEDONIA)」やニットウエアの「ファルコネリ(FALCONERI)」、ランジェリーの「インティミッシミ(INTIMISSIMI)」などを擁するカルツェドニア・グループは、国内店舗の多くを一時的に休業している。同社のサンドロ・ヴェロネシ(Sandro Veronesi)創業者兼会長は、「当社は生活必需品を売っているわけではないので、顧客と従業員の安全をできる限り守るためにも、これが正しい措置だと考えた」と語った。

 イタリアの教育機関も、新型コロナウイルスの影響で学生や市民らの教育を受ける機会が奪われないように奮闘している。オンラインでの授業やビデオ会議システムを活用した質疑応答を実施しているほか、生徒が卒業制作を発表できるようにプラットフォームを導入した学校もある。

 フィレンツェにある服飾専門学校のポリモーダ(POLIMODA)は、もともとオンラインで授業ができるように準備していたため、今回の事態にも迅速に対応できた。学生はオンラインで受講し、スカイプや「ワッツアップ(WhatsApp)」アプリで教授陣からの指導を受けられる。また3月13日には、同校で初となる“デジタル上でのオープン・キャンパス”を実施するが、これまでにないほど多くの参加申し込みがあったという。同校のダニーロ・ヴェントゥーリ(Danilo Venturi)=ディレクターは、「最新のテクノロジーによって授業を最低限でも継続することができるし、不安な思いを抱えている学生やその家族に寄り添うことができる。われわれは今、歴史的な転換点に立ち会っていると思う。この危機的な状況が収束したあとも、それによって大幅に変わった意識や働き方、ライフスタイルが残ることを認識するべきだろう」と語った。

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