新型コロナウイルスの感染拡大を抑制するため、ヨーロッパ各国では店舗の休業措置などが取られているが、長期化するにつれて経済的な影響が懸念されている。
H&Mヘネス・アンド・マウリッツ(H&M HENNES & MAURITZ以下、H&M)は2019年12月〜20年2月期(第1四半期)決算の速報を3月16日に発表した。付加価値税を含む売上高は前年同期比7.7%増の549億スウェーデンクローナ(約5490億円)と増収だったものの、新型コロナウイルスが中国で猛威を振るっていたピーク時には同国で展開する518店のうち334店を休業していたため、中国の売り上げは同24%減となった。なお、日本を含むアジア地域を除いた売上高は現地通貨ベースで同7%増だった。
同社によれば、中国での売り上げは事態が収束に向かうにつれて徐々に回復しているが、3月に入ってからは売上高の半分近くを占めるヨーロッパで大きな打撃を受けているという。H&Mはヨーロッパで3000店以上を構えており、それ以外の地域にある店舗の合計数は2000店に満たない。各国政府の方針に従い、現在はイタリア、フランス、ベルギー、スペイン、ポーランド、チェコ、ブルガリア、オーストリア、ルクセンブルク、ボスニア・ヘルツェゴビナ、スロベニア、カザフスタンの全店舗を休業しているほか、ギリシャでも一部の店舗を休業している。なお、ECサイトは通常通り営業している。
H&Mはここ数年、ECを含むデジタル部門や物流施設の強化に取り組んでおり、今後もそれを継続するとしているが、「新型コロナウイルスに関連したマイナスの影響を最小限に抑えるため、あらゆる企業活動についてコストとリスクを踏まえて慎重に検討していく」とコメントした。第1四半期の正式な決算発表は4月3日に行われる。
一方、イギリス政府は今のところ店舗の休業や人の移動制限などの措置を取っていない。このため、アソシエイテッド・ブリティッシュ・フーズ(ASSOCIATED BRITISH FOODS以下、ABF)が展開する激安店の「プライマーク(PRIMARK)」もイギリス国内の店舗は通常通り営業しているが、イタリア、フランス、オーストリア、スペインの店舗は休業している。同社によれば、これらのヨーロッパ各国にある店舗は売り場面積全体の20%を、売上高全体の30%を占めているという。「3月16日からの4週間で、これら4カ国でおよそ1億9000万ポンド(約248億円)の売り上げがあるはずだった。また売上高の41%を占めるイギリス国内でも客足が落ちており、既存店ベースでの売り上げがここ2週間で減少している」とコメントした。なお、2月の時点では中国の取引先工場が操業停止となっていたが、現在はその多くが再開しているため、中国からの輸入品に関して品薄になる可能性は低いという。
ABFの売上高のうち、小売事業である「プライマーク」が約半分を占めており、残りが食料品、砂糖、農作物となっている。新型コロナウイルスの影響が出始める前はいずれの事業も好調で、かつ食料品や農作物についてはその後も売り上げが落ちていないことから、19年10月〜20年3月(20年上期)決算の営業利益は予想を上回る見通しだ。
しかし米投資銀行バーンスタイン(BERNSTEIN)は、「状況によってはイギリス、ドイツ、アメリカなどの店舗も一部休業せざるを得ないだろう。既存店ベースでの売り上げや利益へのさらなる打撃となる上に、『プライマーク』がECを行っていないことを考えると、今年度中に売上損失をカバーできる可能性は低いと思われる」と分析する。ABFは、「当社の財務状態は健全で、手元資金も8億ポンド(約1048億円)と潤沢にある。新型コロナウイルスに関する状況が刻々と変化しているため、下期の見通しを発表するのは時期尚早だ」と説明した。上期の正式な決算発表は4月21日に行われる。