※この記事は2020年1月14日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから。
福袋作りに愛情を込めているか?
福袋が好きです。正確に言うと好きでした。諦めきれず今年も愛ある福袋を探して回りました。恋愛みたいな言い回しですが、確かに恋愛みたいなところはあると思います。自分がかつて与えた愛と同じような愛情を与えてくれる相手を探しているという意味で(笑ってほしいところです)。
“あの頃は良かった”話に少しお付き合いください。
90年代半ばから後半にかけて、メーカー勤務の私は年末が近づくと物流センターで福袋作りにいそしみました。返品された商品、サイズが欠けた品番など文字通り残り物、半端物を詰め合わせるのですが、その多くはまだ新品として通用する服です。だから、「これいい商品なのにもったいない」「サイズが合えば絶対お買い得」「まさに残り物には福があるよね」などと商品を愛でつつ手を動かし、お値段以上の価値を作ろうと工夫しました。担当の得意先に少しでもお得な福袋を届けたくて先輩営業マンと商品を取り合ったり、バンダナをチーフのようにポケットに差し込んで見栄えを工夫したりと、とにかく開封した人の笑顔を思い浮かべながら丁寧にたたんで福袋を作ったものです。
その頃は、福袋は半端に残った商材を売り尽くすための一手であると同時に、あくまで祭り商材であり、それで利益を出そうとするブランドはほとんどなかったかと思います。その後、福袋は年始の目玉商材と成長(?)し、中身が分かる物、福袋用商材の詰め合わせなど形を変えて発展(?)してきました。けれど個人的には開封せずとも中身が分かる福袋には一切食指が伸びません。夢がないから。
今もどこかに、売れ残った自社製品が「もったいない」という気持ちで詰め合わせられた福袋が存在するのではないか、そんな気持ちで初売りを歩いています。結果的に買うのはいつも食材の福袋です。信頼する食材店が「余り物」を詰め込んだ福袋はお得だし、自分では手に取らない商材をとるきっかけとなり楽しいです。
余剰在庫に苦しむメーカーが増えている中、こんな話は牧歌的にしか聞こえないかもしれません。が、私は牧歌的だと思いません。自分たちが作ったものを最後までなんとかして売り切る、それはどんなにデジタル化が進もうが、消費者のし好が変わろうが、メーカーや小売りの基本のキだと思うからです。無駄を作らない戦略も重要。ですがそこはファッション。嗜好品ですから当然100%の消化は難しい。だから「愛ある福袋」が生まれるのではないでしょうか。サステナビリティが時代のトレンドワードだから、ではなく。
「WWDジャパン」1月13日号は「捨てないファッション」特集です。大量生産・大量出店を進めてきたツケとして今、多くのアパレルが大量廃棄問題に直面しています。その課題解決のヒントを業界内外の6人の識者に取材していますが彼らの言葉を聞いても改めて、「愛ある福袋」が生まれるようなファッション界でありたいし、あらねばならないし、考え方次第でできる、と思います。そういった意味でこちらの記事にある、メルカリと渋谷109の共同プロジェクト「転売できる福袋」は、“夢とお得は欲しいが無駄な買い物をしたくない”消費者心理を突いておりとても興味深いです。
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