ここ数年でよく見聞きする「○○を回収、下取りします」という言葉。サステナビリティへの意識が高まる前から、多くのブランドが実践してきました。例えば、靴やスーツなどを、下取りして、店頭で使えるクーポンを提供するなどで提供者に還元し、商品はリサイクルするという。地球環境を考え、循環を考えたプログラムです。しかし実際、回収し集めた後はどう流れて新しく生まれ変わっているのでしょうか?本当に生まれ変わっているの?という疑問もあり、ダウンの回収プログラムを行う、ユナイテッドアローズ(UA)に取材を申し込むと、ダウンのリサイクルを担う「グリーン ダウン プロジェクト(GREEN DOWN PROJECT以下、GDP)」にたどり着きました。GDPってどんなプロジェクトなんでしょうか?
羽毛は50%が炭素 1kg燃やすと1.8kgの二酸化炭素が発生
中立的な機関としてリサイクルの仕組みを確立しているのが、「GDP」です。このプロジェクトの発起人は、ダウンジャケットや羽毛ふとんのダウン加工の最大手である三重県の河田フェザー社長、河田敏勝医学博士。「ダウンジャケットや羽毛ふとんでダウンの需要を広げてきたが、羽毛は約50%が炭素できており、1kg燃やすと約1.8kgの二酸化炭素が発生する。羽毛は本来、きちんとリサイクルすると100年は持続可能だ」と語り、深刻な環境問題を考え、「われわれの責任」として河田フェザーはダウンのリサイクルを2010年にスタートさせました。
リサイクルを進めて行く上で河田社長は、「こういった問題は一社でやれるものではない」との結論に至り、「当社は一生産者の立場で参画し、松阪市社会福祉協議会にいた長井一浩氏に託した」と言います。15年に一般社団法人として「GDP」が設立され、長井氏が理事長に就任しました。長井理事長は「15年の設立を前に、14年に設立準備会議をスタートしました。UAさんをはじめ、アーバンリサーチさん、三陽商会さん、西川リビングさんなどが手を上げてくださっていて、みんなでどうしたらうまく循環するかを考えました」と語ります。“儲け”を第一に考えるではなく、地球環境を考えた“循環型”にすること、その後に“儲け”もあればと考えた取り組みです。
地球環境を考えた循環型を目指すGDP
「GDP」の仕組みはこうです。現在、正会員約35社(ダウン生産者、製品生産管理者、製品販売者、羽毛製品回収販売者)と協力会員約80社などで構成され、正会員は年会費と入会金を払わなければ行けません。正会員には、羽毛洗浄企業として河田フェザーが、羽毛原料購入企業として豊島や東レインターナショナル、山一、ヤギ、伊藤忠商事などが、羽毛製品販売企業として三陽商会やアーバンリサーチ、UA、西川、アダストリアなどが参画しています。会費を払わない協力会員は羽毛の製品回収だけを行う企業で、イトーヨーカー堂や三越伊勢丹ホールディングス、ユニー、昭和西川などが参加しています。
正会員は、毎年の回収量に合わせ、リサイクルしたダウンの割当量が決まり、それを買い取り製品化するという循環で、毎年、安定的にリサイクルダウンを受けることができます。UAがこのプロジェクトに参画した理由について、佐竹和志・第二事業本部生産物流部副部長は、「毎年ダウンを生産・販売する上で一番頭が痛かったのが、年によって値段が乱高下することだったんです。鳥インフルエンザが流行ったり、そんな噂が立ったりで、相場が大きく変わってしまう状況がありました。加えて、水鳥の生産量が減っているのに対して、中国などの新興国が豊かになってダウン製品の需要が高まり更に価格が上がったり、質の悪いダウンが出てきたりと……。そんな状況から、ある程度安定的に供給することと、コストも大きな変動なく見込めるようにすることが大事だと思ったから」と言います。
障がい者の雇用機会も組み入れ
回収したダウンの解体は、河田フェザーの敷地内で、社会福祉法人明和町社会福祉協議会 就労継続支援B型事業所のありんこが担当しています。ここでは障がい者の就労機会を組み入れており、障がい者の自立、共生、共働を支える仕組みも確立しています。
長く働いている方だと、まとまって運ばれてきた羽毛を見ただけで、高品質か低品質かどうかが分かるといいます。作業をしていた方に辛かったことはとお聞きすると、「昔、解体作業で使うカッターで手を切ってしまったこと。すごく痛かった」とおっしゃっていましたが、それも最初だけで慣れてくるとスピードも早くなるそうです。今では安全性と効率性が向上した設備でもくもくと作業をこなす姿を見ていると、こういった方々がいてこそ、循環システムが成り立っているんだろうな、と思いました。
そこで仕分けされたダウンを、河田フェザーが洗浄、乾燥・選別します。リサイクルダウンにはどういったイメージを持っているでしょうか?「2次利用だし、あんまりきれいではないのでは……」と思う人も多いかもしれません。河田フェザーを訪れる前に、UAの佐竹副部長から、「河田フェザーさんが行なっているリサイクルダウンは、新毛よりもきれいであるとも言えるんですよ。実は」と語られていたんですが、実際行ってみてそれを実感しました。
新毛よりもきれいなリサイクルダウン
そもそも新毛にはアカやホコリなどがたくさんついているのですが、それを除塵、洗浄、スチーム乾燥、冷却除塵、羽毛の選別の過程で不純物を取り除かれていきます。そもそも水が大きな特徴のひとつなんです。河田フェザーがある三重県明和町は、「純水に近い超軟水が湧き出ている。ミネラルを含まず、柔らかいため羽毛を傷つけずに、羽毛の隅々まで浸透してアカや脂肪分を取り除くことができる。また、乾いた風が一年を通して吹き下ろしていて、羽毛からホコリを除去するために乾燥して湿度の低い気候が理想だった」と河田代表。
その地下からくみ上げた超軟水を使って羽毛を研ぎ洗いで洗浄。洗浄した水の清浄度を測定していますが、日本羽毛製品協同組合基準では500㎜(2019年時点)の透視度計で底が見える度合いを確認するとしますが、河田フェザーでは2000㎜が基準で、一部の羽毛では3000㎜の透視度計を使う場合もあるといいます。そこまできれいにしたダウンが、巡り巡って「GDP」に戻り、新毛時と同じ工程を掛けて不純物を取り除き、リサイクルでは、ダウン率80%以上は透視度2000㎜以上、ダウン率50%以上80%未満の場合は1000㎜以上を基準としていますが、顧客の要望や品質の状況によっては200㎜以上の場合もあります。
競合が参加できるプロジェクト
このプロジェクトには、多くのアパレル、セレクトショップなど多くの競合他社が参画しているのが特徴です。差別化がカギとされるファッション業界でなぜ多くの企業が一緒にできるのでしょう?佐竹UA副部長は、「理解ある立ち上げメンバーに恵まれたということはもちろん、素材がダウンだったからうまくいったというのは正直あったと思います。ダウンは“詰め物”で、各社共通のモノを使ったとしても、デザインや素材などで独自色が出せます。そういった意味でダウンはリサイクル資源として優秀で、こういった取り組みに合っていると思います」。
「GDP」が立ち上がってから、2014年で羽毛回収実績は約5000kg、15年で1万kg、19年には約6万kg(予想)になっており、グリーンダウン使用料は15年で約5800kg、19年で約3万kgとなっています。まだまだこれからと言え、今後の課題は循環型のネックとなる「回収」です。長井理事長は、「一概に参画企業が増えることがいいとも限らないんです。われわれのプロジェクトの大きな柱は、ダウンを安定的に供給することなんです。ダウンにはブームがあり、そういう時はたくさん使いたい、安いから使いたい、というのではないんです。きちんとリサイクルすれば100年は使えるというダウンを、きちんと循環させる。GDPを理解してもらい、共感してもらえるかどうか、だと思っています」と語ります。
アパレルや寝具メーカーが集めるのに加えて、地域のごみ収集などでもダウンを集めるサイクルができればまた大きな可能性が広がるのでしょうか。そうなると、加工の方も強化しなくてはならなそうです。また洋服はダウンジャケットだけではありません。UAの佐竹副部長が、「衣料品のサステナブルで言えば、環境負荷の少ない生地を使っていくなどしていきたいと思います。今後、バイオマス技術の研究やポリエステル再生技術が進んだらやっていけることがたくさんあるのではないでしょうか」と言います。地球環境を考えたら待ったなしの状況の中で、このプロジェクトの役割は大きいと感じました。