2020年1~2月に出版されたファッション関連書籍の新刊情報を紹介する。今回はアパレル業界のキープレーヤーを総覧できる書籍や、アパレル業界の栄枯盛衰を描いた経済小説などの5冊。それぞれに関連性の高いニュースやコラム記事を添えてあるので、紹介した書籍とあわせて読んでいただきたい。
「『イノベーター』で読む アパレル全史」
(中野香織、日本実業出版社)
ビジネス面、クリエイティブ面のそれぞれでアパレル/ファッション業界に変革を起こした“イノベーター”人物列伝。前半はオートクチュールの祖チャールズ・フレデリック・ワース(Charles Frederick Worth)から始まるいわゆるデザイナー史的な人選が目立つが、中盤から後半にかけて本書独自の切り口が光る。傍流に位置付けられるバッグ、シューズ、フレグランスの分野で活躍した人々を扱った7章「グローバル・ニッチ市場で勝負するクリエイター」など、この類いの人物紹介で見落とされがちな領域までカバー。本書に紹介された業界のキープレーヤーは押さえておきたい。
「D2C 『世界観』と『テクノロジー』で勝つブランド戦略」
(佐々木康裕、NewsPicksパブリッシング)
アパレルに限らずあらゆる領域で必ず耳にしたことがあるはずの“D2C(Direct to Consumer)”。本書ではそのD2Cブランドの独自性を、いくつかの事例と既存ブランドとの対比により記していく。本書を読めばビジネストレンドワードとして近年話題になっているD2Cの基本的な要素を理解できるはず。機能性より世界観を重視するビジネスモデルは今後も話題の中心にあると思われる。いまあらためて本書をもとにその戦略を把握しておいて損はない。
「アパレル興亡」
(黒木亮、岩波書店)
史実を交えながら架空のアパレルメーカーの栄枯盛衰を描く経済小説。戦後から現在に至るまでのアパレル産業と日本経済の変遷がリアリティーと共に描かれている。一つのストーリーとして仕上げられているため、業界の時代背景をつかみやすい。入念な取材から得られた事実に基づく描写からそれぞれの時代の空気感を感じられるはず。当時の商習慣などにかつてのアパレル業界の姿が垣間見える。モデルとなった東京スタイルは現在休眠会社となっており、業界で残り続けることの難しさを感じさせるが、筆者いわく「アパレル業界は不滅で、人々の暮らしや社会の変化とともに、生々流転を繰り返す産業なのである」(「図書」2020年3月号、P.21)。事実は小説より奇なりといえば月並みだが、あらためてこの業界のダイナミズムの面白みに気付く一冊だ。
「三越 誕生! 帝国のデパートと近代化の夢」
(和田博文、筑摩書房)
呉服店からデパートへと変化する三越の歴史を追う。本書では、株式会社三越呉服店設立時に百貨店化の方針を示した「デパートメントストア宣言」から、現在の日本橋三越本店である三越呉服店本館新館がオープンするまでの1904~14年の10年間を詳細に記述していく。「日本人の夢も未来も、そこに行けば、並んでいた!」という帯のフレーズが秀逸。国内外への文化・流行発信の一端を担うこととなる三越の百貨店化の歩みと、日露戦争を経て帝国化していく近代日本の歩みは重なる部分がある。三越の歴史を読めば、日本の近代と当時の文化が見えてくる。
「かわいい! 少女マンガ・ファッションブック 昭和少女にモードを教えた4人の作家」
(倉持佳代子・図書の家 編集、立東舎)
少女マンガ誌のイラストは少女たちをファッションの世界に誘う一つの窓口として機能していた。1960年代前後に活躍した4人の作家にフォーカスした本書では、作家インタビューや研究者対談を掲載して少女マンガとファッションの関係に迫る。マンガの主人公が着ていたものと同じデザインの服をプレゼントする当時の企画など、興味深い記述が多い。300点超のイラストを全ページオールカラーで掲載。着せ替え人形カードを付録にするあたり、当時へのリスペクトを強く感じる一冊。少女マンガとコラボしたアイテムがランウエイを飾るなど、当時と異なるかたちでマンガとファッションは接近している。あらためてその関係性を考える一助に。
秋吉成紀(あきよしなるき):1994年生まれ。2018年1月から「WWDジャパン」でアルバイト中