神奈川県逗子市在住の26歳のシンガー・ソングライターiri(イリ)。自宅にあった母のアコースティックギターを独学で学び、18歳でアルバイト先のジャズバーで弾き語りのライブ活動を始めた彼女が脚光を浴びるまでにそう時間はかからなかった。ヒップホップ的なリリックとソウルフルな歌声が話題を集め、2016年10月にアルバム「Groove it」でデビュー。シングル曲「Watashi」がNike Womenのキャンペーンソングに起用されたほか、「クロエ(CHLOE)」や「ヴァレンティノ(VALENTINO)」などのパーティーでパフォーマンスを披露するなど、ファッションシーンからも熱い視線を浴びる。
17年にリリースした「会いたいわ」がTikTok週間楽曲ランキングで1位となり、今1月にリリースしたシングル「24-25」、そして3rdアルバム「Shade」に収録の「Wonderland」と、3曲がストリーミングチャートでロングヒット。3月25日に自身4枚目のアルバム「sparkle」の発売を控える彼女に、アーティストとして活動することになった経緯から、音楽性、ファッション観に至るまでを聞いた
WWD:音楽を始めたきっかけは?
iri:小学生のとき、学校のスクールカウンセラーに悩みを聞いてもらううちにその仕事に憧れを抱くようになり、誰かの心をケアする仕事に就きたいと思いました。それから音楽を聴き始めて、音楽に自分が支えられたことで、音楽も誰かの助けになると思い、高校生のときにシンガーを目指してボイストレーニングに通うようになりました。
WWD:当時聴いていた音楽は?
iri:ジャズやサンバなど母親が聴いていた音楽に影響を受けました。邦楽ではAIさんやMISIAさん、久保田利伸さんなどR & Bも聴いていました。
WWD:音楽活動の原点となったジャズバーでアルバイトを始めたのどういった経緯で?
iri:アルバイトを探していたときに、以前働いていたバイト先の人から紹介してもらいました。働きながらライブを観られるし、音楽も吸収できると思ったのがきっかけです。大学4年間はずっとジャズバーで働いていました。そこで弾き語りのライブをするようになりました。
WWD:本格的にアーティストを志したのはいつ頃から?
iri:大学4年生になり、周囲が就職活動を始めるときに、「NYLON JAPAN」が開催したオーディションを受けてグランプリをいただきました。それで今の事務所に所属して、音源もリリースできるようになりました。
WWD:当時周りが就職活動している状況に焦りは感じなかった?
iri:焦りはなかったです。シンガー以外の夢や、やりたいことがなかったので、オーディションに受からなかったらアルバイトをしながらでも活動しようと思っていました。オーディションでグランプリに選ばれて、小学生のころから続けていたボイストレーニングなど、これまでやってきたことに自信を持てました。
WWD:もともと弾き語りからスタートして、今のR & Bスタイルになったのは何かきっかけがあった?
iri:聞く曲が少しずつ変わっていったからだと思います。シンガー・ソングライターの七尾旅人さんが好きで、活動を始めた当初は弾き語りでゆったりとしたスタイルでした。でもあるとき、(七尾)旅人さんが(ラッパーやDJ、トラックメーカーとして活躍する)やけのはらさんと一緒に制作した楽曲を聴いたんです。その曲がきっかけで邦楽のヒップホップが好きになり、言葉遊びも面白いなと感じて自分にインプットしていったら今のスタイルになった、という感じですかね。
悩みを抜け出した先に
たどりついた新境地
WWD:自身4枚目のアルバム「sparkle(スパークル)」の意味は?
iri:前作のアルバム「shade」を発表したときは、自身の音楽性に悩んでいた時期で、収録曲もその心境を表現したネガティブな印象の曲が多かったんです。今作の「sparkle」では、自分が当時から悩んできたものを発散して、そういった悩みから抜け出してはじけていくという意味を込めて決めました。
WWD:どういうところに悩んでいた?
iri:セカンドアルバムを出すタイミングまでは、知名度を上げることに注力していました。当時はキャッチーな曲やあまり難しくhい構成の曲など、リスナーに届きやすく、わかりやすくという風に考えていたんですが、次第に「自分の色をもっと出したい」と思うようになり、自分がやりたいことと求められるものとのギャップに悩んでいました。
WWD:アルバム収録曲「24-25」では自身の年齢に対する思いについて触れていた。
iri:25歳になったときに、年齢に対して焦りがありました。もうアラサーになるんだっていう。タイトルもただ「25」のではなく、「24」という数字を入れたのは、セカンドアルバムを作った当時が24歳で、そこから1年間の悩みや葛藤について歌った曲だからです。
WWD:今回のアルバム「sparkle」を通して伝えたいことは?
iri:実は特にないんです(笑)。こちらの気持ちは曲にしてあるので、聴いてくれた方が自由に感じていただけたらと思います。
WWD:「sparkle」の収録曲ではさまざまなアーティストが楽曲制作に携わっている。
iri:4曲目の「coaster」でいうとSANABAGUNのドラムの(澤村)一平君から連絡があり、(OKAMOTO’Sの)ハマ君とトラックメーカーのSTUTS君の3人で曲を作ると言っていて、「歌ってくれない?」と誘われたのがきっかけです。一平君は、デビュー前の弾き語りのときにサポートで入ってくれていて、ハマ君は事務所の先輩、STUTS君は以前アルバムでご一緒したり、普段から親交があったりという関係性があった。結局STUTS君は自分のワンマンライブがあって、スケジュールの都合で参加できなくなり、一平君とハマ君に参加してもらいました。
WWD:楽曲はどのように制作している?
iri:基本的にはギターのメロディーを繰り返し演奏して思い浮かんだ歌詞を乗せたり、メロディーに合う歌詞を組んだりしています。イメージが湧くと早いのですが、いつも悩んでギリギリになります(笑)。イメージが湧かないときは友だちと遊んだり、音楽も全く聴かないなど別のことをしていますね。
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WWD:「ナイキ」をはじめ「クロエ」や「ヴァレンティノ」でのパーティーでもパフォーマンスを披露するなどファッションシーンでも活躍が目立つが、自身のファッションへのこだわりはある?
iri:ライブ衣装はパキっとした色や、着心地がよくて動きやすいものを選んでいます。また、自分の曲の雰囲気にマッチするもの、テンションが上がるものも身に着けるようにしています。(あいみょんやRADWIMPSのスタイリングを手掛ける)スタイリストの服部昌孝さんが毎回、自分のポイントを押さえてくれています。
WWD:同年代で意識している人は?
iri:NYのフィメール・ラッパーのプリンセス・ノキア(Princess Nokia)はいいなと思います。彼女の音楽やファッションなどが好きでインスタグラムもよくチェックしています。
WWD:歌詞やスタイルから“若い女性の代表”として見られることに対してはどう思う?
iri:よく言われるんですが、私自身は特にそういった女性像をイメージして活動している訳ではないんです。そういった周囲のイメージとのギャップを感じることは多々ありますね。でも、ありのままの自分でいたいなとは思います。
WWD:最近のライブではチケットがソールドアウトすることが多いが、人気が高まっているのは感じている?
iri:大きな場所でやるのが目標という訳ではないですが、それでも多くの人に私の音楽が聴いてもらえるのは素直にうれしいです。
WWD:最後にiriさんにとって音楽とは?
iri:自分らしさを表現できるもの。人前で話すことや思いを言葉にすることが苦手で、歌詞にすることでいつもなら言えないことを吐き出すことができます。