※この記事は2019年9月24日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから。
使えなくなった言葉
ミラノ・コレクションで一般紙の記者の方とショーを待っていた時、彼女から「最近、トレンド記事を作るのが難しくなった」という話を聞きました。聞くと、ファッション業界にさまざまなオピニオンが渦巻くようになって以来、ファーを使ったルック、エキゾチックレザーのバッグ、それにヒールの高い靴などの写真を掲載しづらくなってしまったそうなんです。サステイナブルや倫理、それに#KuToo運動が盛り上がっているからですね。心中、お察しいたします。
かく言う僕も、2020年春夏シーズンは、ある言葉を使いづらくなってしまいました。「マスキュリン」、そして「フェミニン」という言葉です。それぞれフランス語で「男性的」「女性的」と言う意味の言葉ですが、「この時代『男性的』『女性的』ってナンナンダ?『男性的=力強い』?『女性的=繊細』?力強い女性もいるし、繊細な男性もいるぞ」。そう考えたら、筆(では書いていませんがw)が止まるのです。「男性的」なら「力強い」や「逞しい」、「女性的」なら「優しい」や「柔和」などに置き換えていますが、正しいのか間違っているのかは判断がつかず。気持ち悪いようでもありつつ、納得もしています。ちなみに、「フェミニスト」については、「男女平等を目指す人たち」と理解していますので、この言葉を使うことにはなんら抵抗感はありません。
相反する要素の両立や動きやすいシルエット、着想源になった名女優の生き方などを語りながら、「そのクリエイションは、現代を生きる多面的な女性に寄り添っているか、否か?」みたいな記事には、ずいぶん前に興味を失いました。「もう、そこから語る時代じゃないでしょう?」って思うんです。でも、この考えは、未熟で、稚拙な一面を有していることも否めないことは自覚しています。「僕が男だから」こんな風に考えるのかもしれませんから。「わかってない!」って言われちゃうことも覚悟しています。
そもそも、そんな言葉を操り、これまで「多面的な女性に寄り添うか、否か?」なんてことを論じていたコレクションのレビューというコンテンツの体裁さえ、ここ数シーズンは大きく変化しています。簡単に言えば日記に埋め込んでみたり、対談にしたり、インスタで質問を募ってから考えてみたり。“高尚っぽい”、真正面&大上段からのレビューは、僕に限ってはやめました。それでは、読者の裾野、ひいては業界の裾野は広がらない。少なくとも、「ファッション&ビューティなニュースの面白さをアナタにも」という感覚の「WWD JAPAN.com」には、他の形で読者を増やし、業界に貢献する方法があるのでは?と思っているからです。
新たなコンテンツについては、多少ネガティブなリアクションもあります。その大半は、「WWDジャパン」には、深い考察と高尚な提言を期待しているというリクエストでした。
くだけた記事が高尚じゃないとは思いません。下の記事は、実は「深い考察」のもと生みだしたつもりです。ただ、異論をくださるみなさんの気持ち、特に変わる前のコンテンツを読んでいてくださった皆さんの想いは理解しています。
むむ〜。僕の今季のコレクション取材は終盤戦ですが、やっぱり取材って難しいですね(笑)。何がベストなのか?その答えは、人によって、時代によって、器によって、相手によって違うから、答えは1つじゃないし、もしかしたら答えなんてないのかもしれない。そう思います。
私たちにできるのは、前回よりもベターを目指し、新しいことに挑戦し、それを振り返り、次につなげること。これを繰り返し、ベター、ベターよりベター、それよりもっとベターへとレベルアップしていくしかありませんね。それは、どんな仕事でも同じなのでしょう。
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