※この記事は2019年9月25日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから。
相対論と絶対論の「安い」を間違えるな
それぞれ1週間強のニューヨーク、そしてミラノ・コレクションの取材を終え、帰国しました。皆さん、海外旅行や海外出張から帰国して最初にするのはなんですか?お風呂に入る?お寿司を食べる?僕は、録画した朝ドラを一気に見ることです(笑)。
かつてこの質問に、「満員電車の丸ノ内線に乗る」と答えた女性がいました。「アクアガール(AQUAGIRL)」の笠原安代ディレクター(取材当時)です。お話を聞いた時の笠原さんは、ラグジュアリーなアイテムも数多い路面店から、PB中心の駅ビル店舗までを一手に担う司令塔。ランウエイショーとバイイングに追われるファッション・ウイーク期間中はラグジュアリーへの意識が高くなりますが、帰国したら、それだけじゃダメ。駅ビルのPBを“自分ごと化”するため、ターゲットの女性会社員同様、ラッシュで満員の丸ノ内線で揉みくちゃになることで自分のスイッチを切り替えるそうです。
なんてステキな話でしょう。とても共感したのを覚えています。
振り返れば仕事柄、最高の逸品に触れる機会も多く、30万円のコートや70万円の時計にも手を出しています。そうすると10万円のコートや30万円の時計は、相対的には「安い」ワケですが、世間一般の絶対論からしたら「高い」。10万円のコートを「安い!」とキャッキャしたり、30万円の時計を「手頃」と言う人間にはなりたくないな、と思っています。笠原さんの言葉は、常々そう思い続ける自分にとって、とても共感できる一言だったのです。
諸外国に比してほぼ唯一、この20年間で平均所得が増えなかった日本で暮らし、商品の値段は上がり続けるラグジュアリービジネスを取材する人間として、相対論と絶対論の識別はますます重要になってきたと感じます。今回もミラノでは、相対的に「安い」モノを、絶対的に「安い」と勘違いしているようなフシのある会話を何度か耳にしました。僕には違和感が残ります。
業界人が、自分たちの尺度で安易に発している言葉が、実は世間一般にとって受け入れ難く、結果、「ファッションは信用できない」と思わせる原因になってはいないか?エンドユーザーに向けて言葉を投げかける時は、気を引き締めなければ。そう思うのです。
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