3月21日に供用を開始したJR原宿新駅舎2階に、コーヒーチェーンの猿田彦珈琲が新業態「ザ・ブリッジ(THE BRIDGE)」をオープンした。駅舎内の商業テナントは1階のニューデイズと同店のみ。看板メニューはウイスキー樽で熟成させたコーヒーで、1000円前後という従来にない高価格メニューで勝負する。「(新店は)本格コーヒーを手軽に提供してきたわれわれの第2章の幕開けだ」と大塚朝之社長は意気込む。
約280平方メートル120席の同店は、「猿田彦珈琲」の既存店と比較すると最大クラス。「原宿駅の新たなコミュニティースペースとしての役割を担うとともに、コーヒーをじっくり楽しめる」環境設計にこだわった。建築家の谷尻誠率いるサポーズデザインオフィスが店内デザインを手掛け、”和”をテーマに日本の路地をイメージして導線を作るとともに什器を低く設計。日本独特の美的感覚という「余白」を大きく作ることで、居心地のよさを生み出した。
同店の限定メニューであるコーヒー“バレルエイジドコーヒー“は、信州のウイスキー蒸溜所の樽で豆を寝かせ、芳醇な香りを閉じ込める。さらにその豆を、世界中の高級品種とともに独自の配合比率でブレンドした“猿田彦の夜明け”(900円)がシグネチャーコーヒーだ。その日の気候などのコンディションを鑑みつつ、注文を受けてからコーヒー豆をブレンド。味にこだわる一方で「コーヒーチェーン店らしい手軽さ」の両立も目指す。熟練ハンドドリップのノウハウをプログラミングしたドリップ機器を導入し、提供時間を短縮した。
2011年に創業した猿田彦珈琲は、1杯500円前後のコーヒーを提供するチェーン店を全国に14店舗構える。「若者の街である原宿で、1杯1000円の高級コーヒー。チャンスはあるのか?」と問うと、「もちろん難しいと思う。1人のお客さまが週に1回、いや年に1回でもいいから飲んでいただけたら上出来だ」と大塚社長。表参道から明治神宮に架かる神宮橋と五輪橋にちなんだ店名には、本格コーヒーになじみのない若者を「コーヒーの世界へ橋渡ししたい」(大塚社長)という願いが込もる。
大塚氏との共同創業者で、メニュー企画を統括する都築尚徳技術部ディレクターも思いを共にする。同社は、調布の焙煎所から年間250ものフレーバーを生み出すなどコーヒー研究に多くのコストを費やしている。「キャッチーなデザートドリンクでお客さまの心をつかむのは簡単。だが、当社は愚直にコーヒーの味で勝負するし、だからこそ根強いファンがついている」(都築ディレクター)。ファン拡大のきっかけになったのも、豆のおいしさを追求した深煎りの“猿田彦フレンチ”(540円)。まろやかな口当たりと深いコクのバランスで、初心者から上級者まで幅広く愛されている。
2人は新店を「われわれのコーヒーへのまっすぐな気持ちとプライドを、最も表現する場」と位置づける。「ここ(原宿店)でじわじわと、『1000円出してもいい』コーヒーとしての認知とファンを広げ、『猿田彦』のブランディングにつなげていきたい」。