2月24日から3月3日まで開催された2020-21年秋冬パリ・ファッション・ウイークは、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、中国や日本を中心にバイヤーの渡航キャンセルが相次いだ。また、中盤にはアメリカなどのバイヤーが立て続けに予定を前倒して帰国した。しかし、ブランドにとって展示会でのセールスや商談は次のシーズンのビジネスに直結するもの。特に卸を軸にしていればその影響は大きく、日本のブランドでも海外市場向けのセールスをパリのみで行っているところは多い。では、現地の展示会に足を運べず実際のアイテムを見られないバイヤーが多い中、具体的にどのようなことに取り組んでいるのか?パリでコレクションを発表した日本のブランドに3つの質問に対する回答を求めた。
質問1:海外卸先へのセールスの結果は?
質問2:パリに渡航できなかったバイヤーに対して、何かいつもと違う取り組みや配慮は行ったか?
質問3: 2019-20年秋冬や20年春夏と比べて、オーダーの傾向に変化はあったか?
ANREALAGE(アンリアレイジ)
1:アジア圏の国からの来場が減少したことで、展示会への来場者は先シーズンと比べて3割減少。欧米のバイヤーに関していうと、通常通り買い付けはあるものの、バジェットは昨対比で微減している。
2: 今シーズンのコンセプトとして、お客さま自身が組み立てて洋服を作ることが重要なので、組み立てのバリエーションやその際のシルエットを動画で提供している。
3:海外での展示会は、ここまで新型コロナの影響が深刻化する前だったので、オーダーの内容に変化は感じていない。象徴的なコレクションピースを中心としたピックアップが多いが、ボール型シャツやカットソー、ラッピングパンツといった定番アイテムにもオーダーが偏っている。
UJOH(ウジョー)
1:海外の各国の現状を見るとまだオーダーを締めにくく、新規アカウントもあるが、全体として微減になるか微増になるかはまだ分からない。まず、パリコレ中に感染が広がり始めた韓国はすでに出張していたバイヤーに何とか見てもらいオーダーをもらった。ちなみに20年春夏は日本製の不買運動中だったため、オーダーをスキップされたが、お客さまが「ウジョー」の春夏商品がないことについて文句を言ってくれたそうで、今回はこんな状況でも当日にオーダーを置いていってくれた。一方、シンガポールと台湾の取引先は中国からの旅行者の影響を受けるショップらしく、「ウジョー」のような海外でまだ認知が低いブランドは真っ先に影響を受ける対象だと感じる。オーダーについて現在まだ話し合っているところだ。
また、今回からEUのセールスに強いショールームのタレント・トゥー・トレンド(TALENT TO TREND)と組み、ショーをやった効果もあってか、取引先は広がっている。フランスではプランタン(PRINTEMPS)などでの取り扱いが決まり、ドイツもアンドレアス ムルクディス(ANDREAS MURKUDIS)を含め3店になった。現地の外出制限などによりオーダー全部は回収しきれていないが、昨年クリスマス前にセールスとPRの強化とショーの準備をするために渡仏し、パリでのチャレンジに向けて準備してきたことが追い風になったと感じている。
2:独自の素材などディテールに凝ったアイテムが多いため、伝わりやすいように工夫した。具体的には、全てのアイテム撮影画像に加え、ショールックのアイテム別の詳細な説明、スタイリングの参考画像を用意。希望があれば、動画もこれから用意する予定だ。また、現地の状況に合わせて対応している。実は武漢には4年くらい付き合いのある取引先があるが、まだ自宅待機をしなければならず店を開けられない状態だそう。秋冬のオーダーができるように充実させた画像資料を送ったところ、とても喜ばれた。また、上海の取引先にはやっと先週春夏の商品を発送できた。現状は来店客が70%減の状態だというが、そんな厳しい状況下でも少し秋冬のオーダーができるようにと考えてくれている。上海は物流が動いているので、画像に加えて素材を添付したラインシートなどを作成して送る予定だ。
3:パリでショーを行うにあたり、よりデザイン性の高いアイテムを増やしたことで、それらのアイテムが受注につながった。
BEAUTIFUL PEOPLE(ビューティフルピープル)
1:今回は渡航キャンセルによりショーに来られないバイヤーやプレスが多く、全体的には多少影響があった。中国のバイヤーが来られないことや経営難で閉店する店もあるほか、数量を抑えてオーダーするところもあるが、代わりに新規のオーダーも決まり、結果的にはあまり変わらないか微減の見通し。
2:毎回画像は送っていたが、いつもより多めに送ったり、異なる体型のスタッフの着用写真とモデル写真を両方用意したり。初めてテレビ電話を使ってアイテムを見せたり、ビデオの共有をしたりもした。「ビューティフルピープル」の服は“サイドC(SIDE-C)”という独自のコンセプトで作られているので、それについての着せ替え動画や画像も販促用に撮る予定。その点もバイヤーに説明して、オーダーを受けている。
3:実際のアイテムの変化はあまり見えないが、アジア圏のバイヤーからの発注サイズは少々大きくなってきたと感じる。いつもは34、36をオーダーするところが36、38に変更するなど、ぴったりよりもややゆとりがあったほうが売りやすい傾向のようだ。海外で受注が多かったのは、やはり多様な着方で楽しめる“サイドC”やリバーシブルのアイテムだった。
JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。20年2月からWWDジャパン欧州通信員