※この記事は2019年9月13日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから。
海外では語り合えるのに、東京ではできないこと
前々回のメールで触れた通り、2020年春夏ニューヨーク・コレクションでは、「インクルージョン(包摂・包括性)」の進化形として「パトリオット(愛国)」という概念が顕在化しました。世界が右翼化する中の「パトリオット」ってヤバそうに聞こえますが、マイケル・コース(Michael Kors)の言葉を借りるなら「アメリカのオプティミスティック」、もちろん現実社会にはイロイロありますが「夢は叶う」とか「誰でも受け入れる」「『合衆』として、多様な存在を認め合った上で1つになる」というアメリカらしさの価値を説いたシーズンでした。無論デザイナーは今、この言葉を発するのがリスキーであることを自覚しています。それでも彼らは、敢えて「パトリオット」という言葉を選んでいるのです。その勇気や、社会に何かをなげかけようする姿勢は尊敬に値しますね。
続くロンドンは、「ポジティブ・ファッション」だそうです。良い言葉ですね。「あの洋服を着たら、ちょっと元気になれた」――。誰もが一度は経験したことがありますよね?そんな感情をストレートに表現しているので、この言葉と、そんな姿勢を発信する主催団体および参加デザイナーには心から共感します。一人一人の努力の積み重ねが、社会にポジティブな影響を与えることでしょう。
「パトリオット」や「ポジティブ」以外にも今シーズン、世界のランウエイには「サステイナブル」や「ダイバーシティー」など、社会とリンクした価値観があふれています。「WWDジャパン」に携わり10年以上が経過しましたが、こういう価値観の報道を重要と信じるメディアの一員であることを幸せに思っています。洋服に興味のない人は、「所詮、洋服だろう?」って思うかもしれません。洋服に興味がある人だって、そんなコトに価値を見い出す人ばかりではないでしょう。でも、僕はそこに絶対の価値を置いているから伝えたいし、「ファッションには、社会とつながる価値観がある」と知らしめることが洋服好き以外の人種を巻き込む有効な手段だと信じているので、こだわり続けたいと思います。
願わくば、東京のコレクションもこうなると良いですね。東京のブランドだってさまざまなカルチャーとリンクしていますが、勇気を持って現代社会と向き合っているブランドは少ないように思います。東京のコレクションは毎回、「洋服を見て、終了」感が強いのが正直なところです。ショーの終了後、海外では同僚と社会とか価値観について語り合っています。でも東京では、「あの洋服、かわいかったね」くらいの会話に終始してしまいがち。それは、私のキャッチ力不足なのかもしれませんが、そんな私にも分かるくらい(笑)、力強いステートメントがあっても良いと思うのです。「たかが洋服だろう?」と思う人もいる中でステートメントを発すること。それこそが彼らに、洋服を「たかが」と思わせない手段になり得ると信じています。
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