上海生まれで東京を拠点にモデルとして活動するShenは、2020-21年秋冬シーズンのミラノ・ファッション・ウイーク(以下、ミラノコレ)とパリ・ファッション・ウイーク(以下、パリコレ)に参加した。ミラノでは「MSGM」「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」「ミッソーニ(MISSONI)」のショーに、パリでは「サンローラン(SAINT LAURENT)」「ノワール ケイ ニノミヤ(NOIR KEI NINOMIYA)」「トム ブラウン(THOM BROWNE)」「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」などのショーにゲストとして来場した。くしくも新型コロナウイルスの影響を受けたファッション・ウイークとなったが、大のファッション好きというShenが現地で感じたことは?パリコレ終了後に尋ねた。
WWD:多くのブランドのショーに訪れていたが、特に刺激を受けたコレクションや印象に残ったブランドは?
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Shen:パリに来て見た2つ目のショー、「サンローラン(SAINT LAURENT)」がすごくよかったです。パンツはエナメルかなと思ったらラテックス素材なんですね。今まで「サンローラン」は黒のイメージだったので、今季出たくすんだパープルやイエローなど、イヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent)らしい色使いも気になりました。昔から「サンローラン」が好きでよく買っていて、今回私服で参加して自分でスタイリングしました。もともとドレスを持っていたので、そのドレスに合ったシューズをパリの「サンローラン」で買いました。
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初めて見た「アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER McQUEEN以下、マックイーン)」のショーも印象に残っています。カイア・ガーバー(Kaia Gerber)が着ていた、開いた花びらのような形の袖のジャケットが気になります。ショーの後の展示会で細部までこだわって作っていることを知り、職人魂を感じました。スタイリングでは、シンプルなドレスにゴージャスなチェーンを体に巻きつけるように合わせていたのと、フェミニンなドレスにハーネスなどで強さを出したスタイリングが気になりました。このチェーンやハーネスはいろいろな服装に使えそうですよね。普段のスタイリングに取り入れていきたいです。ショーでたまたま隣に座ったのが大好きな韓国のインフルエンサー、アイリーン・キム(Irene Kim)で、「大好きです」って本人に伝えることができたのもすごくうれしかったです。
WWD:ショーを見る中で、気になったトレンドは?
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Shen:「ジュンヤ ワタナベ・コム デ ギャルソン(JUNYA WATANABE COMME DES GARCONS以下、ジュンヤ)」と「マックイーン」のショーで見た、ジャケットにプラスアルファでバッグやをベルトを巻くスタイリングが気になりました。前回のパリコレにも来たのですが、前シーズンから少しずつネオンカラーが出てきているなと感じています。前回の「ジュンヤ」のショーでも出ていましたし、今季の「ボッテガ・ヴェネタ」でもネオングリーンがたくさん出てきていました。
WWD:各ブランドのショーでさまざまなスタイリングに挑戦していたが、特に気に入っていたスタイリングは?
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Shen:「コム デ ギャルソン」でのスタイリングが好きでした。「コム デ ギャルソン」と「ジュンヤ」のショーの服は全て私物で、自分でスタイリングしました。ちょうど「ジュンヤ」の服と「デルヴォー(DELVAUX)」のミニバッグに入ったネオンカラーがマッチしていて、褒めていただけることが多かったです。
基本、黒のスタイリングが多いのですが、「マックイーン」では普段あまり着ない白のレザーコートを着用して、髪色にもマッチしていたので褒めてもらうことが多かったです。肩の部分の形で強さを出したコートだったのですが、「マックイーン」らしいシルエットを出すためにベルトをかなり強めに締めつけました(笑)。
「トム ブラウン」のワンピースもすごく好きでした。実はロストバゲージで一時このワンピースが行方不明になってしまい、ほかの服を着ることになったのですが、ショー前日に奇跡的に見つかって当日着ることができました。
WWD:ヨーロッパでは新型コロナウイルスの影響が出てきた最中で、特にミラノコレでは期間中に急速に広がった。コレクションを回る中で、何か影響はあった?
Shen:ミラノでショーを待っているときに、イタリア人のおじさんに中国語で話しかけられ、うれしくてしばらく話していたのですが、急に「あなたは感染していないよね?」と言われてその瞬間ちょっと冷めました(笑)。中国語勉強している人って中国が好きな人が多いので、まさかその人からそんな言葉が出てくるとは思いませんでした。でもファッション関係の人はみんな優しかったですね。ミラノで「ジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)」が無観客ショーになって、フィナーレでアルマーニさんが中国人モデルをバックに写真を撮られていたのには勇気をもらいました。
それから、「マーチェン(MARCHEN)」という上海拠点のブランドのデザイナーと友人なのですが、パリでショールームを開こうと場所まで押さえていたのに、全部キャンセルしたそうです。「マーチェン」は上海ファッション・ウイークで発表していて、勢いのあるブランドで中国でも知名度が上がってきているので、新しいコレクションを見ることができなかったのはとても残念でした。デザイナーもコレクション同様かわいらしいんです。パリではウーバー(Uber)のドライバーによくキャンセルされましたが、これも影響なのかもしれません。
WWD:地元上海の友人や家族に影響はあった?
Shen:はい、基本みんな外出禁止。中国経済は旧正月に盛り上がるのですが、知り合いはみんな、飲食店もショッピングモールも旅行も全てキャンセルしていました。生活物資は「Tモール(天猫国際)」や「タオバオ(TAOBAO)」で注文して、配達員は集合住宅の門の中までは入ってこれないので、荷物が届いたら門まで取りに行っていたそうです。私は普段、東京に住んでいて、旧正月は上海に帰ろうとしていたのですが親から帰ってこない方がいいと言われ、今回は控えました。
WWD:そんな中、ミラノとパリに来た一番の成果は?
Shen:私はもともとファッションが好きでモデルを始めたので、最新のコレクションを真っ先に、そして手にとって見ることができたことが一番の収穫です。普段の生活だと刺激がなくなると怠けてしまうので、ここで刺激を受けてファッションが好きだと再確認できました。「デルヴォー」のショールームに、クロコ革に刺しゅう、フェザーも2種類使っているものすごくゴージャスな1000万円のバッグがあって、日本の社長さんがそれを説明しているときの「ファッションは夢を与える仕事だから。このご時世だからこそね」という一言がすごく印象に残っています。世の中暗めのニュースが多いですが、やっぱりファッションは楽しさや夢を与えるものだと思いました。
WWD:モデルやインフルエンサーとしての今後の目標、やってみたい仕事は?
Shen:モデルというと、服を着せられてショーに出たり撮影したりというのが一般的な仕事ですが、自分で自分のスタイリングをして、発信していくのもありだと思っています。海外ではインフルエンサーがファッション・ウイークに行くことが仕事として成り立っているけれど、日本はまだまだですよね。また、写真だけじゃなくて動画でもファッションの楽しさを伝えたいなと思っています。特に日本は面白さ重視のコンテンツのユーチューバーが多いですが、ハイファッションに特化したユーチューバーはいないですよね。中国にはファッションのヴログ(VLOG)をアップしているインフルエンサーがたくさんいるので、それを見て勉強しようと思います。それから、自分でもスタイリングをよくするので、スタイリストはやってみたいと思っています。でも現場の大変さは分かっているので難しいかも(笑)。