香港の大手商社リー&フォン(LI & FUNG)が上場廃止案を発表した。創業家であるフォン一族と、シンガポールの物流・不動産大手GLPがリー&フォンの発行済み株式を1株当たり1.25香港ドル(約17円)で買い付ける。これは3月20日の同社株価の終値である0.5香港ドル(約7円)に150%程度のプレミアムを上乗せした価格で、取引総額はおよそ72億香港ドル(約1008億円)となる。取引は株主などの承認を受ける必要があるが、承認されれば議決権付株式の60%をフォン一族が保有し、残りの40%および無議決権株式の100%をGLPが保有する形となるため、経済的な持ち分としてはGLPが67.67%を保有することになる。
リー&フォンはこの上場廃止案を2019年12月通期決算とともに発表した。同社の19年度の売上高は前期比10.1%減の114億1300万ドル(約1兆2554億円)、営業利益は同22.7%減の2億2800万ドル(約250億円)、純利益は同86.2%増の5400万ドル(約59億円)だった。純利益の大幅な増加は、18年度に非継続事業の損失を計上していた影響によるものだ。
同社のサプライチェーンサービス事業の売り上げのうち米国が80%近くを占めていることから、激化する米中貿易摩擦によって大きな痛手を受けた。またアマゾン(AMAZON)などECの台頭により、取引先の小売店が倒産していることも売り上げ減の原因となっている。それに加えて、今後は新型コロナウイルスによるマイナスの影響が出てくると見られている。
スペンサー・フォン(Spencer Fung)最高経営責任者は、「新型コロナウイルスの感染拡大によって、世界の需給状況はかつてないほど混乱している。買い物客の大幅な減少を受け、多くの小売店はサプライチェーンの見直しを行っているが、生活必需品以外は大きな打撃を受けるだろう。中国の物流は速やかに回復しているものの、アジアのその他の地域では先行きの不透明感が増している。当社には9億ドル(約990億円)以上の潤沢な手元資金があるが、今後数カ月間は本当に必要な費用や設備投資以外の出費は控えて、資金確保に努めたい」と語った。
リー&フォンは1906年の創業。磁器や絹の貿易商としてスタートし、現在はファッションや日用雑貨のサプライヤーとして世界最大級の規模にまで成長した。取引先は米小売り最大手のウォルマート(WALMART)やメイシーズ(MACY’S)、ナイキ(NIKE)など多岐にわたり、40の市場で事業を展開している。2017〜19年には1億5000万ドル(約165億円)をかけて、デジタル・サプライチェーン・マネジメント(SCM、商品の企画から調達、物流、販売までの一連の商流の最適化)改革を行った。